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フジコ・ヘミングの時間

2018年08月04日 | 映画

60代後半で奇跡のデビューをはたし、今も世界各地で演奏活動を続けているピアニスト、フジコ・ヘミングさん。本作は2年にわたって取材された、フジコさんの初めてのドキュメンタリー映画です。

フジコ・ヘミングの時間

フジコさんが1999年にNHKのドキュメンタリー番組で紹介され、一夜にして有名になった時、私はアメリカにいてしばらくその熱気を知りませんでした。ところがその後、フジコさんがニューヨークのカーネギーホールでリサイタルを開くことになり、聴きに行く機会を得たのです。

フジコさんのコンサートは、それまでに聴いたどのピアニストとも違っていました。まずクラシックのコンサートにはめずらしく、プログラムがありません。一曲ずつ、客席の方を向いて曲名を告げ、弾き始めるところは音楽ライブといった感じ。そして客の反応を見て、次の曲を決めていらっしゃるような印象を受けました。

独特の重ね着ファッション。佇まいにただならぬ迫力があり、圧倒されました。演奏も個性的で、曲に自分を近づけるのではなく、曲を自分の世界にぐいっと引き寄せるようなパワーを感じました。

さて... 映画は、フジコさんのご自宅があるパリにはじまり、現在の音楽活動や日常、それから最近東京の家から見つかったという絵日記を紹介しながら、過去を振り返ります。この絵日記が、少女時代のフジコさんの日常が生き生きと描かれていて、実に楽しいのです。(6月に暮らしの手帳社から出版されたそうです) 

スウェーデン人デザイナーの父との別れ。幼少期からピアノの才能で注目されるも、のちに国籍がないことが発覚したこと。その後、難民認定を受けてドイツへの留学をはたすも、大切なコンサートの前に風邪で聴覚を失い、第一線を退かざるを得なくなったこと。

その後は左耳の聴力が40%回復し、現在は年60回ものコンサートで世界を飛び回っていらっしゃいます。南米でのコンサートでは、用意されたのが家庭用の小さいグランドピアノだったことも。そうしたトラブルも、フジコさんの波乱万丈の人生にしてみれば誤差の範囲かもしれません。

お気に入りのアンティークに囲まれた、パリのご自宅。レースやリボンなどのかわいいものが好きで、シトロエンの2CVが好き。思いがけず私と好みが似ていて、いっしょに女子トークがしたくなりました。^^ 実際にお目にかかったら、緊張で固まって、きっと一言も話せないだろうと思いますが。

それからフジコさんは家が好きで、パリだけでなく、ロサンゼルス、東京、京都、ベルリンにも家があると知って驚きました。南欧スタイルのLAの家、町家を生かした京都の家と、訪れる先々に、その場所の文化を取り入れた居心地のよい空間があり、ピアノがあり、(留守を預かるシッターさんがいて)ワンちゃん、ネコちゃんが出迎えます。

パリの街を愛犬と散策しながら、困っている人には必ず小銭を恵み、そして動物愛護や震災支援など、数々のチャリティコンサートを開いているフジコさん。長く苦難の中にいたフジコさんだから、遅くやってきた成功と恵みを、今、困難の中にいる人たちや弱き動物たちと分かち合おうとしていらっしゃるのでしょう。

フジコさんの代名詞にもなったリストの”ラ・カンパネラ”をはじめ、ショパン、ドビュッシーなど、フジコさんの演奏を聴きながら、豊かな時間を堪能しました。

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