2018年に出版された平野啓一郎さんの小説。映画「ある男」の原作です。
この小説は2018年に出版された際にすぐに読んで、心に残ったのですが、時間が取れないまま記事にする機会を逸していました。先日、映画「ある男」を見たら、映画がすてきな作品になっていたので、もう一度原作を読み直したくなりました。
それと原作を読み直したくなったもうひとつの理由は、映画を見た時に、谷口大祐(X)が過去にボクサーだったということを、私がすっかり忘れていたことを不思議に思ったからです。
映画の中では結構重要なパートだったのに、どうして私は忘れていたのかしら? 改めて原作を読み進めていくうちに、その理由がわかりました。
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映画では、弁護士の城戸が狂言回し的な役割となっていて、谷口大祐(X)の人生にフォーカスしたドラマとなっていました。でも小説ではあくまで弁護士の城戸が主人公であり、城戸のアイデンティティにまつわることや、東日本大震災に端を発して
妻との間に生じた心のすれ違いが、いつの間にか無視できないほどに大きくなってしまったことなど、城戸自身のドラマにも大きなボリュームが割かれていて、谷口大祐(X)の人生と平行するように描かれているのです。
でも、2時間の映画に、城戸の内省的なドラマまで深く盛り込むと、あまりにごちゃごちゃしてわかりにくくなってしまうので、谷口大祐(x)の人生に重点を置いて描いていたのは、正解だったと思います。
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小説の城戸は、平野さんが自らを投影させて作り上げたキャラクターではないかな~?と思いながら読んでいました。もちろん設定や背景など、全くの別人ではあるのですが、城戸の物事の捉え方や感じ方が、平野さんの考え方を投影しているように感じることが
時々ありました。私自身、平野さんの日頃の発言に共感することが多いので、城戸の考え方や行動には、全面的にではありませんが、理解できる部分が多かったです。
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映画でも小説でも、谷口大祐(X)の人生をはじめ、全体的に重苦しい雰囲気の中、谷口大祐(X)がすごした4年間の結婚生活が、かけがえのない時間として、優しい眼差しで描かれていたのが救いでした。
小説ではそれに加えて、谷口大祐(本人)の元恋人 美涼と城戸とのやりとりが、ほのかな恋心をにおわせながらコミカルに描かれていて、暗いお話の中で、一種の清涼剤のような役割をはたしていたのが楽しかったです。
小説も映画も、それぞれによかったです!
コメントどうもありがとうございます。
ある男、映画も小説もそれぞれよかったですよね。
すみません。書き方が少々わかりにくかったですが...
映画では谷口大祐の人生にフォーカスしていたのでボクサーになった過程もていねいに描かれていましたが、小説は城戸の物語が中心だったので、谷口大祐がボクサーだったことをすっかり忘れていた、と言いたかったのでした。
私は邦画をあまり見ないので、窪田正孝さんの演技をちゃんと見たのは初めてだったのですが、凄みのある演技、悲しみを湛えた演技がすばらしくて、すごい役者さんだなーと感動しました。
映画は妻夫木さんが脇に回って控えめな演技で、窪田さんを支えていましたね。
>割と平野さんの小説って、これって平野さんご自身に近いキャラなのかな?って人が出て来る様な
私もそう思います!
「決壊」のエリート兄も、ちょっと平野さんぽいですよね。
平野さんの分人主義ではないですが、ご自身の一部を小説の登場人物に投影させているのかな~?なんて思います。
これ、映画も小説も私はかなりお気に入りです!
セレンディピティさんは原作→映画→原作 という順番だったんですね。原作再度読みたくなったお気持ちよく解ります。
谷口大祐がボクサーだったところ、映画ではみごとにスパッと削っていましたものね。
私も後からそれに気がつきました。
私は妻夫木君が長年好きなのですが、この映画に関しては窪田君の存在感・演技に関心しました。凄く良かったですよね。
自分が映画を見る前に、映画賞を妻夫木君が取ったり、ポスター等も妻夫木君をメインにしてる感じがしましたが・・・窪田君をもっと褒め称えてあげてーって思いました。
>小説の城戸は、平野さんが自らを投影させて作り上げたキャラクターではないかな~?と思いながら読んでいました。
私もそれ思いました。
割と平野さんの小説って、これって平野さんご自身に近いキャラなのかな?って人が出て来る様な(と勝手に私が思ってるだけですが)
そうそう、セレンディピティさんの初平野作品って「決壊」だったんですね!
最初に凄くパンチのある作品を読まれていたのね・・・。
そうなんです。つい書きそびれてしまったのですよね。
わー、ごみつさんもでしたか。
私も谷口大祐(X)に関しては核心の部分以外は
あまり記憶に残っていなくて、あれ?そうだったっけ?と思っちゃいました。
小説の方は、どちらかというと城戸の内面に
向き合う物語となっていましたね。
彼の誠実さに平野さんに通じるものを感じ
私自身、共感する部分が多かったです。
映画の谷口大祐を巡る物語もとてもよかったと思います!
セレンさん、原作の方は記事にされてなかったんですね。
実は私も、この小説で記憶にあることはほとんどが城戸に関する事で、2人の谷口大祐のパートはあんまり覚えてなかったんですよね。
セレンさんがおっしゃる様に、この作品は「ある男」の謎を追いながら、自分自身の内面と向き合う事になる城戸が、原作者の平野さん自身の心を代弁する役割だったのでしょうね。だからこそ、城戸が最も心にのこるキャラクターだったんだろうな・・とあらためて思わされました。
映画は映像で表現するもので、小説の様に心理描写を詳しく描けないから、谷口大祐をメインにした作品にして大正解でしたね。映像作品としてはその方が心に残りますよね。