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ブレス しあわせの呼吸

2018年10月08日 | 映画

奈良旅行記はしばしお休みします。

ポリオに感染して首から下が麻痺して余命宣告を受けながら、家族や友人に囲まれて幸せな人生を送った男性の、実話に基づくヒューマンドラマ。「猿の惑星」シリーズの名優アンディ・サーキスの監督デビュー作で、アンドリュー・ガーフィールドが主演しています。

ブレス しあわせの呼吸 (Breathe)

1950年代、結婚してケニアのナイロビで新生活をはじめたロビン(アンドリュー・ガーフィールド)とダイアナ(クレア・フォイ)。新しい命も授かり、幸せのただ中にいた2人でしたが、やがてロビンはポリオに感染し、首から下が麻痺し、人工呼吸器がなければ呼吸ができない体になってしまいます。

2人はイギリスに帰国し、ロビンは病院で絶望の日々を送っていましたが、ダイアナはロビンのために自宅で看病することを決意。やがてロビンは友人テディの助けを借りて、どこへでも移動できる呼吸器つきの車椅子を開発します...。

モーションキャプチャーの第一人者であるアンディ・サーキスの監督デビュー作。私にとってはサーキス=猿のシーザーで、彼の感情豊かな演技を思い出すだけで涙ぐんでしまうほどなので、初監督作が重病患者の人権をテーマにしたヒューマンドラマというのに、深く納得してしまいました。

本作は、製作を務めたジョナサン・カベンディッシュの両親の実話がもとになっていて、サーキスが監督することを申し出たのだそうです。サーキス自身、母が障害児を教える教師、父が医師、そして姉が多発性硬化症という環境で育ち、病気や障害をいつも身近に感じていたそうで、この作品を手掛けることに運命を感じたのかもしれませんね。

本作のテーマは、ひとことでいえばクオリティ・オブ・ライフ。病院の中でただ死を待つだけの毎日がどれほど辛いものか、想像に難くありませんが、ロビンは重度の障害を抱えて余命宣告を受けながら、子供の成長を見守り、家族や友人に囲まれ、旅行に出かけ、人生を謳歌するのです。

もちろん、介護する家族の精神的・肉体的・経済的負担など、たいへんなこともたくさんあったでしょうが、この映画ではそうした苦労は比較的マイルドに描かれています。そして実際、苦労を上回る大きな喜びがあったから、彼らは乗り越えることができたのだと理解しました。

病気だからしかたがないとあきらめることは、今の時代でもたくさんあると思いますが、あの時代、いい意味でわがままに、貪欲に人生を切り開いていったのはすごいことだと感動しました。彼のような先駆者がいれば、同じような病気の人たちに希望を与えることができるでしょうし、まわりの意識も変えていくことができるでしょう。

ロビンがスポンサーを見つけて、同じ病気の人たちにロビンと同じ呼吸器付きの車椅子を何台も用意したことは、彼らに病院の外に飛び出す喜びを与えました。

一方、ロビンが招待を受けてドイツの ”最新鋭の” 病院を視察に訪れた時は衝撃でした。そこにいたのは清潔な環境の中、身動きができず、ただ生かされているだけの人たち。でも当時はこれが ”すごい医療” だったのでしょうね...。

映画は明るく前向きでユーモアがあって、比較的ライトなタッチで描かれていますが、生きることの喜び、生きることの意味について考えさせられる作品でした。

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