Chang! Blog

福岡のハングル検定準2級建築士、そして一児の父の[ちゃん]のブログです

熊本・人吉球磨2dayトリップ【2】くま川鉄道沿線散歩とSL人吉

2016年05月08日 | ■旅と鉄道



 ブルートレインたらぎは、昨夜と同じ場所で朝を迎えました。東京か名古屋にでも連れて行ってくれれば嬉しかったのですが、7年前に潰えた夢の日々です。
 もっとも僕は、夜行列車ではあまり寝れないタチ。「揺れない夜行列車」ではぐっすり熟睡できたので、爽やかな目覚めではありました。


 窓の外を、朝の列車が駆けて行きます。




 ブルートレインの北側は、のどかな田園地帯。気分も晴れやかに、朝もやの中を散歩しました。僕の田舎の佐賀平野を思い出します。


 談話室で予約しておいたパンを食べ、コーヒーを飲んで1日がスタート。なんだかんだ言っても、「富士・はやぶさ」を追体験できる施設はここが唯一。難しい面は多そうだけど、末永く続いてほしいものです。
 昨日は足早に通り過ぎた多良木駅。よく見ると駅車内には、JR創業期の頃の写真が一面に飾られています。なかなか「鉄分高め」な街です。


 まずは下り列車で、湯前方面へ向かいます。昨日と同じ、田園シンフォニーの「白秋」でした。


 昨日に比べれば空いていたので、ユニークな車内もじっくり観察できます。
 近年の水戸岡デザイン車両では定番になってきた、木製のショーケース。中には床から天井への排気管が通っており、うまいデッドスペースの活用法です。中には、沿線の特産品が飾られていました。


 車両の真ん中は、クロスシート。立派なテーブルとランプシェード付きで、レストラン列車の雰囲気があります。通学の高校生には、勉強テーブルとしても重宝しそうです。


 ロングシート?は、贅沢にも革張りのソファ。クロスシート部の背もたれは木製で硬いので、すわり心地でいえばこの席が一番かも。僕が学生なら、この席で惰眠をむさぼりながら通学します。


 窓を向いたカウンター席も。観光客なら山なみ展望席、学生なら一人勉強席ですね。
 ロングシートに比べれば当然座席は少なくなる配置であり、なんだかんだでお疲れの学生諸君がこの点をどう評価しているのかは気になるところです。僕らが高校生の頃の長崎線では、こぎれいでも編成が短くて座れない新型車両に対する評判が悪かったので。


 車内をぐるぐる見回しているうちに、湯前駅着。昭和の頃ならどこにでもあったような、木造平屋の駅舎が迎えてくれました。


 駅裏は「レールウイング」という公園になっていて、ホーム「状」の広場は総ヒノキ造り。モニュメントも斬新で、木造駅舎とは対照的な風景を見せています。


 駅横の観光会館で、レンタルサイクルを借りました。4時間の基本料金は300円と、まずまずお手ごろです。電動を勧められたけど、僕らはまだまだ若い新婚夫婦! 平坦な球磨盆地なら、普通の自転車で充分です。
 しかし湯前は、盆地の端。進むに従って急な坂も現れ、素直に従っておけばよかったと後悔したのでした。


 無人販売所で売っていたイチゴは、1パック100円!という安さ。1つ買い求め、のちほど2人で平らげました。よく熟れていて、おいしかったです。
 家で食べる用にも買って行きたかったけど、汽車旅だとパックの持ち帰りは難しくて断念。農村地帯へ旅するときは、タッパーでも持っていかなければ。


 駅前の地図には歩いて20分と書かれていたけど、自転車でもゆうに20分以上かかって潮神社に到着。ため池に面する木立に囲まれた、周囲の観光施設とは空気が違う境内です。


 ここは、通称「おっぱい神社」。近年は単純に豊胸を祈願?するため訪れる人も多いそうですが、奉納された「おっぱい」には、お乳がよく出るように願うものや、乳がんの再発防止を祈願するものが多く見られました。


 ため池の対岸にある塞神社には、おっぱい神社とは双璧をなす、立派な「モノ」が飾られています。とはいえ男性の精力増強を願う場所では決してなく、「狭い所を突破する」ことに縁起を担いで、入試や「道を極める」ことの成就にご利益があるのだとか。なるほど、なるほど…。


 周囲は「ゆのまえグリーンパレス」なるリゾート施設で、温泉やコテージがあり のんびり楽しめそうです。潮神社や塞神社の存在をたぶん知らない子どもたちが、元気に草スキーを楽しんでいました。


 麓へ下り、また坂道を上がってたどりついたのが下町橋(ごんげんばし)。町の文化財になっている石橋です。橋長17mと規模こそ小さいものの、深い谷にかかっていて、水面までかなりの高さがあります。
 歳月を経た石橋は、ゆるり流れる青い水と、緑の谷間にしっとりと溶け込んでいました。


 発車時間まで、駅前の湯前まんが美術館を見学。公民館や図書室を併設した美術館で、挑戦的な外観の建築物は、「くまもとアートポリス」の参加作品でもあります。
 ご当地出身の政治風刺漫画家・那須良輔さんの功績を記念した博物館ですが…


 ゲゲゲの鬼太郎特別展の存在感が大きかった(笑)。知らないエピソードもあって面白くはあったのですが、那須さんの作品ももう少し見たかったです。


 自転車を返して、人吉へと戻ります。湯前からの普通列車は、観光列車のKUMAでした。田園シンフォニーの先輩格に当たる車両です。
 観光列車として2009年に大々的にデビューしたのですが、くま川鉄道発足当時の車両を改造したものであり、足元の老朽化が進行。今年度中の引退がアナウンスされています。


 沿線の自然をテーマにしており、展示パネルには動植物の解説が仕込まれています。田園シンフォニーより、テーマは明確に感じられました。
 外観こそボロボロに近くなっていましたが、室内はまだ現役で使えそう。そのまま資料館か、カフェにでもできそうです。


 あさぎり駅で、田園シンフォニーと交換。新旧観光列車の共演も、残りわずかです。


 休日昼間とはいえ、人吉に出る人で車内は混雑。若い世代が多く、人吉盆地内での活発な流動を物語ります。
 沿線は平坦なものの、自転車での移動するには広大な盆地。今後も必要とされていく交通機関です。


 人吉温泉着。くま川鉄道の駅舎は、「ゲストハウスくま」としてリニューアルされていました。ゲストハウスといっても泊まれるわけではなく、旅行センターや案内所として機能しています。


 時間はお昼時。清流のめぐみを頂こうと店を探してみましたが、隣り合う2軒の うなぎ屋さんは、片方はお休み、片方は長蛇の列。簡単にはありつけません。


 球磨川沿いの大旅館にお邪魔してみました。


 人吉城址と球磨川を望む、いいロケーション。ただ鮎の塩焼きは、30分ほど時間がかかるとのことで諦めました。


 それでも、人吉らしい風景を眺めながらの「春御前」に満足。


 球磨川沿いを歩いて、駅へと戻ります。市街地を流れる幅の広い川なのに、流れは急峻。落ちたら、ひとたまりもなさそうです。


 昨年8月に人吉駅の西側にできた鉄道ミュージアム、MOZOKA868を訪ねてみました。


 館内に入ると、目の前には線路。博多駅や大分駅の屋上で見たようなミニトレインが鎮座し、意表を付かれます。


 ミニトレインは運賃100円という安さ。少し雨模様だったので、館内をぐるり3周するコースで運行されていました。さして広くない館内をぐるぐる回るミニトレインは、なかなかの迫力です。
 見通しのよくない建物内なので、走行中はスタッフが付きっ切りで安全確保に当たります。




 晴れていれば建物を飛び出し、人吉駅方に運行されます。建物内のループと駅への「路線」が絡み合い、分岐部分の線路はなかなか複雑です。


 世界遺産入りも目指している、肥薩線の情報発信基地でもあるミュージアム。水戸岡デザインの世界観が前面に押し出されていて、博物館というよりアミューズメントパークのようです。
 楽しく学ぶのなら、こんな形もありなのかな。


 屋上からは、昔ながらのレンガ造の機関庫を見下ろせます。子どもなら、屋上のレールバイクに夢中になりそう。
 これで入場無料とはJRも太っ腹、SL運賃の利益でペイさせる考えなのかなと一人ごちていましたが、なんとここ、人吉市の施設なのだとか。公共施設ばなれした派手やかさに感心しますが、2億円以上のお金が投じられたことには、賛否両論があったようです。


 短い週末旅行も、あっという間に終幕へ。しかし帰路の列車も、今回の旅のメインです。SL人吉号に乗って、熊本まで2時間半ののんびり旅行を楽しみます。


 SL人吉号は、7年前の運行開始2日目に乗って以来。人吉からの上り列車は、初めての体験です。
 機関車の「息遣い」が聞こえる前部の展望ラウンジは、人気のスポット。駅弁屋さんやMOZOKA868のスタッフさん、それと見物人に手を振られ、旅の始まりです。


 SL人吉の客車は、普通列車用の50系客車を大改造して生まれました。近郊電車然とした車内が特徴だった、改造前の面影はありません。
 もっとも50系客車自体、JRで定期的に走っているのはここだけになってしまいましたが。


 車内はざっと3割の乗車率で、空いています。とはいえ昨日来るときにすれ違った上り列車は満席だったので、熊本地震の風評被害と断じるのは早計でしょう。
 ビュッフェ車に吊るされた旗には、「おかあさん ありがとう」の文字が。なんでだろ…そうか、今日は母の日か!


 ビュッフェで地ビール2本を買って、飲み比べ。蒸気機関車独特の前後のリズムに揺られ、窓からはほんのり石炭の薫りが漂ってくる中で飲むビール、たまりません。




 2駅目の一勝地では、はやくも10分停車。昔ながらの木造駅舎は、元の持ち味を損なうことなく手が入れられていました。


 先頭の蒸気機関車にとっては、ウォーミングアップの時間。残念ながら天気は雨模様ですが、蒸気の見え方は晴れのときよりも迫力があります。


 球磨川沿いの車窓もしっとりと濡れ、乗っている分には悪くない天気です。
 後ろに線路が流れていく最後尾の展望ラウンジは、やはり人気。親子連れと一人旅のおじさんが、じっと車窓に見入っていました。フリースペースなので、ある程度の時間で代わってもらえたら嬉しかったんだけど…。


 球磨川沿いを平行する道路を走る車からは、くまモンのぬいぐるみが手を振ってくれました。乗客の方によると、沿線の方がいつもこうして歓迎してくれているのだとか。新聞社から取材の申し込みがあったが、断ったようだ…とも。




 坂本駅でも、10分以上の小休止です。


 こちらも、懐かしい雰囲気の木造駅舎。長い木のベンチが、幼き日の思い出を呼び起こします。
 昨日は地元から鮎ずしの即売が出ていたのですが、今日はお休みの様子。日ごろから、土曜日の方が乗車率は高いのでしょう。楽しみにしてたんだけどな。


 八代からは鹿児島本線へ。普通電車が100km/h以上で走る幹線でも、SLはのんびりペースです。
 平行する九州新幹線は、地震でもっとも被害を受けた区間。運行再開は早かったものの、防音壁は落下したままで、新幹線は最徐行で行き交う応急的な復旧です。暫定ダイヤから正常ダイヤへの復帰の時期も、まだ明かされていません。


 沿線は熊本地震の本震後も、広範囲に渡って余震が続いている地域。全壊状態の家屋も車窓には映り、呑気に観光旅行していることにはやはり、複雑な思いも巡ります。
 熊本駅の前後では、高架化工事が現在も進行中。熊本駅の1つ南にはこの春、西熊本駅も開業しています。完成したばかりのピカピカのホームを、大正生まれの古豪は堂々と通過していきました。


 高架になった線路から熊本の市街地を見下ろしつつ、2時間半のタイムスリップの旅はフィナーレを迎えました。




 高架ホームの対面には、三角方面への観光列車・A列車で行こうが停車中。地震後はズタズタになってしまった熊本周辺の鉄道網も、4週間で観光列車まで復活しているのだから早いものです。
 ただ豊肥本線の「あそぼーい」は、再び熊本駅に姿を見せられる時期の見通しが立っていません。


 熊本駅新幹線口のお土産屋さん通り「駅マチ一丁目」は、ほとんどのお店で再開。「がんばるばい!熊本」の横断幕を掲げ、元気に営業しています。
 今日の晩飯は家で食べることにしたので、天草の海産物や馬肉の燻製を買い込みました。


 ただ熊本土産の定番中の定番ともいえる、陣太鼓でおなじみの「香梅」だけは、西原村の本社工場が被害を受け、休業中です。


 新幹線熊本駅ホーム外側のガラスは、本震で落下したまま。鉄道関係だけでも、地震前の姿を取り戻すためには、まだまだ相当な時間が必要なようです。


 九州新幹線は、「みずほ」以外の本州直通が熊本打ち切り。熊本~鹿児島間は「さくら」の運行がなく、「つばめ」を中心に組んだ特別ダイヤが続きます。
 それでも、地震からわずか13日、本震ベースで考えれば11日でよくつなげてくれたものだと思います。改札口周りだけは、地震前と変わらぬ雑踏の中にありました。


 今は困り顔のくまモンも、じきに笑顔に戻ってくれることでしょう。


 2両編成の鹿児島本線上り電車は大混雑。玉名まで立ちん棒で過ごしました。