私は高田郁(たかだ・かおる)の時代小説で、若い女料理人を主人公にした『みをつくし料理帖』(角川春樹事務所)のシリーズが好きなのだが、その1つに、大坂(浪花)生まれの女主人公がふとしたことから知り合い、助力した味醂造りの職人から「こぼれ梅」というものをもらって喜び、大坂を懐かしむというくだりがある。
この話を読んで、こぼれ梅というものがあったなあと思い出した。ずっと以前に食べたことがあるのだが、そのときにはあまり美味しいとは思わず、長い間に忘れてしまっていた。それで急にほしくなり、Hg君の奥さんに話したら買ってきてくれた。久しぶりに口にしたこぼれ梅は、ほのかなアルコールの香りがして上品な甘さがあり、美味しいと気に入って、150グラムの袋をすぐに空にしてしまった。
こぼれ梅は味醂を造るときに出る絞り粕で、関西では昔から、神社の参道や商店街でおやつとして売られていたようだ。私が住む市に、清荒神清澄寺(きよしこうじん せいちょうじ)という真言三宝宗の寺院があり、その参道にはこぼれ梅を商う店が何軒かある。しばらく出かけたことがないので、こぼれ梅を求めて行ってみた。私の家から10分ほどの私鉄のターミナル駅から1駅のところだ。
こぼれ梅の原材料は、もち米、米麴、焼酎(または醸造アルコール)で、梅の成分はまったく入っていない。
口に入れて噛むとほのかなアルコールの香りと上品な甘さがあって素朴で美味しい。ちょっと量を過ごすと、私のようなアルコールに弱い者は軽い酔いを催すから、まったくの下戸にはだめだろう。
見た目が梅の花が散りこぼれているような感じからつけられた名で、風情があるネーミングだ。