昨日、ウォールポケットのなかに入っている手紙を整理していた。
いるものだけ残して、いらないものはほかそうと思って、、、。
そういう作業って早く終わる人は早く終わると思うけれど、僕の場合、割りと時間がかかってしまう。
ちょっと、昔の手紙を読んで思い出にふけったりしていると意外と時間がかかってしまう。
人から受け取った手紙が大半だけれど、なかには、自分が人に書いた手紙の下書きが残っていたりする。
その自分が書いた手紙の下書きにこんなのがあった。
「昨年はK子さんが、入学願書に読みにくい数字で電話番号が書いてあったとき、そこから思い当たる番号に何軒か電話をかけて、目的の家に繋がってしまったときには、ビックリしたけど、感動しました」と僕がK子さんにあてた年賀状の下書きに書いてある。
もう、30年も前の話だ。
当時、まだ、僕が勤めていた予備校の入学願書は手書きのものだった。(まあ、今でもネット受け付け以外はそうかもしれないけれど、、、)
その入学願書に9か7か判読しにくい文字 また3か8か判読しにくい文字などが混在した形で電話番号が書いてあるものがあった。
しかも、記載内容に不備があるので、その家に電話しなければならないことになった。
みんな、ためらった、本当に読みにくい数字が書いてあるので、へたに電話をしたら、間違い電話になってしまう。
するとK子さんが言った、「この数字はたぶん7か9 この数字はどう見ても3か8のどちらか、だから7と9 3と8の組み合わせで電話をかければ、きっとつながりますよ」と。
確かに、7と9 3と8の組み合わせなら、理論上は2×2で最大でも4回電話をかければ、目的の番号に繋がることになる。
K子さんは大胆にもそれにチャレンジした。
最初にかけた家はダメ K子さんは「あ、間違えました、すみません」と言って電話を切った。
次の家もダメ また彼女は「あ、間違えました、すみません」と言って電話を切った。
次にかけた家はヒットした。それでK子さんは、用件を言い始めた。「実は、受けとりました入学願書に不備がありまして、、、」と彼女は切り出して、相手から、情報を聞き取りながら、その場で、願書の不備をすべて訂正してしまった。
いやあ、本当にあのときはK子さんお見事、と僕は思った。
いわば、確信犯的に間違い電話をかけるリスクをおかすという根性もすごいと思った。
もちろん、間違い電話をかけられた家は、いい迷惑だったろうけれど。
でも、あれはいい根性だなと僕はなぜかそのとき思った。
それは30年前の話なので、今の、システム化された世の中では、そんな根性出そうと思ってもなかなか出ないかもしれないけれど、、、。
当時 僕が勤めていた予備校の入学願書の番号は、パソコンではなく、ゴム印で打っていた。
真ん中の歯車に数字が書かれたゴムが巻かれていて、例えば、その年の123番目に受け取った願書には0123という数字を、3ヶ所にゴム印で印字する。
アナログな方法だ。
僕が、ちょっと、他のことに気を取られていて、0123 0123 0123 と三ヶ所ゴム印を押さないといけないのに 0123 0123 と番号を二ヶ所だけ印字した。
すると、そういうアナログな方法だと次の入学願書に印字すると0123がまだ一回分残っているので、
次の願書に三ヶ所には0123 0124 0124 と二種類の番号が混在してしまうことになる。
それを見つけた事務の女性が「ナカシマさん、願書、2ヶ所しかゴム印押してないじゃないですか、これだと次の願書から番号が狂ってしまいます」と言った。
それで僕は「ごめんなさい」と言って、2ヶ所しか番号を押していない、願書をもう一度出して0123と三つ目の押印をした。
やれやれ、と思って、ほっとしていた。
しばらくして、僕に「願書2ヶ所しか番号押してないじゃないですか」と言ってきた女性の職員が席をはずしたときにK子さんが僕のそばに来て
「ナカシマさん、そういうときはこうすればいいんですよ」と言って。
彼女は0125 0125と願書に二回ゴム印を押した。
その次に彼女は、廃紙(いらなくなった紙)を出してきて、そこに0125 0126 0126 0126と4回押印した。
「ね、こうすると0125が2回しか押してなくても、0126を3回押したところで区切りがつくでしょ」と彼女は言った。
そして彼女はゴム印の数字が巻き付けてある、歯車のところに手を突っ込んで、それを回してちょっと強引に番号を戻して、もう一度数字を0125にした。
「こうすると、次に願書に印鑑押すときに、また0126から始まって、それを3回押すと次の0127に番号がが切り替わるから大丈夫ですよ。ヤバイときは、この手を使ってください」と言った。
いやあ、あのときも、すごいと思った。
確かに、その原理 原則を知っていれば、不注意で番号を押す回数を間違えても、歯車そのものを操作して番号を直すことで、いくらでも修復が可能だ。
あのときはいいこと教えてもらったなと思った。
たぶん、彼女は、予備校に勤めていた頃のアルバイトの女の子で、僕にとってはもっとも印象深い子の一人だと思う。
結局、間違えることを、過度に恐れるのではなく、間違ったときに、どう対処したり、修正するかということを考えている彼女の姿勢に魅力を感じたのだと思う。
まあ、確信犯的に間違い電話をかけるというのはちょっと大胆すぎるかもしれないけれど、、、。
彼女は、女子大に通っていて、学園祭の時 「ナカシマさんもよかったら来てください」、と僕に言ってくれた。
僕が「いやあ、女子大の学園祭に行くのは、ちょっと恥ずかしいし、緊張するから」と言ったら、「そんな考えがダメなんですよ」と彼女は言った。(それでも結局、僕は学園祭には行かなかった。やっぱりちょっと恥ずかしくて行けなかった)
いやあ、なつかしいな。
もちろん、彼女が、今、どうしているかは全くわからない。
当時は大学生だったけれど、今、年齢を計算すると、今年で彼女も52才になる。
信じられない。 僕も歳をとるはずだと思う。
それは、ともかく、いちにちいちにち無事ですごせることを第一に願っていきたい。