小学生か中学生だった頃のある晩、部屋の電灯の笠の縁に、小さい植物のようなものがあるのを見つけた。細い2センチくらいの糸の先端に小さい卵形の粒が付いているのが何本か固まって「生えて」いた。その時に既に知っていたのか、後で知ったのかは覚えていないが、それは「うどんげ」だった。
インタネットより
「うどんげ」は優曇華と書き、法華経に書かれた伝説の花で、3千年に一度如来が来るとともに開花するというものだが、私が見たものはもちろんそんな尊いものではなく、クサカゲロウという昆虫の卵だ。
インタネットより
クサカゲロウは夜行性で灯火に集まる。成虫が草色の体色をしているからとか、臭い匂いを出すからという説があり、 草蜉蝣とも臭蜉蝣とも書かれる。 私は残念ながら成虫は写真でしか知らないし、卵を見たのも1回きりだが、今でもその時のことを懐かしいような気持ちで思い出す。
「かげろうの命」と言うと、人の命のはかないことの喩えだが、この「カゲロウ(蜉蝣)」はクサカゲロウではなく、水辺を飛びまわり、交尾・産卵を終えると数時間で死ぬと言う、まことにはかないもので、モンカゲロウなどいろいろな種類がいる。
インタネットより
カゲロウという名がつくものには、ウスバカゲロウ(薄羽蜉蝣)がある。
Wikipediaより
この幼虫は「アリジゴク」として知られている。中学生の頃、ちかくの八幡神社の倉庫に行くと、その縁の下の乾いた砂地のあちこちに小さなすり鉢上の穴がある。
Wikipediaより
そこにアリを落としてやると、穴の底で何か黒っぽいものが動いて、アリに向けてパッパと砂をかける。アリは穴の斜面を登って逃げようとするが、ただでさえ滑りやすいのに砂をかけられるから、やがて底に落ちるとその黒いものに砂の中に引き込まれ、やがて元のように静かになる。アリの悲鳴が聞こえるようなこのいささか残酷な光景を、少し怖い思いをしながら眺めていたものだった。蟻地獄とはよく名付けたものだ。怖々と穴を掘り返すと、大きな角のような顎を持った奇怪な虫が出てくる。それを砂の上に置くと、尻のほうからすばやく潜っていき姿を消してしまう。それからどうやってすり鉢状の穴を作るのかは見届けたことはなかった。
Wikipediaより
次男はこのウスバカゲロウのことを「薄馬鹿下郎だ」と言って笑ったが、このたび亡くなった北杜夫さんが『どくとるマンボウ昆虫記』の中で言っているそうだから、その受け売りだったのかも知れない。
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