物価高対策、各政党の公約は? 賃上げを掲げているけど、家計の負担増は解消される?
10日投開票の参院選では、与野党が補助金や減税など物価高への対策を打ち出している。だが、その場の痛みを和らげるための対症療法的な政策が目立ち、経済の専門家からは「本格的な賃金増につながる日本経済の活性化策は少ない」との指摘が上がる。物価対策について、各党の公約をあらためて比較した。(坂田奈央、原田晋也、村上一樹)
自民党は石油元売り会社への補助金で燃油価格を抑制する措置を継続すると主張。公明党は、ガソリン価格を一時的に引き下げる「トリガー条項」の制度見直しも含め「実効性ある原油価格高騰対策について引き続き検討する」とした。
与党の政策に対抗する形で、野党各党は、物価高で苦しむ家計を直接支援する政策を重視する。国民民主党、共産党、れいわ新選組、社民党は現金給付を掲げた。立憲民主党など野党七党はいずれも消費税の減税か廃止を公約に盛り込む。一方、自民、公明両党は減税に反対だ。
これまでの各党の主張について、第一生命経済研究所の熊野英生氏は「長期的な信任を問う政策より、短期的な関心を得ようとする政策に流れている」と分析。その上で「政府からお金が欲しいのではなく、景気が良くなって給料やボーナスが増えてほしい、というのが民意ではないか」と指摘する。
物価上昇に対しては、それを上回る賃金増が最も効果があるとされる。そのため、各党は賃上げに取り組むともアピール。目標金額に違いはあるものの、最低賃金の引き上げを明示している点は共通する。しかし、目標先行で、日本企業が持続的な賃金増に動くような経済の好循環を生む「成長戦略」の議論は乏しい。熊野氏は「経済全体を良くする公約はほぼ不在。新たな考え方を次々と打ち出して議論を引っ張る姿勢が必要だ」と選挙終盤戦に注文をつける。
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◆首相は「欧米に比べて抑制」と言うけど…
岸田文雄首相は物価高について「欧米諸国に比べ、日本は抑えることができている」と強調するが、エコノミストから疑問の声が出ている。物価の値上げ幅は欧米の方が大きいが、物価の影響を加味した実質賃金のマイナス幅ではそれほど差はなく、家計への負担増という意味ではあまり変わらないからだ。首相はエネルギー価格高騰への対応も強調するが効果は限定的といえそうだ。(金杉貴雄)
首相は「物価高騰は欧米諸国の7、8%と比較し、わが国は2%台に抑えることができている。物価高騰対策はしっかり行っている」などと主張している。
第2次安倍政権時代に日銀の審議委員を務めた野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は「物価高の影響は欧米に比べ小さいとは言えない。賃金上昇率が著しく低い日本に、2%の物価上昇はかなり高い」と続けた。
◆実質賃金で比べてみると…
首相が指摘するように、日本と欧米の物価上昇率の差は大きい。しかし、4月の名目賃金(前年同月比)は、米労働統計局によると米国はプラス5.5%、英国家統計局によると英国はプラス6.8%。一方の日本はプラス1.3%と大きな開きがある。その結果、4月の実質賃金でみると、米国はマイナス2.6%、英国はマイナス2.7%。日本はマイナス1.7%とそれほど差はなくなる。
木内氏は、日本と欧米の実質賃金を単純比較できないとしながらも「日本は名目賃金の上昇が抑えられている分、わずかな物価上昇でも欧米よりダメージは大きくなりかねない」と指摘。さらに「日本の実質賃金のマイナス幅は拡大していく」と予測する。
首相は物価高対策として「エネルギー、食料品に集中して対応する」と説明し、4月にまとめた物価高対策にガソリン・灯油の価格抑制策を盛り込んだ。ただ、家計のエネルギー関連消費で、ガソリン・灯油の費用は3分の1に満たない。
首相は電気料金の高騰対応で節電プログラムに参加すると2000円分のポイントを支援すると打ち出したが、「料金上昇分の1割程度しか相当しない」と、木内氏は効果に疑問を投げかける。
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