フランス語読解教室 II

 多様なフランス語の文章を通して、フランス語を読む楽しさを味わってみて下さい。

ルクレジオ(2) 注釈と試訳

2008年12月10日 | Weblog
 [注釈]
 
 * des noms propres : この propre は「自身の,固有の」と意味で用いられています。ですから、noms propres 「固有名詞」のことです。
* une carte du Tendre : 明子さんが調べてくれた通り、Madeleine de Sucude'ry (1607-1701) の << Cle'lie >> という英雄小説の冒頭に挿入されている「恋愛地図」のことです。恋の芽生えからその成熟に至る過程を地図上の行程に重ね合わせています。こういう出典は註という形で補うしかないでしょうね。
* au bout de... : bout とは先端のことですから、au bout de voyages 「旅の果て」。あとに e'lucider le re'el とつづきますから、ここには、そうした「内面の遥か旅の果てにあっても...」という含意が感じられます。
 
 [試訳]
 ルクレジオという大河にいくつか言葉を浮かべるとしたら、旅,流離、漂流となるだろうか。それに友情、発見、眩惑、幻覚、不可視のもの。また、モーリシャス、ロドリゲス、アルバカーキー、ニース、オニチャといった、愛の地図に記された、遥か内面のさまざまな土地の名のあいだに張られ、うち震えている蜘蛛の巣。内奥の、彼方への旅の果てにあっても、たえずルクレジオはフィクションによって現実を明かし続ける。物語を読むことは、「現代の世界を質す」最良の方法だと信じているからだ。また自然とは、歪んだ人類によって脅かされているものの、ひとつの祝祭であるとの確信があるからだ。

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 次回からは12月7日に行われたルクレジオのノーベル文学賞受賞記念講演を読むことにします。ただ、長いものですので、どの部分をどう読むか、今まだ思案中です。テキストは今しばらくお待ち下さい。
 Moze さんが今お読みの森有正ですが、ぼくが先日紹介した水村美苗『日本語が亡びるとき』には、森の祖父、明治新政府の初代文部大臣を務めた森有礼が、英語公用語論者の先駆けとして紹介されています。そのあと読んだ、大久保喬樹『洋行の時代』(中公新書)ででも森有正のフランス留学体験の深さが紹介されていました。森は、フランスの精神を、魂を同化しようとして、文字通りフランスに「骨を埋める」のでしたね。ぼくは、白状しますが、本棚に眠っている森の著作を読んだことがありません。そういえば、ぼくの親しい友人も、森の著作に導かれるようにしてフランス文学科の扉をたたいたのでした。代々木上原の四畳半一間の彼の小さな下宿の本箱に、森の作品が何冊か並んでいたのを懐かしく思い出しました。
smarcel