以下は、本日発売された週刊新潮の掉尾を飾る高山正之の連載コラムからである。
本論文も彼が戦後の世界で唯一無二のジャーナリストであることを証明している。
随分前に、世界中のプリマから大変な尊敬を受けているモナコ王立バレエ学校の老女性教授が来日した。
その時に彼女が芸術家の存在意義について語った言葉である。
『芸術家が大事な存在なのは、隠された、隠れた真実に光を当てて、それを表現する事が出来る唯一の存在だからです。』
彼女の言葉に異議を唱えるものはいないだろう。
高山正之は戦後の世界で唯一無二のジャーナリストであるだけではなく、戦後の世界で唯一無二の芸術家と言っても全く過言ではない。
一方、大江…彼については、故人を悪くは言いたくないが(下記の高山正之に倣って言えば)村上等、作家と称する人間達、自分達を芸術家だと思いこんでいる人間達の多くは、芸術家の名にも値しない存在なのである。
何故なら、彼らは、隠された、隠れた真実に光を当てて、それを表現する、どころか、朝日新聞等が作り出した嘘を表現して来ただけの人間達だからである。
彼らの様な存在は、日本に限らず、世界中の国においても同様なはずである。
つまり、真の芸術家とは、極少数しか存在していないのである。
私が、今の世界で、最もノーベル文学賞に相応しいのは、高山正之を措いて他にはいない、と言及している事の正しさを、本論文も見事に証明している。
日本国民のみならず世界中の人達が必読。
日本のおかげ
イエズス会の伴天連が信長に大きな黒人を献上したと「信長公記」にある。
信長は黒い肌が信じられなくてごしごし洗わせたら「かえって黒光りして驚いた」と続く。
信長は大男に弥助の名を与え、士分に取り立てて側に仕えさせた。
弥助も信長によく仕えて本能寺の変では信長の首を持って脱出した。
だから信長のデスマスクがこの世に残ることになった。
日本人が次に黒人を見たのは長崎港の出島だった。
オランダ人に鞭打たれる黒人に人々は同情し、彼らを丸山町の遊郭で遊ばせてやったという話もある。
「日本人はそれでオランダ人を嫌った」とスウェーデン人植物学者ツュンべリが書いている。
日本は維新後も人種差別を嫌い、パリ会議では国際連盟規約に人種平等案を盛り込もうとした。
しかし米大統領ウッドロー・ウィルソンと豪州のヒューズ首相が強硬に反対して同案を葬ってしまう。
因みにウィルソンは大統領に就任後ワシントンDCの官庁で働く黒人をすべて遠くに配転し「白いDC」にして喜んだ。
ヒューズも石油タンカー、ペトリアナ号事件の因縁で日本を憎んでいた。
同タンカーはメルボルン近くの荒海で座礁し、船長ら白人乗員9人が救助された。
しかし白豪主義を掲げる1901年法のため、支那人など27人の水夫は難破船に置き去りにされた。
あとは波浪が彼らを処分するはずだったが、通りかかった日本の春日丸が彼らを救助し、事件は世界に知れ渡った。
日本案潰しはその意趣返しだが、反響はペトリアナ号より大きかった。
日本代表の牧野伸顕は帰途、米国を経由したが、寄る街々で黒人市民が大歓迎し、黒人問題が大きな政治課題になっていった。
活動家マーカス・ガーベイは「第3次大戦は白人と黒人・イスラム連合の戦いになる。そして我々の先頭には日本が立っているだろう」と予言した。
ガーべイとは別の道を模索する黒人知識人ウイリアム・デュボアがそのころ日本を訪れている。
彼が帝国ホテルで支払いをしているとき白人女が割り込んできた。
米国風に白人を優先しろと。
しかしフロント係は彼女の存在すら無視してデュボアの会計を済ませ、一礼してから初めて傲慢な白人女に向き直った。
「May I help you?」
デュボアは「自国では味わえない当たり前を日本人は当たり前にしてくれた」とピッツバーグ・クーリエ紙で紹介した。
マルコムXはこの二人に刺激された。
彼は陸軍の徴兵を前に「私は入隊して戦いたい。ただ入りたい軍隊は日本軍だ」と言った。
戦場では黒人兵がまず矢面に立たされる。マルコムXの発言はその不満に油を注ぎかねなかった。
米政府は丁重に彼の名を徴兵名簿から外した。
ジェームズ・メレディスは差別が当たり前のミシシッピ州で黒人の父と先住民の母の間に生まれた。
高校を出ると世の習いに従って軍に入った。
軍歴は10年。
最後の3年間はデュボアが感激した日本の立川基地勤務だった。
10年勤めると好きな大学に行けた。
メレディスはここで初めて世の習いに逆らって白人だけが通うミシシッピ大学を選んだ。
立川の3年間が影響したように見えるが、バネット州知事は激怒し州兵を出して彼の入学を阻んだ。
ジョン・F・ケネディは連邦軍を出動させて多くの死傷者を出しながら彼の入学を守り切った。
ケネディはこれを機に公民権法に取り組むが、成立は彼の暗殺後になる。
こうして見ると未成熟な米社会は時おり日本から差し込む光に刺激されて目覚め、抗い、成長していったように見える。
先日、米最高裁が黒人に下駄を履かせるアファーマティブ・アクションを違憲とした。
メレディスのようにみな成長した、もう下駄は要らないという意味ならばとても喜ばしい。