今月月18日に韓国中西部の黄海で違法操業していた中国漁船を、韓国海洋警察庁の警備艇が取り締まろうとして漁船に乗り移ろうとしたところ、乗組員が鉄パイプを振り回すなど猛烈に抵抗し、海洋警察官が骨折するなど負傷した。漁船は警備艇に体当たりして転覆し、海に投げ出された10人の乗組員のうち1人が死亡し、1人が行方不明になった
この海域は韓国が排他的経済水域としていて、排他的経済水域というのは1982年の国連海洋法条約で、沿岸から200海里(370キロ)までの海域を沿岸国の経済的主権が及ぶ範囲と定めたものだ。この水域では、沿岸国は海洋や海底下の生物資源、鉱物資源の探査や開発、保管と利用について独占的権利をもつことが認められている。事件があった海域は韓国中西部の於青島(オチョンド)の北西約130キロと言うから、明らかにそこは韓国の排他的経済水域内だろう。これまでにもこの海域で、毎年300隻以上の中国漁船が韓国側に拿捕されているとのことだ。
ところが例によって中国は黙ってはいない。中国外務省の報道官は記者会見で、韓国側に取り締まる権利はなかったとして、真っ向から反論した。その理由については、「中韓の暫定的な水域で起きたもので、両国の漁業協定では、それぞれの当局が自国の漁船を管理し、違法操業に関しては、相手側に通知することになっている」として、そのうえで韓国政府に対して、損害賠償や関係者の処分を求めたことを明らかにした。
韓国の排他的水域内で起こったことは認めようとしないばかりか、韓国の警備艇に体当たりしたり警察官に傷を負わせたりしたにもかかわらず、韓国側に損害賠償や関係者の処分を求めるとは、無理押しも極まったというものではないか。牽強付会と言うか、自分に都合のよい論理を強引に押し通そうとするのは大国主義の露骨な表れに思える。
韓国のあるブロガーによると、中国のネットユーザーらが自国の漁民が死亡したことに対して韓国を非難し、「米国の追従者である韓国がわが国を刺激しようとしている」、「韓国の挑発行為に反撃しよう」、「われわれは北朝鮮が米韓同盟を破壊できるように助けるべき」といった書き込みが多く寄せられたと紹介している。その上で、このブロガーは「まともな思考ができない中国のネットユーザーらのこのような発言からみると、わが国は無視されている。本当に悲しいことだ」と言っている。また別のブロガーは、今回の事件をうけ、「中国人に対する印象が悪くなってしまった」と述べ、「中国人はいつも自分たちが“最高だ”と思っている」とし、こんな大国意識を持っている中国人たちの無謀な行為が、中国全体に恥をかかせていると言っている。
ノーベル平和賞に対してノルウェーに圧力をかけたりしたことなど、とかく最近の中国の言動は何か「そこのけ、そこのけ、中国様のお通りだ」というような思い上がりのようなものを感じる。結局は経済的には大国になったというだけの成金国家のような気もする。国としての有りようがそうだから、国民の一部も偏狭な愛国主義に浮かされ、尖閣諸島の事件で逮捕された漁船の船長(逮捕された時は立っておれないほど泥酔していたとも言われているが)のような輩を英雄扱いするから、国家の庇護を受けているから何をしてもよいと勘違いした品性の低い連中が思い上がって、今回の黄海上の事件のようなことをしでかすのだ。
中国と友好関係にある北朝鮮やミャンマーは別にして、アジアの国々は覇権主義にも見える中国の振る舞いにはおそらく警戒心を深めているのではないか。それは中国にとっても決して良いことではない。おそらく現在の指導層にもそれを心配する向きもあるのだろうが、今は対外強硬派が力を持っているのだろう。もしそれが軍部の力と結んだら、もっと厄介なことになるのではないだろうか。真に大国としての分別と品格を備えた国になってほしいと思う。