「迎えに行く時間じゃないの?」とルンバが云う。
(あっ、そうだ。迎えにいかなくちゃ) と焦る私。
子供達に「お爺ちゃんを迎えに行くよ」と教えたら、それぞれが自転車に乗って走り出した。
「確か、バスが着くのは体育館だったよね」と確認する私に「何を今頃」と云う顔で応えるルンバ。
私は何故か走り出す。
最近不整脈が出ているが、走っても大丈夫と感じるぐらい体調は良さそうだ。
(確か町内会か何かの海外ツアーに参加したんだった)と記憶が少しだけ甦った。
表通りから体育館の方へ折れ、少し走ったら沢山の人が見えた。
既にバスは着いているようだ。

酒の好きな家具店の社長や豆腐屋の奥さんの顔も見える。
その中で子供達に纏わり付かれて笑っているのは少しだけ口紅を厚く塗った母だ。
そして、その横にはハンチングを被ったお洒落な父の姿。
いつもはムスッとしているのに、この時は見たことも無い笑顔でかなり機嫌が良さそうだ。
だから私は、自然に父の傍へ向かい「大丈夫?疲れていない?」と労りの言葉。
荷物は送ったのか持っていない。
「さぁ帰ろう」と皆で歩き出す。
「写真で教えて貰った橋が良かったよ」と云う母。
(私が教えた橋って?) と思いながらもせっかくの笑顔を壊したくない私は
「良かったねぇ」と云う。
表通りに出て曲がった途端、周りの空気が変わった。
見回すと、一緒に歩いていた両親の姿が消えていた。
「帰ったんだ」と一瞬で悟った私。
そっと目を開けると寝室の見慣れた天井が見えた。
もっともっと話したかった。
もっともっと顔を見ていたかった。
謝らなければならないこともあった。
もう一度逢いたくて目を閉じた途端、想いが一度に溢れ、大きな染みを作った。