特定の地域だけで流通する「デジタル地域通貨」が東京23区で広がりつつある。地元のお金を地元のお店で使ってもらう「地産地消」を促したい各自治体による地域活性化策の一環。もともと地方を中心に導入が進んできたデジタル地域通貨が都内でも広がる現状や背景は―。(大島宏一郎)
◆商店街の活性化に期待
2021年2月、世田谷区で始まったデジタル地域通貨「せたがやPay(ペイ)」。使い方は、スマートフォンの専用アプリを取得したうえで、セブン銀行の現金自動預払機(ATM)経由で入金。買い物時には店頭のQRコードをスマホで読み取ることで、現金を使わないキャッシュレス決済ができる仕組みだ。
「平たく言うと、QRコード決済サービス『PayPay(ペイペイ)』の地域限定版です」。システムを提供するIT会社「フィノバレー」(港区)の川田修平社長(46)は、そう例える。区内の約2000店で使えるのが特徴だ。
◆加盟店の手数料負担ゼロ
ペイペイなど民間の決済サービスとの違いは、加盟店に手数料の負担を求めていない点だ。代わりに区はシステム構築費用や運用費をフィノバレーに支払う。手数料をとらないことで、決済のたびに区外の決済事業者に手数料が流れることがなくなり、「お金の流出」を抑えることができる。
加盟店のコーヒー専門店「珈琲家あのころ」の齋藤紀亨副社長(44)は「手数料ゼロは助かった」とし、「30代以上の人を中心に新規顧客の集客につながった」と続けた。
◆渋谷区や板橋区も導入予定
消費者も入金時や決済時に付与されるポイントや期間限定のポイントキャンペーンなど「お得感」がある。「入金時に多くのポイントがついた。商店で数万円の買い物をした時に使えて便利だった」。せたがやペイの利用者で区内在住の40代女性は、中学に入学する息子の制服を買った時のことを振り返る。
世田谷区以外にも導入は広がる。渋谷区は9月に開始予定。ごみ拾いなど地域活動の参加者にポイント付与する案を検討する。板橋区も今秋から始める予定。こうした取り組みが広がる背景を、慶応大の保田隆明教授は「都心でも人口減が見込まれる中、各地域は商店街を維持するなど、住みやすい街づくりを進める必要が出ている」と指摘。地域通貨は住民が地域の商店街に愛着を持つきっかけになるといい「住民と地域のつながりを強めるのに役立つ」と話している。