前にも書いた、鮭の腎臓の塩辛のメフンが気に入ってから、改めて珍味類に興味をもち、読んだ本からの刺激もあって取り寄せてみた。
としろ
岩手三陸海岸産の鮑の肝の塩辛。見た目は少々グロテスクでもあるが味は濃く、磯臭い香りが口中に広がり美味である。少々癖はあるが酒肴としては喜ばれるだろう。腸も一緒に漬け込んであり、これは歯ごたえがある。「としろは7回以上洗うこと」と伝えられているとかで、砂抜きが大変なのだそうだ。
サンマの熟鮓(なれずし)
小泉武夫『くさいはうまい』(文春文庫)の「熟鮓」の項に次のような記述がある。
新宮市に東宝茶屋という料亭があり、ここには「食の化石」あるいは「食の世界遺産」とでも表現したいほどの珍味中の珍味があります。サンマの熟鮓を三十年も寝かせた「本熟(ほんなれ)」がそれで、粥状に溶けたサンマや飯があたかもヨーグルトのような様相と風味を呈しています。私はこれを初めて口にした時、熟鮓の素晴らしさの原点に触れたような思いで感動したものでした。
これを読んで、サンマの本熟にむらむらと興味が湧き、新宮(和歌山県)の東宝茶屋に電話して取り寄せた。
送られてきたものを見ると、なるほどヨーグルトのようにどろりとしていて、溶けかけた皮や身の一部があるのが見える。嗅いでみると発酵臭はそれほど強くない。箸の先につけて舐めてみると軟らかい酸味があり、食欲が湧いてくるようだ。期待していたとおり旨く、酒の肴にするとよいことは私のような酒をほとんど嗜まない者にも分かった。