山種美術館で開催中の「水を描く」展(~9月6日まで)のギャラリートークに参加してきました。春に開催された「桜 さくら SAKURA 2018」展は ”美術館でお花見!” がテーマでしたが、今回は ”美術館で納涼!” がテーマです。
折しも今年は西日本で大きな水の災害がありましたが、一方で日本を取巻く豊かな水資源は、これまで美術の世界においても、芸術家たちにさまざまなインスピレーションを与えてきました。今年の夏は例年にない暑さでしたが、しばし酷暑を忘れて、涼の世界を堪能しました。
東山魁夷 「緑潤う」 1976年
親交のあった川端康成から、”今のうちに京都を描いて残しておいてください”と請われて手掛けた連作「京洛四季」の一作です。どこかで見た風景と思ったら、今年5月に訪れた修学院離宮の浴龍池でした。
これはその時撮った写真を同じ構図で切り取ったものですが、魁夷は見たままではなく、色も形も再構築しているのがわかります。”東山ブルー”とよばれる、青みがかった独特の色彩が、夢の中のような幻想的な世界を作り出していました。
宮廻正明 「水花火(螺)」 2012年
投網漁の網を花火に見立てた大胆な構図の作品。地は、薄い美濃紙を重ねて裏彩色という技法が取り入れられていて、表に絹が貼り込まれています。近くで見ると、凸凹した表面に青の点描と網目が細かく描きこまれていて、その繊細さに見入ってしまいました。デザイン性があってとても好きな作品です。
竹内栖鳳(たけうち・せいほう) 「緑池」 1927年
池からひょっこりカエルが顔を出している、なんとも愛らしい作品。水の透明感がみごとに表現されています。
小野竹喬(おの・ちっきょう) 「沖の灯」 1977年
ギャラリートークではスルーでしたが、私はこの作品とても好きです。たぶん幾何学的でシンプルな作品に弱いんだな...^^; 日暮れのピンク色に染まった雲、遠くにちらちらと光る漁火、詩情を感じる作品です。
川端龍子(かわばた・りゅうし) 「鳴門」 1929年
この作品は撮影することができました。開館に合わせてでかけたので、誰もいないうちにパチリ。目の覚めるような鮮やかな青色に圧倒されました。貴重な群青の絵具を3.6kgも使っているそうです。
迫力あふれる作品ですが、龍子は鳴門に行ったことがないそうです。この絵も最初は小田原の江ノ浦を描いていたのを、龍子が立ち上げた”青龍社”の第一回展に出展するために、途中から鳴門に描きかえたのだそうです。
奥村土牛 「鳴門」 1959年
こちらの鳴門は、以前「古径と土牛」展で見ました。山種美術館を代表する所蔵作品のひとつです。土牛は龍子と違い、実際に鳴門に足を運んで、揺れる船の上で、夫人に帯をつかんでもらいながら何十枚もスケッチしたそうです。写真だとうまく伝えられませんが、淡い緑色がとてもきれいです。
千住博 「ウォーターフォール」 1995年
滝の轟音が聞こえてきそうな清涼感あふれる作品。この絵は実際にキャンパスを立てて、上から絵の具を流して描かれているそうです。5色の滝を並べた「フォーリングカラーズ」という作品も、ウォーホルみたいな趣向で楽しかったです。
ゆっくり水のアートを鑑賞したあとは、いつものように1階の"Cafe椿"でひと休み。企画展にちなんだ和菓子をいただきました。5種類の中から私が選んだのは、小茂田青樹の「春雨」をモチーフにした”花の雫”というお菓子。雨に濡れた海棠の花が表現されています。