以下は、11/26に発売された月刊誌WiLLに、呪い殺したい 習近平独裁!と題して掲載された、阿古智子 東京大学教授、 譚璐美 作家、 楊 逸 作家、 劉燕子 中国文学者の4人による対談特集からである。
何度も言及するようにWiLLとHanadaは、本物の論文が満載されていながら980円!なのである。
今、世界最高の月刊誌であると言っても全く過言ではない。
本稿は日本国民のみならず世界中の人達が必読。
老若男女、わけても若い人たち全員が必読である。
今、中国で起きている現象を既にして予感させていた箇所もある。
見出し以外の文中強調は私。
王朝時代の幕は下りても血なまぐさい権力闘争は永遠につづくー
習近平独裁と隠された不安
阿古
共産党大会が終わり、習近平は異例の三期目に突入。
大方の予想に反し、最高指導部は習近平のイエスマンで固められ、世界で最も巨大な独裁国家が誕生しました。
習近平は文化大革命のときに下放させられるなど、典型的な「いじめられっ子」です。
だから「自分がいじめられないために、いじめる側に回らなきゃいけない」という不安に襲われ、デジタル監視による独裁体制を築いてしまった。
今回の人事は”内ゲバ”を恐れた習近平の不安の裏返しともとることもできます。
みなさんの目にはどう映りましたか。
譚
習近平の不安そうな顔が印象的でしたね。
党大会直前には、各地でゼロコロナ政策に対する異論や反発が噴出、そのなかに「独裁政権反対」のプラカードを掲げる人もいました。
習近平は数年前から、省庁クラスの幹部たちを「汚職摘発」「コロナ対策の失敗」という名のもとに失脚させ、自分の派閥に入れかえてきましたが、今回の人事を見る限り、彼の不安は尽きることがないようにみえます。
とくに胡錦涛が退場させられたときは、「頼むから暴れないでくれ」と薄氷を踏むような顔をしていました。
阿古
党大会など公式行事での途中退席は異例中の異例です。
習近平にとって党大会は世界中が注目する晴れ舞台、あのようなことが起きれば”メンツ”が丸潰れになってしまう。
胡錦涛は、自身の後継者として指名した習近平が、今日の独裁政権を築き上げたことに思うところがあったのでしょう。
楊
つまり胡錦涛は事実上”粛清”されたわけですか。
中国の権力闘争は、世界中の人が思うほど甘くありませんね。
私は心から、この罪深い悪魔的な政権の崩壊を願っていますが、習近平が終身皇帝になってホッとしている面もあります。
阿古
えっ、なぜですか。
楊
中国共産党が終わりの始まりをむかえるからです。
習近平は無謀なゼロコロナ政策や経済政策によって中国の崩壊を加速させているとして中国国内では「加速師」と揶揄されている。
もし改革派の国家主席が誕生したら共産党政権が存続してしまいます。
阿古
逆説的ですね。
共産党幹部を養成する中央党校の元教授の蔡霞氏も、米外交専門誌「フォーリンアフェアーズ」のなかで、「中国が習路線を変える唯一の方法は、戦争で敗北することだ」と主張していました。
台湾を攻撃すれば、台湾は米国の力を借りて抵抗し、中国に大損害を与えることになる。
そうなれば、習近平自身が倒れるだけでなく、共産党までもが倒れるかもしれない。
蔡氏はそのように見ています。
中国人の自分を憎みたくなる
阿古
最近はゼロコロナ政策によるデジタル監視が強化され、中国の人権状況は急速に悪化しています。
しかし、ゼロコロナ政策が始まる前から、ウイグル、チベット、南モンゴル、香港、台湾……習近平は人権弾圧を繰り返してきました。
劉
私は数年前、ダライ・ラマ法王とお会いする機会があったのですが、じつは法王は習近平に期待していたんです。
法王は1954年、北京で習近平の父・習仲勲と会談、そのときに習仲勲は「法王、いい時計をつけていますね」と法王の時計に興味津々でした。
田舎者の習仲勲は外国の時計に目がないんですよ。
法王はその時計を贈り、以来、習仲勲は愛用していたといいます。
そんな”恩”があるからこそ、法王は習仲勲の息子である習近平がチベットに理解があると期待していました。
しかし、これほどまでの独裁政権になってしまうとは……。
習近平の3期目が決まった後、スペインに亡命しているチベット人と話す機会がありましたが、彼は泣いていましたね。
習近平が″終身皇帝”でいる限り、チベット人は永遠に故郷に帰ることができない。なかには故郷に帰れず、他国で命を落とすチベット人もいる。
習近平と同じ漢民族である私は返す言葉がありませんでした。
譚
故郷に帰れない中国共産党の被害者たちは、天安門事件を起こした知識人や学生も同じです。
私は天安門事件で海外へ亡命した人たちを直後に取材して『柴玲の見た夢』と、その後を追跡調査した『「天安門」十年の夢』という本を書きましたが、亡命した学生のなかには欧米の大学で勉強しなおして弁護士資格を取得し、「僕は天安門事件で犠牲になった学生たちの遺族に送金して、一生彼らの生活を支える」と言う人がいました。
その一方では、亡命者同士で議論が白熱して、内ゲバのような状態に陥った人たちもいます。
劉
天安門事件で亡命した知識人や学生は道義的に破綻し、合法性をうしなったため、「どうせ共産党政権はすぐに滅ぶだろう」と楽観視していました。
あれだけの武力弾圧をして、世界中から非難が集まったわけですから当然です。
しかし残念ながら、今日にいたるまで帰国することができていません。
20世紀になり、王朝の時代は幕が降りましたが、中国共産党の数千年の権謀術数、手練手管、血なまぐさい内部抗争、粛清、秘密主義は継承されています。
中国という国は、永久的に闘争が絶えない国なんですよ。
最近、在日中国人の方と食事をしましたが、彼女は「中国人の血が流れるこの片腕を切り落としたい」と中国人としての自分を嘆いていました。
これほど横暴で罪深く腐敗した共産党政権を見ていると、自分を中国人として憎みたくなり、アイデンティティを否定する者も増えています。
譚
私は日本生まれの日本育ちで、もともと海外在住者なのですが、いま、中国に住みたくないと思う中国人が増えているようです。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の統計(2022年6月16日発表)によれば、2021年に難民申請した中国人は12万人近くにのぼり、前年比で10%増加しました。
とくに習近平体制に入った2012年以降激増し、この8年間だけで合計610,3000人に達しています。
ここ3年間は中国政府がゼロコロナ政策を実施し、厳しい出国制限が課せられているにもかかわらず、ビジネス用ビザや観光ビザなどを取得して海外へ渡航した後、そのまま所在国で政治避難を求めたことが記録されています。