■Absolutely ALONE IN 桜ノ宮ガラガラ ~Rainydaygirl ON THE RUN~
2006年6月17日(土) 入場整理券 No.29
桜ノ宮ガラガラ
昼から雨が降り出した。大粒の雨は瞬く間に路面を黒く染めた。鈴木祥子のソロライヴ「
Absolutely ALONE IN 桜ノ宮ガラガラ ~Rainydaygirl ON THE RUN~」を聴きに行った。会場となったのは桜ノ宮ガラガラ。50人が定員といった小さなハコだった。会場内にはジャズのライヴがかかっていた。よく聴くとそれはジョニ・ミッチェルのライヴのようだった。メンバー紹介の時にギターがパット・メセニーだと紹介されたので、たぶん『
Shadows and Light』だろう。
狭いステージに向かって左から、ローランドのキーボード、フェンダー・ジャガー(レッド)、ウーリッツアーがあった。定刻から少し経った頃、女の人がバーカウンターの横のあたりのお客さんに頭を下げて横切った。それが鈴木祥子だった。ウーリッツアーの前に座る時、足元の何かに蹴躓いたのか、「あっ」と小さく悲鳴を上げた。
「ジョニ・ミッチェルがながれていたので、ジョニ・ミッチェルの曲をやりたいんですけど」そう言って「Woodstock」を弾き語りした。ウーリッツアーでの演奏は「この愛を」、「Swallow」、「I was there, I'm here」と続いた。
子供の頃にテレビで見た「銀座ナウ」の話があった。大阪では放送されてないので全く盛り上がらない。その「銀ナウ」で清水由貴子が歌っていた「お元気ですか」をカヴァー。途中にパッヘルベルのカノンを引用していたが、オリジナルがそうだったのか思い出せない。
ウーリッツアーからギターに楽器を交換。ここでアクシデントがあった。ジャガー(エレクトリック・ギター)のチューニングが狂っていた。鈴木祥子は「雨なのでチューニングが狂ってます」と言ってチューニングを合わそうとしたのだが、ステージの上では全く駄目で、とうとうスタッフの手を借りることになった。なんとかチューニングを合わせて「A型のこいびと」を歌いはじめたのだが、僕のような素人が聴いてもひどい音だった。ジョニ・ミッチェルの素晴らしいライヴを開演前に聴いた後では、その演奏はあまりにもひどいと思えた。見かねたスタッフがお店の壁に飾られていたストラト(ギター)に代えたらどうかと提案。それで「A型のこいびと」をもう一度歌いなおした。
鈴木祥子はギターは諦めてウーリッツアーに戻り、ニュー・アルバム『
鈴木祥子』から「Frederick」と「忘却」を歌った。しかし僕の頭ではクエスチョンマークが溢れていた。どうしてスペアのギターを用意してなかったのか。雨が多い梅雨時期にライヴを行うというのに。その心の中のひっかかりは最後まで消えてくれなかった。
ギターは使えないのでウーリッツアーの弾き語りでライヴは進行した。鬼束ちひろの「眩暈」、片平なぎさの「純愛」をカヴァー。「純愛」は「my love, my love」とメドレー形式だった。
ローランドのキーボードで「Happiness」。"生まれてからもう..."のところは40歳ネタを披露。鈴木祥子は40歳になって少しはものが分かるようになってきたと言った。ほんの数年前、37,38なんてまだまだ若かったんだと。心の許容範囲が僅かだが増えて、それは自分でも驚きだったのだと。この先、年を重ねるごとに、そのキャパシティーが広がってゆくのだと思うと、案外年を取るのも悪くないかもしれない、そう鈴木祥子は言った。
鈴木祥子が作曲した坂本真綾の最新マキシシングル「風待ちジェット」は6月14日に発売され、
オリコン・チャート初登場14位のスマッシュ・ヒットとなった。 曲を紹介する時、鈴木祥子は某所で集中砲火を浴びているが気に入ってる曲だと言った。某所がどこなのかはわからなかったが、アマゾンの
レビューを見ると批判的な意見があった。 坂本真綾が作詞した「風待ちジェット」。鈴木祥子は歌詞を引用して、"手を取って"、"声にして"、そうして触れることによるコミュニケーションって大事だと思うと話した。今の世の中、メールなどで全く触れ合わずにコミュニケーションが取れてしまうけれど、それに慣れてしまうのはとても危険だと言った。だから人と分かりあうには、何かを伝えようとするには、触れて、手を取って、声に出して伝えるべきだと。
京都の町屋に移り住み1年になるという鈴木祥子。関西の人はいい意味でマイペースだと話した。自分が楽しむためには他人と無理して意見を合わせたりしない。自分のものさしを持っている人が多いので、とても勉強になるのだと話した。「風の扉」はタイトルも歌詞も言葉の響きで作ったという。その歌詞にこんなラインがある。
"この世の中に 信じられるのは 空に 風の扉が開く 音を 聴いたことのある人と 同じ数ね"
この社会は情報に溢れていて、その中から何を選別してゆくのか迷う時がある。なにが本当に自分にとって大切で、何がいらないものなのか、時々わからなくなる。本当はそんなに必要でないものを必要だと思い込んでいたり、その逆で必要なものを捨てたりしているのではないのか。大事なものは少なくて、人生において一つか二つしかないはず。自分の本心に気づくのがあまりにも遅すぎたかもしれないと鈴木祥子は話した。
今回は1年振りの大阪ということで人数限定の公演となった。僕はこれを「クローズド・ライヴ」というふうに受け取った。でもそれは間違いであることに気がついた。鈴木祥子は今回のライヴでメールよりも手紙の方がロマンチックだと話した。また、坂本真綾が詞を書いた「風待ちジェット」の歌詞"手を取って"と"声にして"を引用して、自分にとってライヴという場は手を取り、声を出してコミュニケーションする場なのだと話した。限られたコミュニティーのための閉鎖的なライヴではなく、互いの距離を縮めようとするライヴだったのだ。
本編の最後の曲「Goin' home」がはじまった時、小さな声だったがオーディエンスは一緒に歌っていた。僕がここ数年聴きに行った鈴木祥子のライヴは、カーネーションと一緒だったり、何組かと共演というイベントだったので、鈴木祥子の曲をオーディエンスが一緒になって歌うという光景を目の当たりにすることがなかった。僕は歌えなかった。曲名を思い出すだけで精一杯だった。歌詞は全く出てこなかった。彼らが一緒になって歌っていたその曲を僕はここのところよく聴いている。こんな歌詞がある。
"さみしい時はいつも あたしに教えて 一番好きな曲を 歌ってあげるよ"
また今度、鈴木祥子のソロ・ライヴを聴きに行こうと思う。その時一緒に「Goin' home」を口ずさめたらいい。
未発表曲だった「A型のこいびと」は先日、通販で発売されたCD付きブックレット『
創作ノオト(中)”SHE SAID,SHE SAID,SHE SAID”』に収録され初公開となった。このCDをさっそく聴いたが、初恋の嵐のカヴァー「真夏の夜の事」(ライブテイク、於・京都拾得、05/6)が素晴らしい。「A型のこいびと」は主人公はB型獅子座の女性でA型の恋人と相性が良くないという曲。レコーディング・ヴァージョンには語りが挿入されているが、これは実在の人物に言った言葉だそうだ。どこまでが実話なのか知らないけど、すごい歌です。
画像は鈴木祥子の6月23日にリリースされた最新DVD『
I don’t play no instruments/I wanna play my instruments』。
SetList
01.Woodstock
02.この愛を
03.Swallow
04.I was there, I'm here
05.お元気ですか
06.A型のこいびと
07.Frederick
08.忘却
09.眩暈
10.純愛
11.my love, my love
12.Happiness
13.Sickness
14.Goin' home
Encore
15.いつかまた逢う日まで
16.風待ちジェット
17.水の冠
18.風の扉
19.海辺とラジオ
20.風に折れない花