四季の彩り

季節の移ろい。その四季折々の彩りを、
写真とエッセーでつづって参ります。
お立ち寄り頂ければ嬉しいです。

夜桜・・・一つの命の連鎖

2013年03月29日 20時12分40秒 | 四季の花
今年の桜の開花は例年に比べて10日以上早いと言われていますが、四月を待たず
桜吹雪にも似た落花の舞がそこかしこで見られます。

先週末、近くの桜公園で、ライトアップの明りに満開の花房を浮き立たせ、
妖しいまでの美しさを放つ「染井吉野」の夜桜を、細君と共に久しぶりに眺めて
参りました。
桜と言えば、西行の詠った
 「願わくは 花のもとにて春死なむ
                その如月の 望月のころ」
の歌が思い出されますが、かの西行もこのような情景に、心浮き立つ一時を
もったものと推察されます。
西行の時代から800年を越える歳月を経ても、桜に寄せる人々の心は、そう大きくは
変わっていないのではないでしょうか。

「染井吉野」は、幕末の江戸、染井において、植木職人の手による品種改良の末、
実生から造られたものと聞いています。
この桜にまつわる悲しい物語は、確か「恋紅」と言う題で直木賞作家の皆川博子が
書いていたように記憶しています。

ただ、この「染井吉野」の桜の咲き誇る様には、美しさを認めながらも、なぜか反発を
感じてきました。
咲き満ちて鮮やかに散る桜に、おのれの人生を重ねて潔く散ることを「誇り」とした戦時下の
若者達。その思いの底に咲いていた花が、「染井吉野」の桜以外に考えられなかったからです。

人生のほろ苦さは言うに及ばず、その甘さすら味わうこともなく蕾のままに散っていった
若者達。その無念さを、信濃の山奥に楚々と咲く「深山桜」という、桜に出会ってから
より強く感じてきました。
生きることの切なさと豊かさを、その山桜の咲く様に諭されたからでもあります。

咲くこと、散ること、薫ること、実ること。さらに、冬芽をそだてることが、一つの命の連鎖
であることを、残雪を残す尾根にひっそりと咲く、桜の老木に教えられた思いがしました。
そして、開花を錯覚し蕾のままに散っていった若者達に、戦場に赴く前にこの桜の咲く様に
一目触れて欲しかったとの思いも・・・。

掲載の写真は桜公園の夜桜です。
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