東京電力集金人 (50)東電が3年ぶりの、黒字
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/34/16/d61e84dfc2537fc58a24846ef23d34ba.jpg)
東京電力が、2014年3月期の連結純損益が4386億円の黒字(前の期は6853億円の赤字)
になったと、広瀬直己社長が記者会見で発表した。
市場は6743億円の黒字が出ると予想をしていたが、数字はそれを下回った。
電力料金の引き上げと、石炭などコストの安い燃料を増やしたことが奏を功したと説明した。
東電の最終損益の黒字転換は、4期ぶりのことになる。
東電は14年3月期の連結最終損益が、6610億円の黒字になると値上げ当初から見通しを示していた。
だが、15年3月期にむけての連結業績予想の発表は、大方の予想を裏切り見送った。
理由として挙げたのは、柏崎刈羽原発の再稼働が明確にならないためだ。
電力料金の値上げのおかげで、東電の売上高は6兆6314億円に膨らんだ。
前期の売り上げは、5兆9762億円。
営業損益は、1914億円の黒字(前期は2220億円の赤字)になった。
広瀬直己社長は記者会見で増収の理由について、「販売する電力量は減ったが、
単価の上昇と、値上げ要因がフルで入った影響が出た。
石炭火力の復旧で、燃料費の高い石油火力からのシフトが進んだ結果だ」
と会見で明らかにした。
おいおい、東電はずいぶん儲かってるじゃないか、と誰もが一様に驚いた。
2014年に入り、東京電力の中間決算が1900億円の黒字に転換。
そのほかの電力会社の業績も、軒並み急速に回復ぶりを見せている。これはいったいどういう事だ。
「原発の再稼働がなければ経営が成り立たない)と電力の各社が強調をしていたが、
すべての原発が停止中だというのに、実際は、黒字化が凄い勢いですすんでいる。
集金業務の下請けに過ぎない俺たちの営業所にも、このニュースを聞いた瞬間から、
消費者たちから、抗議の電話が何本も立て続けにかかってきた。
その日のうちから、集金業務にも支障と影響が出てきた。
ある女性集金員は、「なにが黒字だ。納得できんうちは絶対に払わん」と門前払いの憂き目にあった。
ベテラン集金員は抗議の声にしつようなまでに食下がったが、
「原発の再稼働を絶対条件にする、東電の経営方針にはうんざりした。
黒字が出たというのに、新潟で停止中の刈羽原発の再稼働が認められない場合は、
年末にまた、電気料金の値上げを予定しているとは言語同断だ。理不尽な理屈は聞き飽きた。
納得できる回答を持って出直して来い。今日は気分が悪いから、電気代は払わん」と、
さんざんに威張られたあげく、結局、彼もまた玄関先で追い返された。
似たような反応と苦情の話は、いたるところで爆発をした。
「このままでは集金の達成率が70%どころか、50%以下まで激減しちまう」と不満を胸に、
集金人たちが事務所へ、渋い顔で戻ってきた。
「所長はこの黒字化のことを事前に知っていたんですか」と、激しく詰め寄る集金員もいる。
「知るもんか。東電が早期の黒字化を目指していることは知っていたが、
こんなにも早く、黒字が達成できるとは思わなかった・・・俺も晴天の霹靂(へきれき)だ」
「所長は机に座っているだけだから、わしら集金員の苦労なんか分からんでしょう。
東電が不祥事を明らかにするたびに、わしら集金人への風当たりは強くなるばかりです。
これじゃ仕事になりません。
早急に対策の手を打ってください。でなきゃ、わしらは集金をボイコットしますから」
「おいおい、穏やかじゃねぇなぁ。分かった、なんとかする。
とりあえず本店に連絡を入れ、話の分かる連中を呼んで解決のための講習会をひらこう」
本店というのは、東京電力本社のことだ。
所長が本店に電話を入れると、早速次の日、本店から2人の人間が営業所にやって来た。
広報担当と経理部に所属している若手の社員だという。
黒字についてのざっくりとした説明のあと、集金人との質疑応答になった。
「人件費を183億円削ったものの、電気料金の値上げで1770億円も収入が増えた。
東電だけではなく、電力各社が好調な業績結果を出したのは、昨年9月以降、
次々と実施をされた、電気料金改定による値上げのおかげです」
「電力会社がなぜ再稼働にこだわるのかといえば、すこぶる簡単な話です。
廃炉にすると、原発の毎年の減価償却が一括償却になってしまい、債務超過に陥ります。
総括原価方式のもとでは原発が停止をしていても、維持費や減価償却費などは
すべて、国民が払う電気料金に含まれます。
電力会社が破綻しないための費用を、国民が払ってくれることになるのです」
「昨年から、猛暑になれば500億円ほどの黒字になるんじゃないかと言われていました。
もちろん電気料金の値上げが最大の要因です。
それが思った以上に、昨年の夏は暑くなりすぎて焦りました。
黒字になりすぎたらどうするんだ、という声が、社内のあちこちで上がったほどです」
「社内においては、これで原発が再稼働すれば、さらに黒字が大きくなると
ホクホク顔で喜んでいる連中が、たくさんいます。
これだけ黒字が出れば、正々堂々とボーナスをもらえ、忘年会もできる、
冬も極寒になれば、さらに収入が増えるだろうと期待している不届き者もいます」
黒字決算に勢いを得ているせいだろうか、本店から来た2人の若い社員はまったく悪びれず、
社内の有頂天ぶりを、次から次と事例を挙げて明らかにしていく。
(駄目だ、こりゃあ・・・)沈黙と絶望の空気が、会議室の中を一巡していく。
特に、目論見に失敗した所長の落胆ぶりは半端じゃない。
本店からやって来たこの若い2人を「本物の阿呆だな、この若い2人は」と、心の底から嘆く。
絶望的なまなざしで見つめたまま、所長は、本店に人選を任せたことがそもそもの
失敗だったと、あらためて深い溜息をひとつ、そっと洩らす。
(51)へつづく
落合順平 全作品は、こちらでどうぞ
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東京電力が、2014年3月期の連結純損益が4386億円の黒字(前の期は6853億円の赤字)
になったと、広瀬直己社長が記者会見で発表した。
市場は6743億円の黒字が出ると予想をしていたが、数字はそれを下回った。
電力料金の引き上げと、石炭などコストの安い燃料を増やしたことが奏を功したと説明した。
東電の最終損益の黒字転換は、4期ぶりのことになる。
東電は14年3月期の連結最終損益が、6610億円の黒字になると値上げ当初から見通しを示していた。
だが、15年3月期にむけての連結業績予想の発表は、大方の予想を裏切り見送った。
理由として挙げたのは、柏崎刈羽原発の再稼働が明確にならないためだ。
電力料金の値上げのおかげで、東電の売上高は6兆6314億円に膨らんだ。
前期の売り上げは、5兆9762億円。
営業損益は、1914億円の黒字(前期は2220億円の赤字)になった。
広瀬直己社長は記者会見で増収の理由について、「販売する電力量は減ったが、
単価の上昇と、値上げ要因がフルで入った影響が出た。
石炭火力の復旧で、燃料費の高い石油火力からのシフトが進んだ結果だ」
と会見で明らかにした。
おいおい、東電はずいぶん儲かってるじゃないか、と誰もが一様に驚いた。
2014年に入り、東京電力の中間決算が1900億円の黒字に転換。
そのほかの電力会社の業績も、軒並み急速に回復ぶりを見せている。これはいったいどういう事だ。
「原発の再稼働がなければ経営が成り立たない)と電力の各社が強調をしていたが、
すべての原発が停止中だというのに、実際は、黒字化が凄い勢いですすんでいる。
集金業務の下請けに過ぎない俺たちの営業所にも、このニュースを聞いた瞬間から、
消費者たちから、抗議の電話が何本も立て続けにかかってきた。
その日のうちから、集金業務にも支障と影響が出てきた。
ある女性集金員は、「なにが黒字だ。納得できんうちは絶対に払わん」と門前払いの憂き目にあった。
ベテラン集金員は抗議の声にしつようなまでに食下がったが、
「原発の再稼働を絶対条件にする、東電の経営方針にはうんざりした。
黒字が出たというのに、新潟で停止中の刈羽原発の再稼働が認められない場合は、
年末にまた、電気料金の値上げを予定しているとは言語同断だ。理不尽な理屈は聞き飽きた。
納得できる回答を持って出直して来い。今日は気分が悪いから、電気代は払わん」と、
さんざんに威張られたあげく、結局、彼もまた玄関先で追い返された。
似たような反応と苦情の話は、いたるところで爆発をした。
「このままでは集金の達成率が70%どころか、50%以下まで激減しちまう」と不満を胸に、
集金人たちが事務所へ、渋い顔で戻ってきた。
「所長はこの黒字化のことを事前に知っていたんですか」と、激しく詰め寄る集金員もいる。
「知るもんか。東電が早期の黒字化を目指していることは知っていたが、
こんなにも早く、黒字が達成できるとは思わなかった・・・俺も晴天の霹靂(へきれき)だ」
「所長は机に座っているだけだから、わしら集金員の苦労なんか分からんでしょう。
東電が不祥事を明らかにするたびに、わしら集金人への風当たりは強くなるばかりです。
これじゃ仕事になりません。
早急に対策の手を打ってください。でなきゃ、わしらは集金をボイコットしますから」
「おいおい、穏やかじゃねぇなぁ。分かった、なんとかする。
とりあえず本店に連絡を入れ、話の分かる連中を呼んで解決のための講習会をひらこう」
本店というのは、東京電力本社のことだ。
所長が本店に電話を入れると、早速次の日、本店から2人の人間が営業所にやって来た。
広報担当と経理部に所属している若手の社員だという。
黒字についてのざっくりとした説明のあと、集金人との質疑応答になった。
「人件費を183億円削ったものの、電気料金の値上げで1770億円も収入が増えた。
東電だけではなく、電力各社が好調な業績結果を出したのは、昨年9月以降、
次々と実施をされた、電気料金改定による値上げのおかげです」
「電力会社がなぜ再稼働にこだわるのかといえば、すこぶる簡単な話です。
廃炉にすると、原発の毎年の減価償却が一括償却になってしまい、債務超過に陥ります。
総括原価方式のもとでは原発が停止をしていても、維持費や減価償却費などは
すべて、国民が払う電気料金に含まれます。
電力会社が破綻しないための費用を、国民が払ってくれることになるのです」
「昨年から、猛暑になれば500億円ほどの黒字になるんじゃないかと言われていました。
もちろん電気料金の値上げが最大の要因です。
それが思った以上に、昨年の夏は暑くなりすぎて焦りました。
黒字になりすぎたらどうするんだ、という声が、社内のあちこちで上がったほどです」
「社内においては、これで原発が再稼働すれば、さらに黒字が大きくなると
ホクホク顔で喜んでいる連中が、たくさんいます。
これだけ黒字が出れば、正々堂々とボーナスをもらえ、忘年会もできる、
冬も極寒になれば、さらに収入が増えるだろうと期待している不届き者もいます」
黒字決算に勢いを得ているせいだろうか、本店から来た2人の若い社員はまったく悪びれず、
社内の有頂天ぶりを、次から次と事例を挙げて明らかにしていく。
(駄目だ、こりゃあ・・・)沈黙と絶望の空気が、会議室の中を一巡していく。
特に、目論見に失敗した所長の落胆ぶりは半端じゃない。
本店からやって来たこの若い2人を「本物の阿呆だな、この若い2人は」と、心の底から嘆く。
絶望的なまなざしで見つめたまま、所長は、本店に人選を任せたことがそもそもの
失敗だったと、あらためて深い溜息をひとつ、そっと洩らす。
(51)へつづく
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