漢方、漢方薬と言うと、何とはなしに中国の医学、薬という気がしていていたが、これは私の認識不足で、漢方(漢方医学)とは「古代~近世まで、大陸から断が続的に伝来する経験医学を独自に体系化した、日本固有の医学である。特に江戸期には黄金時代を迎え、この時代の成果の多くが中国に逆輸出され、近年、現代中医学が形成される上で大きな影響を与えた」とある(Wikipedia)。
中医学とは西洋医学(西医)に対する中国の医学という意味で、中国での呼び方である。日本語の漢方薬に相当することばは、中薬と言い、漢方薬店に相当するのは中薬店と言う。私はそれを知らなかったので、中国ではよくガイドに「漢方薬店に行きたい」と言ったが、分かってくれていた。西安の李真は、昔の人は漢方と言ったでしょうと言っていたが、これは中医学が確立する以前の日本の漢方医学の影響があった頃のことだろう。要するに漢方は日本で発達した医学で、西洋医学(蘭学)が入ってくるまでは、これが普通だった。
私は漢方薬に傾倒しているほどではないが興味、関心があって、いくつは毎日か時々服用している。毎日服用しているのは「六味地黄丸」と言うものだ。もうだいぶ前から飲んでいるが、体の弱った機能を補い元気をつけ、ことに、足腰や泌尿器など下半身の衰えに最適で、一般的に体力の低下した中高年に用いることが多いと言う。前立腺肥大症や糖尿病にも適応するそうだ。 効いているかと尋ねられると返答に困るのだが、まあそれなりに体力は維持できていると言うところだろうか。今飲んでいるのは、昨年西安で買ったもので、日本では漢方薬はちょっと高いが、中国ではとても安い。六味地黄丸の成分は、地黄(ジオウ) 、山茱萸(サンシュユ) 、山薬(サンヤク) 、 茯苓(ブクリョウ) 、沢瀉(タクシャ) 、牡丹皮(ボタンピ)の 6種で、このような自然の草木からとったものを「生薬(しょうやく)」と言う。
風邪かなと思ったときに飲むのは「葛根湯」で、これは私にはとても効くと思っている。そのせいか、もう何年間も風邪を引いたことはほとんどない。肩凝りにも効く。葛根は葛の根を干した生薬で発汗作用・鎮痛作用があるとされ、日本薬局方に収録されている。江戸時代には免許がなくても医師になることができ、中にはずいぶん怪しげな者もいて、どんな病気にも葛根湯を煎じて与えるので「葛根湯医者」と揶揄された。李真は、息子が風邪を引いたときには「板藍根」という薬を飲ませるそうだが、よく効くと言った。
葛
板藍根
食べ過ぎて胸焼けしたり、胃もたれした時には、「陀羅尼助丸(だらにすけがん)」を飲む。陀羅尼助(だらにすけ)とは日本古来の民間薬で、いわゆる漢方薬ではない。黄檗(黄柏オウバク)を主成分にしたもので、製法はオウバクの皮を数日間煮詰めて延べ板状にする。非常に苦いもので 僧侶が仏教で唱えられる呪文である陀羅尼を唱えるときに、これを口に含み眠気を防いだことから陀羅尼助と呼ばれたが、和薬の元祖とも言わrれ、1300年前(7世紀末)に疫病が大流行した際に作られたと伝承されている。修験山伏の持薬でもあったそうだ。前にHg君の家で奥さんが、小分けした陀羅尼助丸を分けてくれようとした時に、Hg君が「そんなもん、効かへん、効かへん」と一笑したが、私にはとても効果がある。寝る前に胃もたれしていても飲むと一晩で治る。Hg君には効き目がなかったのか、民間薬を信用していないのかも知れない。
奈良県吉野で
日本には漢方専門医も漢方薬専門店もあまり見かけないが、精製した漢方薬の錠剤や散薬はどこの薬局にも売っている。中国にはどこにも大きな中薬店があるが、私は店内に漂う薬草(生薬)の香りがとても好きだ。だいぶ前に西安に行った時にひどく肩が凝り、気分が悪くなったので、西安中医院に行ったことがあるが、担当の医師はと手も親切に治療してくれたし、治療費は驚くほど安かった。
中国の作家の魯迅は当時の古い中国医学を嫌悪していたが、その頃の中国医学は呪術的な怪しげなものでもあり、魯迅の父親はそのために亡くなったようだから、なおさら憎んでいたのだろう。今でも漢方、漢方薬と言うと、本当に効果があるのかと思う向きもあるようだが、長い歳月をかけて研究され、経験的に応用されてきたものだから、徒に軽んじることはない。西洋医学と漢方を併用して治療に当たっている医師や病院も少なくないようだ。漢方薬は西洋医学の薬のように即効性は少ないが、長期的に緩やかに症状を改善すると言われている。