「国鉄分割・民営化」は新自由主義の先駆けだったと鎌倉孝夫埼玉大名誉教授
1973年の第一次オイルショック以降、世界的にスタグフレーション(不況時に物価が上昇する現象)が始まり、物価上昇と不況の深刻化でそれまでのケインズ主義による経済政策は機能不全に陥った。
ところが日本はそこからいち早く抜け出す。労働運動を抑え込み徹底した合理化と減量経営によるコスト切り下げで乗り切るのである。輸出産業の中心、自動車、造船、鉄鋼、電機などの大企業の労組に協力させる。現在の連合の中心を担う同盟系の労組を抱き込んで、労働者を犠牲にしながらコストダウンをはかる新自由主義路線の始まりだ。
米国ではレーガン大統領、英国ではサッチャー首相、日本では中曽根康弘内閣による新自由主義政策。①公的事業の解体・民営化と不採算部門の切り捨て②社会福祉・教育の財政支出の削減と「自助努力」の協調③規制緩和の推進。
現在まで続くこの政策の下、まだ資本の支配が及んでいなかった官公労組合、特に国鉄労組が狙われた。鉄道の公共性を否定し資本の利潤追求の場に変え、抵抗する組合に対して徹底的に攻撃した。
資本による「搾取の自由」を最大限保証する新自由主義を推進すると必ず暴力が伴う。新自由主義の自由とは「カネ儲けの自由」、「弱肉強食の自由」であり、それを「能力主義」、「競争原理」という名目にすり替え、労働者の団結を破壊した。
国鉄は当時実質的資産が200兆円ありながら「37兆円の赤字で倒産した」として偽装倒産が行われた後、全員解雇、JRへの選別採用という不当労働行為により「分割・民営化」が強行された。
マスメディアと結託し、ヤミ・カラだとして既得権をはく奪、組合差別による仕事取り上げと配置転換、業務命令の乱発と従わなかった組合員に対する恫喝、組合脱退や退職の強要など国家による不当労働行為・人権侵害が横行。
85年から1年半の間に判明しているだけでも65人の自殺者が出た。
そして今、JRは豪華列車と新幹線を競い、地方では交通の要としての鉄道を捨て去ろうとしている。
政治学者の原武史はそうした日本の鉄道の在り方に対して他のアジアの国、中国、台湾、韓国に目を転じて見れば新幹線が開業する一方、在来線の特急や急行を無くしていない。新幹線でしか旅行できないダイヤにするのではなく、どういうサービスを優先させるか個人の判断にゆだねていて、それは当局が安く行きたいとか旅情を楽しみたいという客にも配慮しているからだと指摘している。
長野県は信越本線の一部区間廃止を許してしまった。スキー客を乗せた夜行列車は走れなくなった。昨年1月軽井沢の国道18号碓井バイパスで起こった転落事故は改めて運転手のハンドル一つに乗客の命が託されているバスの怖さを印象付けたとも。
全てを資本に都合のいい「モノ」とみなす「新自由主義」に流されるだけで生きるのか、日本の岐路である。
国鉄解体から30年がもたらしたもの
ルポライターの鎌田慧は言う。
「国鉄の分割・民営化とは改憲への道を掃き清めるための中曽根元首相らによる「完全犯罪」だった。そしてそれを許した結果が過労死や過労自殺が蔓延する財界の天下でもあったのではないかと」。すべては社会党と総評、国労潰しが目的だった。そして事実そうなった。大半の国民はそんなことは見抜けなかった。
錦の御旗となったのが「国鉄の赤字解消」だったが、債務は今東芝一社で抱える一兆七千億円に比べると回収可能な35億円。それも強引な新幹線建設によって発生したものだった。
国鉄解体は「行政改革」の名のもとに元大本営作戦参謀・瀬島隆三、財界労務担当とも言うべき亀井正夫(住友電工会長)、元満洲国政府高官ナンバー2・岸信介(安倍晋三の母方の祖父)、岸の意を体した元海軍将校・中曽根康弘(元首相)などによる右からの「国家改造」だったと鎌田氏。
それにマスコミが協力した。国鉄労働者が民間に比べていかに優遇されているか、それゆえに非効率であるかが連載記事となって新聞で報道された。
しかしよく考えてみれば国鉄労働者の働き方は労働者として目指すべき働き方であって、それでも民間に比べればというだけであって理想的な状態というわけでは決してなかった。だから国労は最強の労働組合として、労働組合の連合体である総評の中核を担う組合として労働運動だけでなく社会・政治運動の中心として政府・財界と対峙する存在であった。邪魔な国労を潰す戦略は権力を持つ側の周到な計画によって果たされ今の日本社会の状況に至るのである。
ブラック企業の横行、過労死、職場におけるいじめにパワハラ、挙げていけばきりがない社会の暗黒状況の進行である。総評に代わって労働組合の団体となった「連合」は「残業代ゼロ法」で妥協する段階に入りもはや労働者組合の代弁組織とは言えなくなった。
思えば労働組合は就職した若者の「社会勉強」の場であった。学校では積極的に教えることが避けられてきた労働者及び人間としての権利を知る場が組合であり、そこでの先輩労働者との交流だった。
今一番暴力的な新自由主義の犠牲になっているはずの若者の方が保守化し、安倍暴政を支持する割合が高いと言われている。悲しいことだが当然の帰結でもある。「自分の権利を学ぶ場を持っていないのだから」。
「週刊金曜日」の編集者が大学の先生に取材し「今の学生について感じることは」と聞いたところ、一人は「今の学生は優しい。不遇な人達に心を痛める気持ちは昔の学生よりずっと持っている。ただその元凶は何かと問う力は弱い」と言い、もう一人はズバリ「貧しくなった。学内の駐車場がかつては学生の車でいっぱいだった。今は見事にガラガラ」だと答えた。どちらも前の世代、特に今高齢者となった労働組合活動や資本の側に対抗する政治活動を担い支持して来た私たちの責任を問うている。
安倍政権の支持率が突然のようにさがったのはなぜ?
この5年ほど安倍自民党政権の「暴政」は目に余るものだった。真面目に日々働いて生活の糧を得ている人々にとっては到底受け入れがたいはずなのに、世論調査で支持率調査をすると50パーセントかそれ以上の人が「支持する」と答えているとマスメディアは伝えていた。そのくせ、個別の項目になると賛否は別れ、必ずしも政策を支持しているわけではないことが見えていた。
これをマスコミは「ほかに受け皿がないからだ」とか「その前の民主党政権への失望からだ」と説明していた。でも何かおかしいと思っていた。
受け皿があろうがなかろうが支持できないものは支持できないと言えばいいし、自民党と比較して民主党の何がいけなかったのか、マスコミはそれを踏み込んで説明するということをしたわけではない。
だからこの間の「安倍政権の支持率は支配権力を持つ側と、報道機関、広告媒体とが合作して作ってきたものでは」と今は疑っている。
その高支持率の工作を辞めた結果がこの間の「支持率急落」なのでは。
カケやモリや稲田や豊田や下村など問題噴出を菅官房長官がポーカーフェイスをよそおって「何の問題もない」と言い逃れるには無理があるということはもちろんあるだろうが、一番は安倍晋三の体調がどこまで持つかわからないということがあるのではと思った。夜中に安倍医療チームが官邸に駆けつけるという騒ぎがあったという。
安倍総理の持病は「ストレス」が最も影響するという。特効薬で症状を抑えているだけであって、病が治るわけではない。60才を過ぎて高齢者の域にさしかかっているのだ。
日本は未だ「真の独立国」とは言えず、アメリカの意向に従った政治がなされているという。その意味ではそのアメリカの言いなり、日本の国民、日本という国を全て犠牲にしてもアメリカに従うその最も忠実な首相が安倍晋三なのだ。だから何を言っても何をやっても、アメリカに見放されない限り彼の政権は安泰だったはずだが、体調だけはアメリカもどうしようもない。
そこで安倍を見限り次の忠実なリーダーを考えた時、一番の有力候補は小池百合子か。
韓国もずっとアメリカ支配下の国だったが、ムン・ジェイン大統領はアメリカ言いなりの国から脱出するべく決意をしているように見える。
アメリカ言いなりで北と対立していても韓国に何のメリットもないのだ。同じ民族、同じ植民地支配を味わった同朋として手を結ぶしかない。
「休戦状態」から脱して、アメリカに北と平和条約を結んでもらいたい。そのために韓国ができることはそれをアメリカに促し、北の政権に「敵対しない」というメッセージを送り続けることだと思う。
世界中で戦争状態をを起こすことが目的化している国アメリカだが、それは世界の他の国、いやアメリカの99パーセントの人々にとっても邪道な「悪の道」であって、人々の信頼と支持は得られない道であることは自明だ。
森鴎外の過ち「兵食論争」
NHKBS「フランケンシュタインの衝撃」という番組で、明治時代の陸軍と海軍の「兵食」に関する主張の違いを取り上げていた。
海軍は高木兼寛、陸軍は作家としても高名な森鴎外との間に繰り広げられた主張の違いとその結果はあまりにも傲慢、そして無惨なものであった。
日清、日露の戦争勝利は近代日本の政治および社会体制が成功への道を歩んだ成果として政府は宣伝し、国民もそう思わされ、太平洋戦争の大敗北を経験しながら日清・日露を未だに「成功体験」として信じている者達が現在の与党政権内にも数多く生息しているが、その実この二つの戦争でも兵士の命は上に立つ者の傲慢な愚かさによって無駄に失われていたのだ。
日頃戦争のことなど考えていない者にとって、戦争は戦場での銃弾飛び交う戦いのイメージしか持てないものだが、戦争映画もその場面をことさら強調して描く。
現実は日常生活があってその上に戦闘がある。食べ、排泄し、眠る。まず食べなければ戦場で戦うエネルギーが保てない。その兵食にあって、陸軍も海軍も米を食事の中心に置いた。まず米の飯、米さえあれば副食は漬物ぐらいでも力は出る。しかしこれでビタミンB1不足の脚気が蔓延する。脚気と言うと足がだるくなってきて歩くこともできなくなるぐらいの知識しかなかったが、放置しておくと死に至る病なのである。
太平洋戦争では米軍によって太平洋の空も海も押さえられ、補給もままならず、餓死及び病死が戦闘死をはるかに上回ったというが、日清・日露の戦争でも脚気で死ぬ兵士が続出していた。
海軍では早くから米食偏重の弊害に気づき、米食中心とパンや麦を混ぜた御飯を食べるグループに分け、長期航海で調査したところ、歴然とした結果になった。
これ以降、海軍は米食偏重の食事をやめている。
ところが陸軍は軍医総監である森鴎外を中心に米食に固執し、日清戦争でも日露戦争でも兵士に無念の死を与え続けた。
鴎外の後ろには東京帝国大学医学部の存在があった。鴎外自身神童として13才だかの年令で東大医学部に入学し、陸軍に軍医として務めるようになってからドイツに留学し、当時細菌学の最高峰、コレラ菌や結核菌の発見者コッホに師事している。
主食が米ではないヨーロッパに脚気患者はいない。ビタミンの存在はまだ確認されていない時代にコッホに教えを仰いでも細菌学的な示唆しか返って来ない。
医学ではなく、農学や栄養学の方面からのアプローチで脚気の原因はビタミンB1の不足にあることに到達したのが鈴木梅太郎であるが、医学部は同じ東大でも農学部出身者の鈴木の言うことに耳を傾けない。
この鴎外の最大の過ちについて、鴎外研究者たちは触れてはいるが、鴎外を断罪するような立場ではなく、さらりと流しているように思える。家に鴎外関係の本がかなりあったので、幾冊か読んだが、書く人たちが医学方面の専門家ではないということもあって、事の重大さへの言及が弱い。
この番組を見て私は改めて思った。軍医総監森鴎外の過ちと罪を。
鈴木梅太郎が世界に先駆けてビタミンB1の抽出に成功したのは明治末で、鴎外が亡くなったのは大正半ばであるが、鴎外が自分の過ちというか認識不足を認めた気配はない。
原発推進は東大閥で築かれていた。水俣病も、血液製剤によるエイズ被害も権威ある学者と言われる人たちは中々現実を認めない。自分達の間違いや力不足を認めることは自分を否定されたかのように受け止めるのか。事実の前に謙虚でないのは学問を仕事とする人間の在り方ではないと思うが、そういうことは学校という所で教えられていないのか、忘れてしまったのか。