随分前に、世界中のプリマから大変な尊敬を受けているモナコ王立バレエ学校の老女性教授が来日した。
その時に彼女が芸術家の存在意義について語った言葉である。
『芸術家が大事な存在なのは、隠された、隠れた真実に光を当てて、それを表現する事が出来る唯一の存在だからです。』
彼女の言葉に異議を唱えるものはいないだろう。
高山正之は戦後の世界で唯一無二のジャーナリストであるだけではなく、戦後の世界で唯一無二の芸術家と言っても全く過言ではない。
一方、大江、村上、平野等、作家と称する人間達、自分達を芸術家だと思いこんでいる人間達の多くは、芸術家の名にも値しない存在なのである。
何故なら、彼らは、隠された、隠れた真実に光を当てて、それを表現する、どころか、朝日新聞等が作り出した嘘を表現して来ただけの人間達だからである。
彼らの様な存在は、日本に限らず、世界中の国においても同様なはずである。
つまり、真の芸術家とは、極少数しか存在していないのである。
私が、今の世界で、最もノーベル文学賞に相応しいのは、高山正之を措いて他にはいない、と言及している事の正しさを、本著も、痛切に証明している。
p37-p49
「大中国」を夢想する習近平を止めろ
高山
「一つの中国」つまりワンチャイナポリシーというのは、中国が清王朝の版向のまま引き継いだという説をとる「スチムソン・ドクトリン」からきたものですね。
当時の国務長官が唱えた概念です。
1930年代はじめ、日本が満洲に進出しましたが、そこで力を得て日本が大国になるのを、アメリカは絶対に許せなかった。
だから「満洲は中国領だ」ということにした。
でもこれは、意図的な歪曲です。
石平
もともと中国東北部には満洲人の国があり、彼らが万里の長城を越えて中国を自分たちの領地にしたわけです。
清朝が滅んで満洲人の多くが満洲に戻りました。
次に漢民族による中華民国ができたとき、満洲は決して中国のものではなかった。
高山
しかしスチムソン・ドクトリンでは「あそこも中国の土地ですよ」ということにしてしまったんです。
しかし清朝が滅んだ途端、「その版図は清朝に奴隷支配されていた中国のものになる」というのなら、大英帝国の一植民地だったインドが「イギリスもカナダもオーストラリアも俺の支配下に入れ」というようなもの。
まるで当時中華民国が、満洲もモンゴルもすべてを支配していたことになってしまう。
明らかな歴史の捏造です。
石平
そもそも中国というのは万里の長城の内側、いわゆる中原の国であって、万里の長城の向こうは"夷狄”の土地とされていました。
満洲と境を接する山海関の東側は満洲人の土地なんです。
日本の関東軍はロシアから割譲された南満洲鉄道守備のための軍隊ですが、山海関の東が「関東」。
そこを治安する軍隊という意昧なんです。
高山
その関東が、なぜいつの間にか中華民国の領土になるのか……それはスチムソンが、どうしても日本を排除したかったので、満洲は中国のものだと強引に規定したから。
日本は中国の土地に勝手に入り込んで、傀儡の満洲帝国を設立した。
これは侵略であり不戦法違反である。
しかも領有しているのは、明らかな「9ヵ国条約」違反だという理論で日本を攻撃したというわけです。
石平
1922年でしたね、ワシントン会議で、米欧と日本など列国は中国の独立と行政的、領土的保全、門戸開放と機会均等の原則を決めたんですよね。
それに違反していると言いがかりをつけてきたというわけ……。
でもこれは「中国」に対してのものでしょ。
高山
もちろん日本は、「ここは満洲人の土地だから中国とは関係ない」と主張したのですが、その主張をかき消すぐらいの大声で、アメリカはスチムソン・ドクトリンを正当化してきた。
その結果、1933年、日本は侵略国として非難され、国際連盟を脱退せざるを得なくなる。
これはすべてスチムソンの謀略によるものです。
アメリカの「神聖な使命」に日本が邪魔だった
高山
当時、アメリカは「マニフェスト・ディスティニー」という概念を標榜していて、中国大陸をその最終目的地にしていた。
この言葉はもともと、アメリカの西部開拓を正当化するための標語ですね。
「神が与えた神聖な使命」とか「明白な天命」などと訳されます。
文明は古代ギリシャ・ローマからイギリスに移り、大西洋を渡ってアメリカ大陸に伝わり、さらに西のアジアへと地球を一周するという、「文明の西漸説』に基づいたアメリカ中心のご都合主義的文明観です。
この理論にしたがってアメリカはカリフォルニアまで来て、そこで我慢せず、太平洋に進出した。
「最期の目標は広大な「支那」の市場だと燃え立った。
ところ、が、南北戦争で時間を食い、次にハワイを取り、スペインに戦争を仕掛けてグアム、フィリピンを取り、さあ目的地中国大陸へと思ったら、そこに日本がいた。
日本はその間に近代化を成し遂げ日露戦争にも勝ち、中国側とは同じアジア民族同士としての誼(よしみ)も交わしていた。
アメリカは、まず日本と中国を割くことから中国進出を開始した。
日本に向かう留学生をアメリカに招き寄せ、そこで育てた顧維均(こいきん)、胡適(こてき)らをつかって五四運動を起こし、中国人の愛国心を煽って日本を敵視させた。
その総仕上げがスチムソン・ドクトリンで、満洲からも日本を排除しようとした。
かくて「ワンチャイナ」ポリシーが持ち出された。
石平
民族自立、民族自決の精神から見ても、日本の主張のほうがよほど正当性があります。
それなのにいきなり「満洲は中国のもの」は、自家撞着です。
しかし日本の東洋学者も決して口にしない。
不思議です。
アメリカに感化されているのか、アメリカではこの議論は封じられているからと忖度(そんたく)しているせいかもしれません。
高山
アメリカは第二次大戦後、中国が赤化して戸惑った。
いずれ適当に処分するつもりでいたけれど、気が付いたら化け物になっていた。
中国の危なさは安倍さんが一番よく知っていた。
それをトランプにも教えた。
トランプはそれで中国が既得権のように振舞っている満洲王朝の版図、つまり西はエベレストの果てまで広がる「一つの中国」に対して「そんなのは聞いたこともない」と言い出した。
「なぜ中共が台湾の領有権を持っているんだ」も、まさにそこを問うている。
ウイグルもチベットも、北京は「内政問題」というが、ほんとにそうなのかと。
歴史的に漢民族中国がどの時点で同ウイグルやチベットを領有したのか。まして台湾をやというわけです。
石平
中国は、武力にものを言わせてそれらを強引に奪取しただけで、正規の手続きを経て併合したものでは決してないのです。
高山
いまみたいに、ウイグル族の国を占領して、チベットも併合して、中国の版図がエベレストまで到達し、アフガンとも国境を接している信じられない大帝国になっているけれど、それは人の目が届かぬところでこっそり残虐にやってきた侵略でしかない。
だいいち、第二次大戦以降は勝手に他国を侵害してはならないと取り決められたはずなのに、中国はいっさい無視。
特に内陸のモンゴル、チベット、ウイグルなどを一方的に併合してしまった。
そのどこもジェノサイドの問題を抱えている。
その領土問題が国際問題として浮上すると困る。
だから「台湾やるぞ」「台湾やるぞ」と、実際にはやる気はないのに、デモンストレーションをしている。
少なくとも地続きのほうには領土問題はないといった形に見せかけようとしているんです。
だからトランプが、台湾問題について聞かれたときに「俺はワンチャイナポリシーなんて知らないよ」と、いきなり言った。
それを誰が吹き込んだのかというと、安倍さん以外にはいないはずです。
石平
これは、トランプがいかに安倍さんを頼りにしていたかの証明です。
これほど安倍さんの洞察力はすごかった。
いましみじみ、それを感じます。