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ロシア軍が化学兵器を使ったとされる場所は、ウクライナ東部の要衝マリウポリ。ウクライナの戦闘集団「アゾフ大隊」は、ドローンから有毒な化学物質を投下され、3人に呼吸障害が出たと主張している。
ゼレンスキー大統領も11日、化学兵器使用の可能性について「最大限深刻に受け止めている」と警戒感を強めた。
やはりロシアは化学兵器を使用したのか。一体、何が使われたのか。軍事ジャーナリストの世良光弘氏がこう言う。
「英米当局が事実関係を確認中ですが、被害者の症状を見る限り、使われたとすればサリンやソマン、タブンなどの神経剤だと考えられます。神経系統にダメージを与えるので、呼吸困難や失明、最悪の場合は心肺停止に至る。ただ、報告されている被害者が3人と比較的少ないことから、大規模な攻撃ではないでしょう。恐らく、小型ドローンを使い上空から神経剤をガス状にして散布したのではないか。農薬散布のような方法を用いた可能性があります」
使用が疑われているサリンは、人が吸入した場合、投与された対象の半数が死ぬ「半数致死濃度」は1立方メートルあたり70ミリグラム。かなり毒性が強い。
疑惑に関し、親ロシア派武装勢力は12日、「いかなる化学兵器も使用していない」と真っ向から否定。ロシアは「国内に化学兵器はない」と言い張っているが、過去を振り返ると大量保有している恐れがある。
化学兵器保有量は世界1位の約4万トン
ロシアは化学兵器の開発・生産・貯蔵・使用を全面的に禁止する「化学兵器禁止条約」の締約国だ。条約発効の1997年当時、化学兵器保有量は世界1位の約4万トン。うち約3万2000トンはサリンなどの神経剤が占めていた。
「原則10年以内に化学兵器を全廃する」との取り決めを受け、期限を延期しながら2017年にようやく廃棄完了を宣言。ところが、翌18年にイギリスでロシアの元スパイ親子の毒殺未遂事件が発生し、ロシアによる化学兵器の生産・使用の疑惑が浮上。事件で使われたのは、かつてロシアが開発した神経剤ノビチョクだった。
■ノウハウさえ分かればいつても再生産可能
「化学兵器はノウハウさえ分かっていれば、いつでも再生産可能です。国際機関が廃棄のプロセスを査察しているとはいえ、ロシア側が『全廃した』と報告したに過ぎず、いまだにトン単位で保有していたとしても不思議ではない。ロシアが一線を越えたとすれば、怖いのは西側諸国が対抗策として、より強力な武器の供与に踏み込む可能性があること。例えばNATOが戦闘機などの大型武器を供与し始めたら、戦闘激化は必至です。それこそ第3次世界大戦という最悪のシナリオになりかねません」(世良光弘氏)
英国防省の12日の戦況報告によれば、「今後2、3週間、ウクライナ東部での戦闘が激化する可能性がある」という。非人道兵器といわれる「白リン弾」が使用された可能性も出てきた。ロシアの“禁じ手”が世界大戦を招いてしまうのか。