自民党総裁選でナチス本賞賛の高市早苗氏の支持に回った安倍晋三・前首相。その狙いは総選挙に向けての極右支持層固めと自身の存在感PRだと見られているが、ここにきて、さらに露骨な言動に出た。
というのも、統一教会系の団体が開催したイベントに、安倍前首相はなんとビデオメッセージを送ったからだ。
そのイベントとは、12日にオンラインで開催された「THINK TANK 2022希望の前進大会」で、あのカルト宗教団体・統一教会(現在は世界平和統一家庭連合と改称。以下、統一教会)と天宙平和連合(UPF)が共同開催(「WoW!Korea」13日付)。UPFは2005年に統一教会の開祖である文鮮明(故人)と、その妻で現在の統一教会実質トップである韓鶴子が創設した団体だ。
そして、このバリバリの統一教会系イベントにビデオで登場した安倍前首相は、約5分間にわたってスピーチ。開口一番、にこやかにこう挨拶したのだ。
「ご出席のみなさま、日本国・前内閣総理大臣の安倍晋三です。UPFの主催の下、より良い世界実現のための対話と諸問題の平和的解決のために、およそ150カ国の国家首脳、国会議員、宗教指導者が集う希望前進大会で世界平和を共に牽引してきた盟友のトランプ大統領とともに演説する機会をいただいたことを、光栄に思います」
「今日に至るまでUPFと共に世界各地の紛争の解決、とりわけ朝鮮半島の平和的統一に向けて努力されてきた韓鶴子総裁をはじめ、みなさまに敬意を表します」
このスピーチの模様はまたたく間にネット上で拡散されたが、曲がりなりにも昨年まで総理大臣を務めていた人物が、堂々と統一教会の実質トップに敬意を表するとは、驚かずにいられないだろう。
実際、安倍前首相と統一教会は切ってもきれない親密な関係にあり、安倍前首相の祖父・岸信介が統一教会と政界をつなぐ役割を果たした「国際勝共連合」の設立に関与していたことは有名な話。さらに、安倍前首相自身も官房長官時代の2006年にはUPFの合同結婚を兼ねた集会に祝電を送ったことが発覚。全国霊感商法対策弁護士連絡会が「統一教会の活動にお墨付きを与える遺憾な行動だ」として安倍氏に公開質問状を出すなど問題となっている。
だが、このとき安倍氏は「私人の立場で地元事務所から『官房長官』の肩書で祝電を送ったとの報告を受けている。誤解を招きかねない対応であるので、担当者によく注意した」などと釈明。ところが、今回は「第90・96〜98代内閣総理大臣」として祝電どころか自らスピーチをおこなったのである。
さらに、あらためて安倍前首相と統一教会の深い関係を印象づけたのは、今回のイベントで安倍前首相の前にスピーチをおこなったのがドナルド・トランプ前大統領だったこと。というのも、トランプ氏が大統領に就任する前に安倍前首相は異例の“会談”をいち早く実現したが、このとき会談を仲介・お膳立てしたのも統一教会だと言われているからだ(詳しくは既報参照→https://lite-ra.com/2017/01/post-2871.html)。
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「共産党は破防法対象団体」のチラシまく「JAPAN Guardians」なる団体と統一教会の関係
もはや、統一教会との結びつきを隠そうともしない安倍前首相──。そして、この露骨な行動が総選挙に向けた運動なのは間違いない。
そもそも、安倍政権が発足して以降、統一教会と自民党との協力関係も非常に活発になっている。2013年の参院選では、安倍首相が強く推していた同郷の北村経夫・参院議員を当選させるために統一教会が露骨な選挙支援をおこない、2014年には日本統一教会の徳野英治会長の特別講演で安倍首相の側近である萩生田光一官房副長官(現・文科相)が来賓の挨拶をしている。ほかにも、衛藤晟一・前少子化担当相や稲田朋美・元防衛相など安倍首相の側近議員の多くが統一教会系のイベントで講演をおこなっている。
しかも、統一教会による選挙協力は、こうした表立ったものだけではない。
いま、『ひるおび!』(TBS)のレギュラーコメンテーターである八代英輝弁護士が「共産党はまだ『暴力的な革命』というものを、党の要綱として廃止してませんから」「よくそういうところと組もうという話になるな、というのは個人的には感じますね」などとデマに基づいて野党共闘を攻撃したことが大きな批判を浴びているが、統一教会も同じ手口で共産党・野党共闘潰しに動いているのだ。
最近、「JAPAN Guardians」なる団体が、総選挙を控えて「えっ? 日本共産党って警察庁や公安調査庁からマークされてる政党なの!?」と書かれたチラシを作成し、配布。そこには〈政府も「共産党は破防法対象団体」と閣議決定〉と記述されている。これは八代弁護士のデマ発言ならびに「私の認識は閣議決定された政府見解に基づいたもの」という釈明とまったく一緒の主張だが、このチラシは最後に〈共産党は「普通の政党」でないことは明らかでしょう。野党を支持する皆様も共産党との“共闘”を本気で支持しますか?〉と畳み掛けている。
また、この「JAPAN Guardians」は、2019年の参院選前にも「『令和』を批判する日本共産党にNO」と題したチラシを各地で配布していた。
そして、この「JAPAN Guardians」なる団体こそ統一教会の別働隊なのだ。実際、「JAPAN Guardians」のHPのアカウントは、安保法制に反対する学生団体・SEALDsに対抗するかたちで安倍政権や改憲支持の活動をおこなってきた国際勝共連合の学生部隊「勝共 UNITE」(旧・国際勝共連合 大学生遊説隊 UNITE)や「国際勝共連合オピニオンサイトRASINBAN」と同一であるとしんぶん赤旗が報道。さらに、〈3つのHPにアクセスした利用者の動向を確認する解析サービスも同一のアカウントから行われており、ジャパン・ガーディアンズのHPが勝共連合関連団体のHPと同一の人物か組織によって管理されていることが確認〉されたというのである。
総選挙を控え、野党共闘潰しのためにデマを書き立てたチラシを配布する。このように自民党を利する働きをしていることを考えれば、安倍前首相が統一教会のイベントでスピーチをおこなうのも“選挙運動”の一環なのだろう。
安倍が統一教会の家族観を賞賛、夫婦別姓や同性婚を想定して「偏った価値観の社会革命運動に警戒」
しかも、問題なのは、安倍前首相はこうした統一教会による選挙協力に利用しているだけではなく、その政策もほとんど一体化しているという点だ。
たとえば、勝共連合が掲げる〈自主憲法制定運動〉については、〈「人権」の過剰を是正し「義務」を示す〉〈「家族条項」をもる〉〈9条を改め軍事力の保持を明記する〉との見出しが踊り、教育分野についても〈改正教育基本法に基づいた教育の再生〉〈日教組による偏向教育を正せ〉〈愛国心と家庭教育の充実〉と、完全に安倍前首相の言うことなすことと同一なのだが、一方、安倍前首相は今回のスピーチで、このように語って統一教会を褒め上げていた。
「UPFの平和ビジョンにおいて、家庭の価値を強調する点を高く評価いたします。世界人権宣言にあるように、家庭は社会の自然かつ基礎的集団単位としての普遍的価値を持っているのです。偏った価値観を社会革命運動として展開する動きに警戒しましょう」
周知のように、統一教会は同性婚などを敵視するゴリゴリの保守的家族観を有しているが、ようするに安倍前首相はその統一教会の家族観を称賛し、憲法に保障された「個人の尊重」に基づいて同性婚や夫婦別姓の実現を求める声を「偏った価値観の社会革命運動」だと非難、「警戒せよ」と呼びかけたのである。
さすがは下野時代に「夫婦別姓は家族の解体を意味する」「夫婦別姓は左翼的かつ共産主義のドグマ(教義)」などと主張していただけあるが、このように、女性や性的マイノリティの権利を毀損する思想に共鳴し、共有することを隠そうともしない安倍前首相には、もはやぞっとするほかない。
しかし、もっと背筋が凍るのは、次期総理大臣を決めることになる自民党総裁選においてもこの思想が共有されている、ということだ。
実際、安倍前首相が支持に回っている選択的夫婦別姓反対派の急先鋒である高市早苗氏はともかくとして、岸田文雄氏は選択的夫婦別姓制度の早期実現を目指す議員連盟に参加していたはずなのに、総裁選で安倍前首相に尻尾を振るために「引き続き議論をしなければならない」などと後ろ向きな発言をおこなう始末。安倍前首相と面会したあとに原発再稼働容認や女系天皇の否定を口にするなど変節ぶりを見せた河野太郎氏も、昨年12月には選択的夫婦別姓制度導入について「党議拘束外して議論を」と発言していたというのに出馬表明会見や政策パンフレットではその是非に触れなかった。
つまり、前首相がカルト宗教団体のイベントで平然とスピーチをおこなうという問題だけではなく、前首相がその団体と極右思想で共鳴し合い、その思想が次期首相を決める総裁選でも“踏み絵”となっているのである。
本格的な野党共闘に乗り出した立憲民主党の枝野幸男代表は総選挙での公約に選択的夫婦別姓の制度化や性的マイノリティ平等法の成立などを掲げ、「自民党内は強硬な反対論が大方を占めており、誰が総裁になろうとできない。政権を代えないといけない」と述べたが、まさしくそのとおり。安倍前首相が幅を利かせるかぎり、この異常な人権後進国の状況からは脱することはできないのである。(編集部)