東京女子医科大(東京都新宿区)の同窓会組織「至誠会」を巡る一般社団法人法違反(特別背任)事件で、警視庁捜査2課の捜査の端緒は、大学トップの強引な経営手法や不透明な資金の流れに対する、内部関係者からの怒りの告発だった。医師や看護師の退職が相次ぐなど混乱が続き、同大病院の患者からは不安の声も上がる。(佐藤航)
「ようやくこの日が来た。ここから大学が変わっていってほしい」。捜査2課が大学本部や岩本絹子理事長の自宅などを一斉捜索した3月29日、大学に駆けつけた卒業生の医師は、母校再生への期待を短い言葉に込めた。
◆「側近」に不透明な給与
捜査関係者によると、特別背任の疑いが持たれているのは、至誠会が運営する「至誠会第二病院」所属だった、いずれも50代の男性事務長と女性職員。勤務実態のない女性に給与を支払い、会に損害を与えた疑いがあるという。関係者は「2人は至誠会の当時の会長でもあった岩本氏の側近」と話す。
女子医大卒の岩本氏は2014年に副理事長、2019年に理事長に就いた。女子医大病院では2000年以降、小児患者が死亡する医療事故が続き、診療報酬の優遇措置が取り消されるなどして経営が悪化した。岩本氏は医師らの給与抑制や事務方の人員整理を進め、15年度決算で約38億円あった赤字を圧縮。19年度決算では約33億円の黒字に転換させた。
◆コストカットでPICUチームを失う
急激なコスト削減に「医療体制を弱体化させた」との批判が噴出した。待遇や職場環境の悪化で医師や看護師の退職が相次ぎ、海外から迎え入れたばかりだった小児集中治療室(PICU)のチームはまるごと他大学に移籍。大学の報告書によると、22年度の医療系職員は約2800人で、14年度から約500人減った。
一方で、不透明な資金の流れが浮かぶ。昨年3月には卒業生の一部が、大学の資金を不正に取引先に流して損害を与えたとする背任容疑で、岩本氏を刑事告発。至誠会は、理由なく側近職員に破格の給与を与えたなどとして、岩本氏らに対して約1億4000万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。大学関係者は「職員に我慢を強いながら、側近を厚遇し、不正に資金を動かしていたのであれば、許されない」と憤る。
◆患者ら戸惑い
混迷が続く大学に、患者の家族からは戸惑いの声が上がる。大学病院で息子が治療を受ける女性は「現場スタッフは誠実に患者と向き合っている。医療従事者が本来の力を発揮できないような経営には疑問がある」と指摘。子どもがPICUに入っていた別の女性も「混乱によって小児PICUチームが大学を去ったのなら、患者の家族としてはやり切れない」と訴えた。
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