田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『青春デンデケデケデケ』

2016-05-11 08:33:59 | All About おすすめ映画

『青春デンデケデケデケ』(92)

時代を超えた青春映画の名作

 芦原すなおの直木賞受賞小説を大林宣彦監督が映画化しました。今回の舞台は、大林監督が得意とする地元・尾道ではなく、1960年代の香川県観音寺です。

 ベンチャーズの「パイプライン」(サビの部分が”デンデケデケデケ”と聴こえる)に感化されてバンドを組んだ4人の高校生(林泰文、大森嘉之、浅野忠信、永堀剛敏)のロックに明け暮れる高校生活を描きます。

 大林監督は、あえてくすんだ色調の画面にし、手持ちカメラでの撮影による揺れや移動を生かして、ドキュメンタリータッチで彼らの姿を追います。

 彼らや周囲の人々の日常を極普通のものとして描いたからこそ、この映画は時代を超えた青春映画の名作足り得たのです。

 クライマックスは町の皆が集う学園祭での演奏会。そして彼らにも、卒業、別れ、青春の終わりが訪れます。

 見終わった後に、もう一度高校時代に戻りたい、けれども決して戻れない、と気づいてちょっと切なくなるような、すてきな映画です。

 全編を彩る当時のヒット曲に加えて、久石譲の音楽も印象に残ります。特にメインテーマ曲の「青春のモニュメント」が絶品です。

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『シコふんじゃった。』(92)

2016-05-10 08:30:27 | All About おすすめ映画

相撲は際物でも、単なるスポーツでもない



 この映画の主人公は教立大学4年生の山本秋平(本木雅弘)。彼は、穴山教授(柄本明)に呼び出され、卒業に必要な単位と引き換えに相撲部に入ることを提案されます。ところが部は廃部寸前で、部員は相撲通なのにまだ一度も勝ったことがない8年生の青木(竹中直人)たった一人でした…。

 この映画は、フランスの詩人ジャン・コクトーが相撲について書いた「力士たちは、桃色の若い巨人で、シクスティン礼拝堂の天井画から抜け出して来た類稀な人種のように思える~」という文章を、相撲部のOBで顧問の穴山が暗唱するシーンから始まります。オープニングで、相撲は際物でも、単なるスポーツでもないということをきちんと明示しているのです。

 そして、端々に穴山と青木の“相撲ガイド”を交えながら、全く相撲に興味がなかった秋平が、相撲に対して本気になっていく姿を描いていきます。演じる俳優たちの取り組みが段々と様になっていき、まわし姿がかっこ良く見えてきます。

 監督の周防正行は、『ファンシイダンス』(89)の修行僧、『Shall we ダンス?』(96)の社交ダンスなど、ハウツー物を得意としていますが、この映画では相撲の仕組みや魅力を分かりやすく説明しています。もちろんクライマックスは部の生き残りを懸けた大学対抗のリーグ戦ですが、結果は見てのお楽しみ。一種の“スポ根”物なのに見た後にはさわやかな印象が残ります。

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『学校』(93)

2016-05-09 09:10:20 | All About おすすめ映画

幸せっていうのは…



 幅広い年代の生徒が集まる、東京・下町の夜間中学を舞台にした群像劇。労働と教育というテーマは、山田洋次監督が1970年代からこだわってきた題材です。『男はつらいよ 寅次郎かもめ歌』(80)にも夜間高校の授業風景が印象的に登場します。

 この映画のクライマックスは、クラスの一員だったイノさん(田中邦衛)の死をきっかけに、「幸せとは何か」「人はなぜ学ぶのか」を教師(西田敏行)と生徒たちが語り合う授業のシーンです。 

 笑いあり涙ありの回想を挿入しながら、見事なディスカッションドラマが展開されます。そして、和夫(萩原聖人)が「幸福とは…、ああ、生きてえなあとか、生きてて良かったなあとか、そういうこと。でもよく分かんねえ」と語ると、それを受けて江利子(中江有里)が「それを分かるために勉強するんじゃない。それが勉強なんじゃない」と語ります。

 これは『男はつらいよ 寅次郎物語』(87)で、甥の満男(吉岡秀隆)に「人間は何のために生きてるのかな」と聞かれた寅次郎(渥美清)が「あ-生まれて来て良かったなって思うことが何べんかあるだろう、そのために人間生きてんじゃねえのか」と答えるシーンとも通じます。

 山田監督は自作の中で常に幸せとは何かを問い掛けています。冨田勲がこの映画のために作曲したテーマ曲のタイトルもズバリ「幸せっていうのは…」です。

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『陽のあたる教室』

2016-05-06 09:47:14 | All About おすすめ映画

『陽のあたる教室』(95)

音楽を媒介とした心の交流

 1960年代から現代まで、音楽教師ホランズ(リチャード・ドレイファス)の半生を編年体で描きます。原題は「ホランズ氏の作品」。その作品とは生徒たちのことです。生活のために教師となり、音楽家になる夢を捨てた自分は人生の敗者だと思っていた男が、教師として多くの生徒に影響を与えた人生の勝者だったというのが大きなテーマです。監督のスティーブン・ヘレクは、よく似たテーマを描いたフランク・キャプラの『素晴らしき哉、人生!』(46)を参考にしたと語っています。

 主人公が音楽教師ということで、もちろん授業ではバッハ、ベートーベンといったクラシックが流れます。また、ホランズは、クラリネットが苦手な女生徒のためにアッカー・ビルクの「白い渚のブルース」を教え、耳の不自由な息子のために手話を交えながらジョン・レノンの「ビューティフル・ボーイ」を歌ったりもします。

 ほかにもジョージ・ガーシュインの「アイ・ガット・リズム」やジャクソン・ブラウンの「プリテンダー」などが登場します。そして最後は、定年を迎えたホランズを送るために、生徒たちが一同に会して彼が作曲した交響曲を演奏するのです。音楽を媒介とした教師と生徒の心の交流が心地良く展開していきます。ヒット曲を使って時代の変化を表すという手法は、同時代の『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94)とも共通するものです。

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『クイズ・ショウ』(94)

2016-05-03 12:55:13 | All About おすすめ映画

アメリカのテレビ界を揺さぶった実話を映画化



 1950年代後半のアメリカのテレビ界を揺さぶった実話をロバート・レッドフォード監督が映画化しました。そのスキャンダルとは…。

 NBCの人気クイズ番組「21」は、風采の上がらぬチャンピオン(ジョン・タートゥーロ)に代わって、ハンサムな大学教授(レイフ・ファインズ)をスターにするため、あらかじめ問題と解答を彼に知らせていたのです。

 レッドフォード監督は、クイズ番組のやらせの実態をサスペンスフルに暴きながら、テレビが大衆を飲み込み始めた時代を見事に再現しています。そこには、テレビというメディアの持つゆがみや階層による差別なども描き込まれています。

 また、当時のヒット曲「マック・ザ・ナイフ」の使い方も印象に残ります。オープニングでは軽快なリズムのものが流れ、何か楽しいことが起きるという期待感をあおりますが、全てが明るみに出たラストではスローなリズムに変調され、祭りが終わった後のような空しさを感じさせます。とてもうまい使い方です。

 結局、この後もテレビは勝ち続け、クイズ番組も生き続けましたが、過去の事件を掘り起こし、今の時代にも通じる普遍的な問題として描いたところにアメリカ映画の本領が発揮されているのです。

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『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(90)

2016-04-29 08:00:48 | All About おすすめ映画

歴史は見方や立場によって異なるのだ



 南北戦争時の開拓地を舞台に、インディアンと共に生きた元北軍中尉ダンバーの目を通して、軍隊や開拓者の恥部を明らかにしていきます。

 チェロキー・インディアンの血を引くケビン・コスナーが監督・主演し、アメリカ西部開拓史上のタブーに挑みました。

 この映画は、インディアンの文化や思想の豊かさを描く一方、先住民族を虐殺し、バッファローを絶滅寸前に追いやった者として白人を描いていきます。

 それは例えば、軍隊に捕らわれの身となったダンバーをインディアンが救出に来る場面に象徴されます。

 この場面は、インディアンに襲われた人々を騎兵隊が救いに来るという従来の西部劇とは逆のパターンなのですが、この映画を通してインディアンに感情移入をした観客は、その姿に拍手を送ることになるのです。

 インディアンから見れば白人は侵略者以外の何者でもないということ。コスナーはこの映画を通じて、歴史は見方や立場によって異なるのだということを明らかにしました。

 アカデミー賞では、コスナーの作品、監督賞のほか、ジョン・バリーの作曲賞、ディーン・セムラーの撮影賞など大量受賞を果たしています。この結果を、ハリウッド映画人の良識とする向きもありました。

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『クール・ランニング』

2016-04-22 08:11:07 | All About おすすめ映画

『クール・ランニング』(93)

事実は小説よりも奇なりの面白さ

 この時期のディズニー(ブエナ・ビスタ)映画は、少年アイスホッケーチームのコーチを主人公にした『飛べないアヒル』(92)など、人生に挫折した主人公がスポーツを通して再生する姿を描いたものを得意としていました。この映画は、ジャマイカのボブスレーチームが苦労の末にオリンピックに出場する模様をコミカルに描きます。

 まず、常夏の国ジャマイカのチームが冬季五輪に出場するという発想がユニーク。しかもフィクションではなく実話を基にしたというところが大きいのです。奇抜なアイデアを駆使した彼らの特訓を見ると、事実は小説よりも奇なりの面白さを感じることができます。そして最後は、五輪で健闘を見せた彼らの姿に拍手を送らずにはいられなくなります。

 この映画には、もともとは「参加することに意義がある」と唱えながら、金メダル至上主義へと変化した五輪やスポーツ界全体への痛烈な皮肉が込められています。4人の選手たちに加えて、コーチ役のジョン・キャンディがいい味を出していますが、惜しくもこの映画の日本公開直後に亡くなりました。

 監督はジョン・タートルトーブ。この映画を出世作とし、後に『あなたが寝てる間に…』(95)『フェノミナン』(96)などを手掛けました。

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『フェノミナン』

2016-04-20 09:22:20 | All About おすすめ映画

『フェノミナン』(97)

少しだけ世界を変えた男の話



 “現象”を表すタイトルのちょっと不思議な味わいを持った映画。アメリカの片田舎で平凡な暮らしを営むジョージ(ジョン・トラボルタ)は、37歳の誕生日の夜に、謎の閃光を目撃したことで不思議な力と天才的な頭脳を得ます。

 ジョージはこの奇跡を人々のために生かそうと考え、実行します。ところが、初めはジョージが起こす数々の奇跡に拍手を送っていた隣人たちが、彼の行動に疑問や恐怖を抱くようになり、彼を疎外し始めるのです。

 そして、四面楚歌の中でとうとうジョージは引きこもり状態に…。そんなジョージのもとを、恋人のレイス(カイラ・セジウィック)が訪れます。

 その時、ジョージの顔をおおった無精ひげをレイスがきれいにそってあげるシーンは、この映画のテーマである“再生”を的確に表現し、忘れ難いものになっています。やがてジョージの身に起きた奇跡は病のためだと分かり、レイスとの別れが訪れます。

 そしてラストシーン、エリック・クラプトンが歌う「チェンジ・ザ・ワールド」をバックに、“主人公のいない誕生パーティ”を見せながら、ジョージがまいたさまざまな種が結実した様子を見せて映画は終わります。

 そうですジョージは少しだけ世界を良い方向に変えたのです。このように、実際にはあり得ない話を、見ている間はそう感じさずに見せ切るのがアメリカ映画伝統の力技です。

 監督は『クール・ランニング』(93)『あなたが寝てる間に…』(95)を撮ったジョン・タートルトーブ。この映画も、心温まる反面、人生の厳しさや皮肉も感じさせ、本当に幸福な人生とは何なのかを問い掛けてきます。

 トラボルタとセジウィックに加えて、ジョージの親友役のフォレスト・ウィテカー、後見人的な町医者役のロバート・デュバルも実にいい味を出しています。

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『タイムコップ』(94)

2016-04-19 08:42:28 | All About おすすめ映画

弱みを見せるヴァンダムが見もの



 近未来を舞台に、タイムトラベルの技術を悪用して過去に戻り世界を支配しようとする集団と、彼らを取り締まる“タイムコップ”との戦いを描きます。オープニングは南北戦争。株価暴落直後のウォール街など、さまざまな時代が見られる楽しみもあります。

 監督は『カプリコン・1』(77)『アウトランド』(81)といったアイデアの豊かさで勝負するSF映画を手掛けてきたピーター・ハイアムズですから、この手の映画はお手の物です。

 ジャン・クロード・ヴァンダムがタイムコップに扮し、妻(ミア・サラ)を殺された過去を変えるために何度も過去と現在とを行き来します。映画の“テイク~(撮り直し)”の手法を利用して、同じシチュエーションの細部を変えることで幾通りかの違った結果が出る面白さが楽しめます。得意のアクションに加えて、珍しく弱みを見せて悩むヴァンダムの姿が見ものです。

 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズと、『ターミネーター』シリーズを足して2で割ったような、なかなか出来のいいB級SF映画です。

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『ジュラシック・パーク』(93)

2016-04-15 08:34:20 | All About おすすめ映画

恐竜という“未知との遭遇”映画



 この映画の主役は、遺伝子操作=バイオテクノロジーでよみがえらせた恐竜たち。よみがえった彼らを集めてテーマパークを作るが…というのが大筋です。こんなとんでもないことを考えたのは映画監督としても知られたマイケル・クライトン。これは夢の実現かそれとも自然界への冒涜か、と随分話題になりました。

 その原作を基に、CG(コンピューター・グラフィックス)を使って映画の中に恐竜たちをよみがえらせたのは、SF映画を得意とするスティーブン・スピルバーグでした。首長竜ブラキオサウルスが初めて画面に現れた時の驚きを忘れることはできません。そして、ティラノザウルス、ヴェロキラプトルなど大小取り混ぜた個性的な恐竜たちを見せながら、観客にテーマパーク体験をさせていきます。

 スリルの盛り上げ方は『激突!』(71)『ジョーズ』(75)をほうふつとさせるもので、怖がらせ屋でいたずらっ子のようなスピルバーグの真骨頂とも言えるものです。また、この映画とシリアスな『シンドラーのリスト』(93)を並行して撮影していたというのですから驚きます。彼は本当に映画を撮ることが好きでたまらないのでしょう。そんなこの映画は、永遠の映画青年スピルバーグによる、恐竜という“未知との遭遇”映画なのです

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