[注釈]
* << he’ritage phyloge’ne’tique >> : 正直言って、この言葉をここで使っている意味合いをきちっと説明は出来ません。ただ、どうも、「トーテムとタブー」の仮説に科学的な信憑性をもたせるために、フロイトは当時の最新医学の理論を応用したかったのでは、という可能性のことを言っているのだと思います。
* il ne pouvait concevoir d’explication que mytique. : d’explication の d’ は、否定文中の直接目的補語につく、あれです。ex. Il n’a pas d’explicaion de cet accident pour le moment.
[試訳]
フロイトが先史の「現実」に託したのは、そうすると、現在においては幻想の形でしか存在しないものである。「系統発生的な継承」という仮説をそんなふうにフロイトが利用しようとしたのか、あるいはただ単に、こうした問題については神話的な説明しか出来なかったのか。そのどちらともいうことは難しい。ただ、ひとつだけ確かで明らかなのは、フロイトがそんなふうに現実を先史に位置づけたのは、現実を分析に導入しようとしたのではない、ということだ。明らかに現実を分析から遠ざけようとしたのだ。それに、罪責感を根拠づけるために現実的な事実を要請する「トーテムとタブー」と、そうした仮説をしりぞけ、罪責感は幻想に依拠すると考えざるを得ない「二原則の作用」についての新しい論文の間には、逆にいかなる矛盾もない。
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長い間『フロイト』におつき合いいただきました。この書物、こうして細切れに読むには、ちょっと向かなかったですね。一生懸命に取り組んでいただいたみなさんには、申し訳ないことをしたかもしれません。それで、今回の内容を以下のような書物で補っていただければ幸いです。
* 新宮一成『夢分析』(岩波新書) 著者はラカン派の精神分析家。フロイト-ラカンの理論の入門書としては、最良のもののひとつです。
* 十川幸司『来るべき精神分析のプログラム』(講談社選書メチエ)
19世紀末以降の「近代」が要請したフロイト理論の意義と限界を明確に捉え直した上で、システム論をもとに精神分析理論を今日において更新しようとする試みです。
「精神分析には、治療という枠組みを超えて、人間が潜在的に持つ、経験の多様性へと接続して行く側面がある。(…)精神分析がその固有の作動の局面に、広範な人間の経験に関する作動の知を接合させることができるなら、精神分析は自らを大きく更新し、私たちの新たな生の技法となりうるだろう。」
どちらも自信を持ってお薦めできる一冊です。今回の取っ付きにくかった課題を、よかったら優れた書物で補って下さい。
さて、もう一週だけ精神分析ネタにおつき合い下さい。といっても、今回の課題はごく一般的な内容を扱ったものですので、どうかご安心を。今年は、フロイト理論の重要な継承者 Francoise Dolto の生誕100年にあたります。Le Monde 紙上で特集も組まれました。その記事の一部を読むことにします。
smarcel