1
年少とはいえ,空飛ぶ箒に載れる年齢にはなっていた。
でも,最近は,空飛ぶ機械が多くなったので,時間帯に気をつけねばならなくなっていた。
天気は安定して風も強くはない。
天気図でも等圧線は広い。風は強くない筈だ。
練習コースなら、さして危険はないと教師たちも思っていた。
何事も予想外はあるものの、年少クラスのスピードは教師が2人いれば怪我をさせる事は無い筈だった。
しかし,何事にも例外はつきものだ。
10人の生徒に教師が2人。大抵の緊急事態にも対応できる準備はできていた筈だった。
それがおこったのは,快晴とは言わないまでも,空を飛ぶには絶交とも言える日だった。
弱い向かい風で視界も良好。教師は順番に生徒たちに箒での飛行を促した。
生徒たちは、上手な順に順調に飛び立つ。
最後の生徒を飛び立った後に,地上に残った教師が上空で待つ教師と生徒たちに向かっていた。
下は大陸棚が広がっている透明度の高い綺麗な海だ。
生徒たちは,キラキラと光る海を見下ろしながら、教師のくるのを円運動をしながら待っていた。
そこに,教師でさえ予想しなかった。アホウドリが生徒たちの中に飛び込んできた。
いつもなら,生徒たちも余裕で躱せるのだが,風が変わって注意が疎かになっていた時だったので,何認可の生徒がバランスを崩した。
急いで教師が手助けに急いだが,生徒の一人がバランスを崩したまま,コースを外れてしまった。
生徒は、高度を下げながらなんとかバランスをとるようにしていた。
そこに,下から風船が上がってきた。
突然現れた風船に驚いた生徒は,箒から滑り落ちてしまった。
手足をバタバタすると,偶然に風船の糸をつかんでいた。
それを見た生徒は,浮揚の魔法を唱え直した。
箒にまたがっている時とは違い,箒自体に魔法がかけられているのとは違い,どんどんと地上に落ちていく。
生徒は教師が助けにきてくれると,周りを見回していたら,次々と風船が上がってきた。
手に届く範囲で風船の糸をつかむと,落ちるスピードは格段に遅くなった。
漸くして落ち着きを取り戻し始めた生徒は,下の状況を調べる余裕が出てきた。
下には,数人の子供たちが上(自分の方)を見ていた。
2
降りてきた子供を見つめていた子供たちは,降りてきた子供が魔法学校の生徒だと気がついていた。
空から子供が降りてくる。そのこと自体が魔法で空を飛ぶ事が出来る。と隣の島の事なので,誰もが知っている事だし,独特のワンピース状の服を着ている事から,間違いないと子供でも確信できた。
地上に降り立った生徒は、手に持った風船を放してから、回りに集ってきた同年代の子供達に話しかけた。
「風船は君たちが上げた物なの? だとしたら,私の命の恩人と言う事になる。ありがとう」
深々と頭を下げて礼を言った。
周りに集った子供達は,口々に,偶然だからそこまでのお礼の言葉は必要ない。でも,風船で怪我をしなかったのなら僕たちも嬉しい。と同様な事を口々に喋った。
皆が打ち解け始めて笑顔が広がり始めた頃に,急降下で教師が降りてきた。
自分の生徒が無事である事や,周りの子供達の様子を見て,生徒から話を聞いて,教師は子供達に,
「君たちのおかげで,私の大事な生徒が怪我もなく、無事に君たちと知り合う事が出来た。これは二重にすばらしい事だ。私からもお礼を言おう。ありがとう」
「いずれまた,正式にお礼に伺うよ」
そういうと,教師は落ちた生徒の箒を生徒に渡して,空に浮かび上がり飛び去った。
3
岡に集った子供達は,2人が去った後も,しばらくは留まっていた。
「やっぱり,魔法使い達は,ちがうよね」
「そうだね、風船くらいで体を支えられるんだものね」
「俺たちだったら,風船の10個程度じゃなんの意味も無く,落ちて大けがだろう」
「お父さんや先生達にも知らせないとまずいかな?」
「そうだね、後でお礼に来るって言ってたから,先生や親にも挨拶しにくるんだから,俺たちから先に話しておかないと,まずいよね」
子供達は,一目散に家に帰っていった。
4
職員室では,全職員が集っていた。
教頭が口火を切り
「結果的に,人助けをした訳ですから,問題は無いんですけど,どんな答えを用意したらいいんでしょうか?」
社会科の教師は
「言葉だけでのお礼なら,何の問題も無く,受け入れればいいだけですけど,具体的な物が扱われるようだと問題ですよね」
「そうですね、担当庁が違っているので自由な交流は,目の敵にされますからね」
「ここは,彼に向こうに仲介してもらうしか有りませんよね?」
「大丈夫ですか? 彼は嫌がるんじゃ有りませんか?」
「そうですよねぇ、実状は違うけど,名目上は派遣職員ですから,中央には,言い訳は立つんじゃないですか」
「そんな事をするより,私たちの誰が向こうへ話し合いにいけばいいんじゃ有りませんか?」
「そうなんですけどね」
「そこまでかしこまった事態にするのもねぇ」
教師達が困っている間に電報が,「明日,挨拶に上がる」と魔法学院から届いたのだった。