私が読んでいる新聞に「特派員メモ」というコラム欄があり、世界各地に派遣されている特派員が寄せる記事はなかなか面白い。最近「英語を強制 おごるなかれ」と題するニューヨークのK特派員のコラムが載っていた。
国連本部前の公園であった、今年のノーベル平和賞の受賞者となったイエメンの人権活動家タワックル・カルマンさん(32)の記者会見で、米国の大手放送局の記者達が「英語でしゃべって。じゃないと放送できない」と声を張り上げたという。「英語は得意ではありません」と当惑する彼女に、米国人記者は「片言でいい」と食い下がった。カルマンさんは悩んだ末に「正確に伝えたい」ということで母語のアラビア語で話し、通訳が一文ずつ英訳したので、米国人記者達から溜息が漏れたそうだ。どうしようもない人物だとでも思ったのか。
会見後K特派員は米国人記者達に「失礼ではないか」と尋ねると、猛反発された。「英語は世界共通語だ」とか、「彼女が英語で話す映像は、世界中で放送される」と言うのだ。K特派員は「異論はないが、英語を強制する姿には『自分たちが世界標準』というおごりを感じる」と書いている。カルマンさんがアラビア語で話したのは、母国イエメンの人々を励ます意味もあったとK特派員は後で関係者に聞いたとのことだが「カルマンさんの思いに、米国人記者たちも気づいてほしかった」と記事は結ばれていた。
公の場で「片言でもいいから」と英語で話すことを強制するのは、記者達のおごり以外の何ものでもない。記者達の使命は、発言者の考えを正確に伝えることだろう。片言の不完全な英語で発言者の真意が理解されるのか。何語であれ、発言者の母語で話すのを正確に英語に通訳すれば十分ではないか。カルマンさんと米国人記者達の品性、知性の差は歴然としている。
国連で使用されている公用語は6言語で、中国語、英語、フランス語、ロシア語、スペイン語に、1973年にカルマンさんの母語のアラビア語が追加された。また公用語としての英語は、米国人記者達の多くが話しているだろうアメリカ英語ではなくイギリス英語だ。米国人記者達は、自分達が話すことば、アメリカ英語(英国人からするとスラングだ)が世界標準と思っているのかも知れない。洋の東西を問わず、マスコミの記者には、知性が低く、狭い視野とおごりが身についてしまっている者がいるらしい。