以下は今日の産経新聞に掲載された古森義久の定期連載コラムからである。
彼は本当に良い仕事をしている。
彼の様なジャーナリストが日本のメディアには殆どいないことも我が国の大問題なのである。
日本国民のみならず世界中の人達が必読。
見出し以外の文中強調は私。
中国もし戦わば 日米の違い
東京からワシントンに戻って感じるのは中国論議の重点の違いである。
いま日米両国とも中国の威迫的な言動に反発を高めてはいるが、対中関係の核心の議論では日本では軍事という要素の追求があまりに薄い。
一方、米国では中国への対処の究極の重点を軍事におくようなのだ。
中国が軍事力をどう使うか、そして米中両国の戦争となればどうなるか、という具体論にまですぐ発展する。
「中国の習近平国家主席が人民解放軍に『明日から台湾攻略作戦を始めれば、目的を達成できるか』ともし問えば、『達成できるが、その結果、わが海軍力の半分を失うかもしれない』と答えるだろう。
米国の歴代政権で対中政策に関与してきたポニー・グレイザー氏が8月3日の米中経済安全保障調査委員会の議会公聴会でずばりと軍事をつくこんな言葉をさらりと述べた。
「中国の政策の挑戦」と題する公聴会はペロシ下院議長の台湾訪問を踏まえての議論が熱を高めた。
私も朝から夕方まで傍聴したが、主題はやはり軍事だった。
同委員会のランディ・シュライバー議長(元国防次官補)の「台湾問題は、中国が加工した『激怒』の背後でどんな軍事戦略を立てているかが最大焦点だ」という総括がその集大成だった。
翌4日に民間の大手研究機関のヘリテージ財団が開いた「台湾の将来」と題する討論会もまず軍事だった。
基調報告者のジャック・キーン退役陸軍大将が「今回の中国の台湾包囲の大軍事演習は中国が年来の台湾上陸作戦から海空での台湾封鎖へと基本戦略を変え始めた兆候だ」と指摘した。
歴代大統領の軍事顧問をも務めた同将軍は「米国軍部は一貫して中国が台湾を攻撃した場合の戦争計画を保持してきた」と明言した。
その米中戦争の模擬演習である戦争ゲームに何度も参加してきた、とも述べた。
実際に私も長いワシントン駐在の間に国防総省や国防大学での米中戦争の模擬演習について頻繁に聞かされてきた。
数十人の専門家に米中双方の軍事関連当事者の役割を与え、数日間をかけ戦争遂行をさせ、その結果を検証する作業だ。
米国が最終的に中国との戦争に踏み切るかは大統領レベルの政治決定だとはいえ、米軍当局は常に戦争遂行の計画を保持するという基本姿勢である。
日本にとり想像を超える悪夢のような米中戦争という事態も実際にありうるとする構えなのだ。
基盤にはトランプ前政権が2018年の国家防衛戦略で最も直截(ちょくせつ)に表現したような中国との戦争を防ぐ最善の方法は「想定される戦争への準備をして、勝利できる能力を保持する」という抑止の原則がある。
米側の民間研究機関でも実は「米中戦えば」の具体的な研究は多い。
大手研究所の「AEI」も7月下旬に「中国との長期戦争に備える」という長大な報告書を発表した。
2016年にランド研究所が出した「中国との戦争」という調査報告も話題を呼んだ。
米中両国の対立にこうした軍事衝突への危険が現実の可能性としてからむことは、軍事忌避を通してきた日本もついに認識せざるをえないだろう。
(ワシントン駐在客員特派員)