昨年時期を逃して見られなかった水芭蕉を撮りに行くことにした。
工事中だった遊歩道もゴールデンウィークに合わせてか、木道の修復を終え開通したと聞いた。
数週間前に50キロ程離れた厚岸町で熊の被害が出た。その熊はまだ見つかっていないし、もしかしたらこちらの方へ移動している恐れがある。
万が一遭遇した時のために音だけのクラッカーを2つポケットに入れた。
数年前にDAISOで買った物だが、湿気っていなければ使えると思う。
写真を撮るためと云うより武器代わりに一脚を持った。
数日前、「るろうに剣心」の太刀さばきをテレビで見たばかりだから、これを構えれば熊公も私の殺気を感じ取ることだろう。
オートキャンプ場も営業を始めたようで数台の車と人の動きが見えた。
しかし奥へ入る遊歩道には人の気配が無い。
木道脇には、活け花の師匠が力を入れて曲げたような枝。
辺りに鋭い視線を浴びせながら進むと、修復されたばかりの木道が現れた。
入山者の自動カウンターを過ぎると空気が濃くなり自然の中にいる気持ちになった。
ヤチボウズの頭には草が生え、そして見えてきた水芭蕉。
山から流れ落ちてきたせせらぎが小さな滝を作り、心地良い水音を響かせている。
そして、その奥に広がっている水芭蕉群。
せせらぎの終点は達古武湖(たっこぶこ)だ。
夢中になってシャッターを押し、進んでいると急に真新しい木道の上に泥の汚れ。
まるで獣が横切った跡のようにも見える。
私の鋭い感覚が先へ進むことを拒んだ。
一脚を利き手に持ち替え無駄な殺生をしなくても済むことを願い、殺気を抑えて水芭蕉達に別れを告げた。