是枝裕和監督が、犯罪を重ねることで生計を立て、肩を寄せ合って生活している家族の姿を描いたヒューマンドラマ。2018年カンヌ国際映画祭にてパルムドールを受賞。リリー・フランキー、安藤サクラ、樹木希林が共演しています。
東京の片隅で肩を寄せ合って生活している5人家族。一家は初枝(樹木希林)の年金を頼りに、それぞれ日雇いや非正規雇用、アルバイトで働き、足りない分は万引きで補うという、ぎりぎりの収入で支え合って暮らしていました。
ある日、治(リリー・フランキー)は近くのアパートの廊下で震えている幼い女の子を見つけ、心配して家に連れて帰ります。女の子が虐待を受けているらしいことを知った家族は、一家の娘として迎え入れ、育てていくことにしますが...。
カンヌ受賞作ということもあって、イギリスのケン・ローチ監督や、ベルギーのダルデンヌ兄弟のような作品をイメージしていましたが、想像以上にガツンとくる作品でした。この映画には今の日本にあるさまざまな社会問題が描かれていて、私自身なんとなくわかってはいても目を背けていた現実を、目の前につきつけられたように感じました。
特に、この映画が公開されたちょうど同じ時期、都内で幼い子どもが虐待死した事件が起こったこともあり、どうしても映画のりん(佐々木みゆ)を重ねて見てしまいました。映画では最後に実の親元にもどされますが、あの後りんはどうなっただろう... 無事を願わずにはいられませんでした。
ただ、暴力のような命の危険こそないけれど、学校に通わせず、万引きさせることも、りっぱな虐待なのですよね。治と信代(安藤サクラ)のしていることは一見優しいけれど、愛とは言えないと思ってしまいました。祥太(城桧吏)はそれがわかっていたから、最後まで彼らを親と認められなかったのではないかな?と思いました。
彼らを見ていると、りんは自分たちで引き取るのではなく、警察に連絡するべきだったのでは?とか、しかるべき方法で公的支援を受けて生活すべきだったのでは?と思ってしまいますが、それは健全な側の”正論”に過ぎないのでしょうね。実際には警察はなかなか動いてくれないし、ほんとうに必要としている人が援助を受けられない現実がある。
そしておそらく彼らは、これまでさんざんNoをつきつけられてきて、期待できないとわかっているから、世間の目の届かないところで息をひそめ、肩を寄せ合って生きていくという道を選ばざるを得なかったのかもしれません。いつか終わりが来ることを予感しながら、束の間の幸せを謳歌するために。
彼らの生き方を認めることはできないけれど、ここまで来るまでに、どこかで彼らを救う手立てはなかったのか、やり直す方法はなかったのか、考え込んでしまいました。
映画の終盤では、まるでトランプのカードを表に返していくように、登場人物たちが抱えている事情が次々と明らかになっていきます。根拠はないですが、なんとなく初枝と信代と亜紀(松岡茉優)は親族だと思い込んでいたので、全員みごとに血のつながりがないとわかった時にはあっけにとられました。
亜紀の実の家族のことも衝撃でした。一見何不自由のない理想の家庭に見えて、亜紀をいない者として何事もないように生活しているのが怖ろしかった。りんの両親にしても、何も知らなければ、きっと子どもを誘拐された気の毒な夫婦にしか見えなかったでしょう。血のつながりがあっても、仮面家族だったという真実。
家族っていったい何でしょう。そもそも家族の最小単位ともいうべき夫婦が他人であることを思えば、血のつながりは必ずしも必要ではない気がするけれど...。無条件の愛? 揺らぐことのない信頼関係? 映画を見たあともいろいろ考えさせられました。