文明のターンテーブルThe Turntable of Civilization

日本の時間、世界の時間。
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自由と民主主義を支持するのか独裁を支持するのか、国家としての価値観が問われる問題であり、曖昧な立場は許されない

2020年10月07日 13時25分59秒 | 全般
中国VS.米国、そして日本―と題して6/28の産経新聞に中西輝政・京都大名誉教授が寄稿した論文である。
国難に思う」《 コロナの次に来る自由と民主主義の危機
新型コロナウイルスの世界的大流行「パンデミック」を機に、変化し始めていた世界秩序は今、劇的な転換のプロセスに入った。
歴史はまさに21世紀最大の危機を迎えようとしている。
より正確に言えば、2020年という年は、すでに何年も前から始まっていた世界秩序の大変動の流れをコロナ禍によって一気に加速し、奔流となって滝壺(たきつぼ)に向かおうとするリスクを浮上させているのである。
「戦争と革命の世紀」といわれる20世紀で、最大の危機の時代は1940年代であった。
40年代は第二次世界大戦が激化し膨大な人命が失われ、自由と民主主義、人権と法の支配によって支えられてきた国際秩序が、ドイツのナチズム、ソ連の共産主義という2つの全体主義の挑戦を同時に受けた時代だった。
21世紀のコロナ危機は感染症がもたらした公衆衛生上の危機ではあるが、その衝撃によって、わたしたちはいま、国際政治上のかつてない深刻な危機、さらに言えば再び自由と民主主義の存続が問われる歴史的危機の時代に遭遇しているのである。
その最大の焦点は、いうまでもなく米中対立の激化である。
覇権主義に対峙する米
現在世界保健機関(WHO)は、米中の激しい対立の場になっている。
東西冷戦であれほど激しく対立していた米ソですら、国家を超えた健康問題を司(つかさど)るWHOでは協力していたことを考えれば、いまの状態が第二次大戦後でもいかに重大なものか分かるはずだ。
無論、その背景には、11月に迫った米大統領選での再選を狙うトランプ大統領の思惑もあろうが、より根深い要因として、中国の覇権主義がある。
中国はコロナ禍の最中も日本の尖閣諸島周辺海域に政府公船をかつてない頻度で送り込み、国際法に違反して人工島基地を整備する南シナ海には、周辺国との領有権の争いがあるにもかかわらず既成事実化を狙って行政区を設定した。
さらに中国はWHOのみにとどまらず、国連をはじめとする国際機関などを影響下におこうという動きも活発化させている。
3月に行われた世界知的所有権機関(WIPO)の次期事務局長選挙では、候補に中国人を擁立した―日米などが連携してシンガポール人の候補を当選させ、かろうじて中国の意図をくじいたが、この中国の動きが止まったわけではない。
コロナ禍の中でのこうした中国の手段を選ばぬ覇権主義は、自己を絶対的に正しいと信じる中国共産党独裁政権―その中でも、特になりふり構わぬ強硬策に傾く習近平政権―その本質に発するもので、この機会に香港の「一国二制度」を一気に踏み潰そうとする国家安全法制の導入は、まさにこうした意図の表れである。
これに自由と民主主義の立場から先頭に立って対峙しようとするのが米国である。
たしかに、米トランプ政権の対中外交は、方法論において多くの問題をはらんでいるが、世界秩序をめぐる米中対立は20世紀の米ソ冷戦と同じく価値観が問われる対立であり、もしこのまま両者が激突すれば、自由と民主主義は再び危機に瀕(ひん)するだろう。
このことに欧米諸国が気づいたのは、実はそれほど前のことではない。
もともと中国に地理的に近い日本や周辺アジア諸国と欧米諸国では、中国共産党政権の脅威の認識において大きな隔たりがあった。
ニクソン訪中(1972年)以来続いてきた中国に宥和(ゆうわ)的な政策を米国が転換させたのは、実はトランプ大統領就任2年目の2018年10月、中国を厳しく批判したペンス副大統領の演説以降である。
実際、それは「遅きに失した」し、急激かつ過激に過ぎるとも言えるが、大局的に言って、中国の重圧を受けていた日本やアジア諸国にとっては「暗夜にみる灯(ともしび)」のごとき希望となり、これをきっかけに中国批判はアジアから欧州諸国にも広がり始めた。
コロナ危機はまさにそういう時期に生じ、この動きを加速させているのである。
さらに言えば、中国は新型コロナによる危険な感染症を隠蔽(いんぺい)し、春節に際しあえて出国制限もしなかった結果、世界に感染を拡大させたが、より重要なことはそのことによって共産党独裁政権の体質を世界に強く印象付けたことであった。
米国土安全保障省は、中国が感染拡大の防止に必要なマスクなどの医療物質を海外から買い占めるため、国際社会に意図的に公表しなかったとする内部報告書もまとめた。
いまや、欧州もこうした中国の表裏あるふるまいを知っている。
たしかに、米国(と英豪など)以外の諸国では、今のところ、表立って中国の責任追及の声を上げている国は少ないが、中国に対する各国の基本認識に、こうした「中国共産党政権の本質」は深く刻み込まれつつある。
あえてそれを口に出して非難しないだけだ。
いま中国は「マスク外交」によるイメージ転換と影響力の回復に必死だが、自らに向けられたこの深い不信感にこそ気づくべきだろう。
かつて中国人は日本などに対して「人心のおもむくところに」という言葉を好んで使ったが、今こそこの言葉をかみしめなければならないのは、中国共産党政権自身なのだ。
米中「等距離外交」の愚
自由と民主主義の諸国が結束して中国に対峙するには、米国のリーダーシップが必要であり、トランプ大統領の動向は重要だ。
そして中国に対し、はっきりと抑止と包囲網の戦略をとろうとする米国の大戦略は誤っていないし、日本の国益にも資する点は大きい。
ただ、現トランプ政権の対中外交は、具体的な戦略・戦術において多くの問題を抱えていることを指摘しないわけにはいかない。
特に懸念すべきは、トランプ大統領の国内向けの「アメリカファースト」のスローガンの影響で、米国と欧州の同盟国の意思が、なかなか軌を一にできない現実である。
4月にテレビ会議方式で行われたG7首脳会議では、米国がWHOを批判したのに対して、独仏は全面支持を表明した。
またドイツのメルケル首相は最近、G7首脳会議の出席拒否の姿勢まで示した。
その結果、ワシントン開催を9月に延期せざるを得なくなった。
米国が中国寄りのWHOに対し、拠出金停止や、「脱退」といった制裁手法をとっているのも戦術的誤りだ。
今後、WHOや他の国連機関で米国の影響力が相対的に落ち、中国の影響力が増す可能性が高い。
これでは中国の思うつぼだ。
中国の覇権主義を前に、米欧の離反は自由と民主主義を危機に陥れる。
日本はまさに米欧の間に立ち、両者の関係をもっと緊密化させなければならない。
他方、より重要なこととして日本は米中対立の激化という今後の国際環境にあって、戦略的スタンスをつねに明確にしておく必要がある。
日本周辺で場合によっては、「米中冷戦」から「すわ熱戦か」と思われる状況になる可能性はつねにあり得る。
つまり、これまでのように米中双方にいい顔をしたり「安全保障は米国、経済は中国」といった使い分けをしたりすることが許される国際環境ではなくなる。
その時、日本にとって需要なのは、米中と等距離、中間にあるのではなく、日本はつねに米国の側にあるという立場を明確にすることだ。
これは自由と民主主義を支持するのか独裁を支持するのか、国家としての価値観が問われる問題であり、曖昧(あいまい)な立場は許されない。
台湾の蔡英文総統は先日、2期目の就任演説で中国の「一国二制度」を改めて拒否し「米・日・欧など価値を等しくする国々とのパートナーシップを深めていく」と述べたが、これは日本にとって重要な呼びかけである。
もはや習近平国家主席を国賓として招くような外交は選択肢にもあげる時代ではないのだ。





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