11月半ばに行くことになった、東京での所用。せっかくの機会なので、博多~新宿を結ぶ日本最長距離の高速バス「はかた号」に乗ってみることにしました。
せっかくついでに、昨年12月から導入された新型車両の、個室型プレミアムシートを確保。プライベートなひとり寝の空間で移動する千数百キロの旅路は、ブルトレ個室での一夜を想起させるものでした。
福岡における高速バスのメインターミナルは天神ですが、始発地は博多駅前の博多バスターミナルです。滅多に乗ることのない最長距離夜行バスの、始発から終着までを「完乗」してみたくて、博多から乗車しました。
長旅に備え、阪急の「デパ地下」で夜食と寝酒を買出しして、バスターミナルへ。駅前広場では、クリスマスのイルミネーション「光の街 博多」が始まっていました。バスターミナルそのものは普段どおりの姿ですが、なんだかワクワクしてしまいます。
広々したスペースにコンビニやスタバまで入っている天神に比べると、博多のバスターミナルは少し手狭。隣町にでも行く感覚で乗れる中距離高速バスが発着する傍で、王者はしずしずと発車の準備を整えていました。
博多から乗車する乗客は、ざっと半分といったところです。
新型車両の車内は、前方1/3が個室型のプレミアムシート、後方が開放型のビジネスシートになっています。
外から見ると、後方はカーテンが閉ざされていましたが、プレミアムシートの区画はオープン状態。暖かな白熱色の室内灯が、ちょっと特別な区画であることを示しています。
こちらが、個室席「プレミアムシート」。「部屋」いっぱいに、本皮張りのゆったりしたソファが配置されています。
写真は前から2列目の部屋で、前方の座席がリクライニングしてくるスペースがある分、ちょっと圧迫感があります。僕の抑えた1列目は部屋の「容積」が広い分、よりゆったりと使える印象でした。
特別な席だけに、アメニティも充実。アイマスクは暖かくなるタイプで、じんわり目を癒されていく感が心地よかったです。ウェットティッシュは厚手・大判のものが10枚入りで、お風呂に入れない高速バスの旅を、少しでも爽やかに過ごせるようにするため配慮されていました。
足もとには、部屋専用のゴミ箱と空気清浄機。ペットボトルのミネラルウォーターは、ビジネスシートと共通のサービスです。
今風だなと思えるアイテムが、専用のiPad端末。ネットが使い放題で、旅の無聊を慰めてくれます。特に地図アプリは、現在地の確認に役立ちました。
ただ映画や音楽といったコンテンツがないのは、ちょっと寂しい気も。高速バスといえば、前方のモニタで上映される映画を見るのが楽しみという向きも多かったのでは?
壁側には、座席のリクライニングや非常ベルなど、様々なコントロールパネルが並んでいます。座席にはマッサージ機能やヒーターまで組み込まれており、ヒーターはじんわり温まってこの季節にはありがたかったです。
部屋の中の照明も自由にオン・オフができて、消灯時間が過ぎても無関係に明るく過ごせます。逆に消灯前に灯かりを落とすことも自由なわけで…
暗くしてカーテンを開ければ、夜の車窓が思いのままに楽しめます。夜行バスでは周囲の眠りの妨げにならないよう、カーテンは開けないのがマナー。自分がどこにいるのかも分からず、ただじっと時間が過ぎていくのを待つのが苦行でした。
自由に楽しめる車窓だけでも、ビジネスシートとの差額5千円を払う価値は十分にあります。
こちらは「開放型」のビジネスシート。黒い革張りの座席は、従来の夜行バスより豪華な雰囲気です。車窓など無関係にひたすら眠りたいのであれば、ビジネスでも十分かも。
福博の街を走り、天神高速バスターミナルへ。待っていた乗客を迎えると、残りの半分の座席もほぼ埋まりました。
バスセンターのランプウェイを下り、渡辺通りを天神北ランプへと向かいます。渡辺通りのイルミネーションも始まっており、暖かい車内からのんびり眺める気分は格別です。
車窓前方の視界が広がるのは、先頭1B席だけの特権。前方の窓はプライベートウインドウと称し、ひじかけ下のスイッチで曇りガラスにもできるので、運転士さんに寝顔を覗かれることもありません。
よく通る都市高速の車窓も、視界が高い高速バスから眺めると新鮮。広大な福岡貨物ターミナルの全景も、手に取るように分かります。
個室の「装備」をあれこれ試しているうちに、バスは九州自動車道へ。筑豊を抜ければ、馬場山JCTから北九州都市高速に入ります。
黒崎インターでの乗降はなく、そのまま小倉へ。砂津と小倉駅前で乗客を拾うと、プレミアムシートの満員御礼が確定しました。ビジネスシートも1席を残すのみで、高い人気を誇ります。
改めての案内放送が終われば、バスは関門海峡へ。ライトアップされた関門橋を渡ると、本州に入ります。
山陽道からは遠く、コンビナートの明かりが見渡せました。山間に入り、席をフルリクライニングさせれば、空にはオリオン座の星影も。寝台特急「富士」の個室から、室内灯を落として眺めた山陽路の夜景が思い出されました。
夜も遅くなってきたので、夜食をごそごそ。夜行バスは飲食も遠慮したい雰囲気がありますが、個室では気ままに楽しめるのもいい所です。
デパ地下で仕入れてきた、ちょっと高めの弁当とワイン缶で、夜景も肴にひとり乾杯しました。
日本最長距離を走る夜行バスですが、休憩は案外少なく、夜・朝の15分ずつのみ。佐波川サービスエリアは、コンビニ併設のきれいな施設になっていました。酒以外であれば、たいていのものは手に入ります。
敷地内には、こんな設備も。短髪ならば、15分の間にサッパリするのも不可能ではない!? 逆に言えば、休憩時間を30分くらい取ってもらえると、夜食なりシャワーなり、もっと有効に使える時間になりそうです。
発車を待つ、はかた号。個室席だけは、自由にカーテンを開け閉めできている様子が、外からも分かります。
この後、バスは深夜運行へ。僕も眠りの体制に入りますが、元来「バス寝」はあまり得意としません。席のリクライニングも深いものの、熟睡までには至りませんでした。ビジネスクラス並みに、フルフラットを望むのは贅沢というものでしょうか。
うつらうつらしながら、朝を迎えたのは午前6時。バスは、新東名を走っていました。
噂どおり、幅が広くカーブも少ない高規格仕様。高速バスに乗っている分にも至極快適ですが、自分の運転で飛ばしてみたい道路です。
朝の休憩は静岡SAにて。こちらにもシャワー設備がありますが、15分ではやはり厳しそうです。
朝も7時前とあって、開いている店舗はわずかです。以前は「はかた号」で軽食のサービスがあったそうですが、今はなくなってしまったので、デイリーでパンとコーヒーを仕入れてきました。
寝台特急の6時起床よりはゆとりがあるものの、新宿着の9時半という時間を考えれば、もう少し遅めの休憩でもいいのではないかとの思いも。寝坊者の感想でしょうか。
海側の座席なので富士山は見えないかなと思っていたら、車窓の前方にその雄姿が姿を現しました。現地の方によれば、こんなにきれいな姿を見せたのは1週間ぶりだったとか。
麓を見下ろせば、富士市の製紙工場群と、太平洋の大海原も。角度こそ違えど、寝台特急で迎えた朝を彩った車窓と同じです。
御殿場を前に、旧東名(というのか?)と合流。御殿場の山中では、木々が色づき始めていました。
東名を降りると、月曜朝のラッシュに巻き込まれてしまいました。寝台特急も、朝は通勤電車の平行ダイヤに巻き込まれてノロノロだったなあ…と思うのは、ちょっと記憶を重ねすぎでしょうか。
都心に入ると、流れはむしろスムーズになってきました。ぐるぐるととぐろを巻くトンネルに入り、首都高の地下区間へ。まるで地下鉄のようです。
渋滞があったものの、それを見込んだダイヤを組んでいるようで、ほぼダイヤ通りに新宿駅西口着。約15時間に渡る、ニッポンの車窓を堪能する旅でした。
ちなみに今回はオフシーズン運賃だったこともあり、博多~新宿間のプレミアムシート運賃は18,000円。早割の飛行機に比べればだいぶ高めですが、今度は下り便に乗ってみたいなと、はやくも「次」を考えたくなる旅路でした。