もう暦の上ではとうに秋だけれど連日続く暑さは衰えを知らない。
退職して一年が過ぎた。
7月の半ばから新しい職に就いた。
太陽光発電の設計という仕事で、一日中パソコンの前に座っている作業。
ぼくはやっぱり現場のほうが好きだ。
それでも、自然エネルギーの利用ということで、多少は脱原発の役に立っているはず。
爆弾を抱えたまま生活はできない。
それに固執する勢力はそこからどれだけの利益を得ているのだろう。
安全安心な生活を望む一般人は爆弾を取り除いて欲しいと思う。
落ちるヘリコプターは飛ばなければ落ちない。
あれこれ対策を考えるより無くしてしまえばいい。アメリカの防波堤の役割はもう御免だ。
生活必需品に税金をかけるより、有るところから取ればいい。
新しい仕事と目に余る政治の頽廃のストレスから逃れようと北アルプスの白馬岳に出かけた。
大雪渓は大分雪が減ってはいたが、吹き渡っていく風が涼しくて下界の暑さが嘘のよう。
今回は登山口の猿倉から白馬山頂までノンストップの予定。
お花畑では様々な花が迎えてくれる。
周りを見れば山ガールや山ボーイたちの姿が目立つ。
街のファッションより華やかだ。
決まったようにポールを持ち、つば広の帽子を被っている。
だが、ぼくは古いタイプの登山者だ。杖など持たない。ファッショナブルでもない。
修験者のように峰から峰へ風のように渡っていくことを夢想する。
この白馬山荘は雲上のレストラン。
生ビールも飲めるし、コーヒーとケーキのセットもある。
ここからは剣岳も見える。
今回は山頂までノンストップなので通過。
山頂直下にはトウヤクリンドウがたくさん咲いていた。
猿倉から2時間20分、目標通りノンストップで山頂に着いた。
ここから見る景色はいつみても最高だ。
空の色、雲のたたずまい、山々の持つ気品ある重厚さ。
それらの中に溶け込み一体となる至福のひと時。
後は日本最高所にある露天風呂、白馬鑓温泉を目指す。
白馬三山と呼ばれる白馬岳から杓子岳、白馬鑓ヶ岳へと雲上の稜線漫歩。
もう遠慮はしない。
走れるところは走る。
この夏、ぼくは61歳になった。
昔、子供のころは60歳といえばおじいさんというイメージを持っていた。
今自分がその年になってみると、そんな風には感じない。
歳を取った、と思った時に人は老いていくのだろう。
登山道から少し外れたところでライチョウがぼくに会いに来た。
何気なくそちらに行きたくなってそこに行くとハイマツの中から出てきた。
普通は曇った日にしか姿を現さない。
標高2100mの雲上の露天風呂。
直接歩いて来ても数時間かかる秘湯中の秘湯。
歩いてきた人だけがここに入る権利がある。
しばし、浮世の憂さを忘れて温泉に浸かっていた。
今度は泊りで来たいものだ。
星空を眺めながらこの温泉に入ろう。
鑓温泉からの下りもいくつかの雪渓を渡る。
多分下界では35度を超えているのだろう。
白馬岳。こんなに変化に富んで豊かな山はそう多くない。
その山を味わえる喜び。
ここに来てぼくは息をつく。
またしばらく下界でがんばろう。