田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』

2024-11-28 10:56:51 | 新作映画を見てみた

『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』(2014.11.27.オンライン試写)

 カナダの田舎町で暮らす高校生のローレンス(アイザイア・レティネン)は、映画が生きがいで、ニューヨーク大学でトッド・ソロンズ監督から映画を学ぶことを夢見ている。社交性に乏しい彼は唯一の友人であるマットと毎日つるみながらも、そんな日常が大学で一変することを願っていた。

 そして、高額な学費を貯めるために地元のビデオ店「Sequels」でアルバイトを始めたローレンスは、かつて女優を目指していた店長のアラナ(ロミーナ・ドゥーゴ)らと出会い、奇妙な友情を育んでいく。だが、ローレンスは自分の将来に対する不安から、大事な人たちを決定的に傷つけてしまう。

 レンタルDVD全盛期の2003年のカナダを舞台に、他人との交流が苦手でトラブルばかり起こしてしまう映画好きな高校生の奮闘を描いた青春コメディ(という割にはちょっと苦いが…)。監督・脚本は、本作が長編デビューとなるチャンドラー・レバック。自伝的なストーリーだが、主人公の性別をあえて男性に変更して撮り上げたのだという。

 ローレンスにとって映画は希望であり逃げ場でもあり、唯一熱中できるもの。だがそれを他者と共有できず、独りよがりになる様子は、映画好きの者からすると、自分の一部を見せられているように感じるところもあるだろう。だから彼を心底憎むことができないのだ。

 自分を大きく見せたいために他人を見下すローレンスの突っ張る姿が痛々しくて、見るのがつらくなってくるところもあるが、そんな彼を突き放さず、優しい目線で描いているところに救いがある。ただ、ローレンスの変転を見せるラストシーンは果たしてハッピーエンドなのかという気がした。

 スタンリー・キューブリックについてなど、映画ネタが満載。特に『パンチドランク・ラブ』(02)『マグノリアの花たち』(89)のことが気になって見たくなるかもしれない。店長役のロミーナ・ドゥーゴもなかなか魅力的だった。

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『キノ・ライカ 小さな町の映画館』

2024-11-28 10:21:23 | 新作映画を見てみた

『キノ・ライカ 小さな町の映画館』(2014.11.27.オンライン試写)

 フィンランドの鉄鋼の町カルッキラに、映画監督のアキ・カウリスマキと仲間たちが誕生させた町で初めての映画館キノ・ライカ。深い森と湖、そして現在は使われなくなった鋳物工場しかないこの町で、住民たちは映画館への期待に胸をふくらませ、映画について口々に語り始める。

 カウリスマキと共同経営者の作家ミカ・ラッティが2021年に映画館をオープンさせるまでの様子や、住民たちがインタビューに応じる姿などをヴェリコ・ヴィダク監督がカメラに収め、カウリスマキが自ら館内の内装や看板設置などの作業に勤しむ姿も映しだす。

 映画館が完成するまでの様子を緩い感じで追っていくドキュメンタリー。さまざまな町の住民たちに加えて、カウリスマキ監督の『希望のかなた』(17)に出演した人々や『枯れ葉』(23)に出演した女性デュオ、盟友ジム・ジャームッシュ監督らも登場し、カウリスマキとの思い出や映画への思いを語る。現地に移り住んでいる日本人による日本語の歌も流れる。

 こうして住民たちが映画館に期待を寄せる姿を目にすると、改めて映画館の存在意義について考えさせられるし、北欧らしいデザインで建てられたこの映画館に行ってみたくなる。


『枯れ葉』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/a2ba83e384b497f5e9d859d4fc2f257b

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『ザ・バイクライダーズ』

2024-11-27 08:40:16 | 新作映画を見てみた

『ザ・バイクライダーズ』(2024.8.21.東宝東和試写室)

 1965年、シカゴ。不良とは無縁の日々を送っていたキャシー(ジョディ・カマー)は、けんかっ早くて無口なバイク乗りのベニー(オースティン・バトラー)と出会って5週間で結婚を決める。ベニーは地元の荒くれ者たちを束ねるジョニー(トム・ハーディ)の側近でありながら群れることを嫌い、狂気的な一面を持っていた。

 やがてジョニーの一味は「ヴァンダルズ」というモーターサイクルクラブに発展し、各地に支部ができるほど急速に拡大していく。その結果、クラブ内の治安は悪化し、敵対するクラブとの抗争も勃発。暴力とバイクに明け暮れるベニーの危うさにキャシーが不安を覚える中、ヴァンダルズで最悪の事態が起こる。

 アメリカの写真家ダニー・ライアンが1965~73年にかけてシカゴのバイクライダーの日常をとらえた同名写真集にインスパイアされた作品で、伝説的モーターサイクルクラブの栄枯盛衰を描く。監督・脚本は『MUD マッド』(12)『ラビング 愛という名前のふたり』(16)のジェフ・ニコルズ。

 ノスタルジックな雰囲気があるこの映画は、60年代のバイクカルチャー(バイク、ジャケット、ブーツ、ワッペン、酒とたばこ、ロック、リーゼント、そして写真…)に興味がある人にはたまらないものがあるだろう。

 だが、たとえそうでなくても、ライダーたちの群像劇として楽しめるし、その中から、失われた時代への郷愁や、リーダーの存在、組織を運営する難しさなどが浮かび上がってくるところが面白い。

 そのアウトローたちについて、女性であるキャシーがインタビューを受けながら、一歩引いた目で当時を振り返るという構成もユニーク。ハーディやバトラー、マイケル・シャノンらの渋い演技も見ものだ。

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『ドリーム・シナリオ』

2024-11-26 21:59:35 | 新作映画を見てみた

『ドリーム・シナリオ』(2024.11.26.オンライン試写) 

 大学教授のポール・マシューズ(ニコラス・ケイジ)は、妻(ジュリアンヌ・ニコルソン)と2人の娘と一緒にごく平凡な生活を送っていた。だがある日突然、何百万人もの人々の夢の中にポールが一斉に現れたことから一躍有名人となる。

 メディアからも注目を集め、夢だった本の出版まで持ちかけられて有頂天のポールだったが、ある日を境に夢の中のポールが人々にさまざまな悪事を働くようになり、現実世界の彼も大炎上してしまう。自分自身は何もしていないのに人気者から一転して嫌われ者になったポールは果たしてどうなるのか…。

 このところ『ボーはおそれている』『関心領域』『シビル・ウォー アメリカ最後の日』といった問題作を連作しているA24の製作映画。『ミッドサマー』(19)のアリ・アスターが製作に名を連ね、『シック・オブ・マイセルフ』(22)のクリストファー・ボルグリが監督・脚本を担当した。

 大勢の人々の夢の中に、なぜポールが現れたのかについての理由は説明されない。それ故、ポールが抱く困惑や恐怖が強調される。また、この上ない不条理な状況に陥っていくボールの姿を通して、インターネットミームの功罪や、群集心理の恐ろしさを感じさせるあたりがユニークだ。

 ケイジは、人一倍の承認欲求はあるものの、主体性がなく風采も上がらないポールという”一人の人物"を演じているのだが、彼はいろいろな夢の場面に現れるので、こちらはケイジが一人で何役も演じているような錯覚に陥る。このあたりは映像のトリックをうまく利用している。

 『ペイ・ザ・ゴースト ハロウィンの生贄』(15)でケイジにインタビューした際に、B級アクションやホラー映画が好きなのかと尋ねると、「ホラー映画は本質的に創造力にあふれたジャンルだと思っているから僕にとっては特別なもの。個人的には超自然現象や幽霊が出てくるようなチャーミングなホラーが好き。SFにはとても興味がある、なぜならSFの形を借りて今という時代の社会や世界についていろいろなことを語ることができるからだ」という答えが返ってきた。

 また、幅広い役柄を演じ分けるコツについては、「僕にとっては興味や多様性を持ち続けることが必要なので、広範囲にわたる役柄を演じている。一つの役柄を演じ続けたり、同じタイプの映画に出演し続けることがないようにしている」と語った。

 プロデューサーも兼ねているこの映画は、彼のそうしたポリシーを如実に反映しているとも言えるだろう。

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『グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声』

2024-11-13 21:41:24 | 新作映画を見てみた

『グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声』(2024.10.31.TOHOシネマズ日比谷.完成披露試写会.東和ピクチャーズからの招待)

 将軍アカシウス(ペドロ・パスカル)率いるローマ帝国軍の侵攻により、愛する妻を殺されたルシアス(ポール・メスカル)。全てを失い、アカシウスへの復讐を胸に誓う彼は、マクリヌス(デンゼル・ワシントン)という謎の男と出会う。

 ルシアスの心の中で燃え盛る怒りに目をつけたマクリヌスの導きによって、ルシアスはローマへ赴き、マクリヌスが所有する剣闘士となり、力だけが物をいうコロセウムでの戦いに参加する。

 帝政ローマ時代の剣闘士(グラディエーター)を描いた『グラディエーター』(00)の24年ぶりの続編。前作に続いてリドリー・スコットが監督。本作の主人公となるルシアスは、前作でラッセル・クロウが演じたマキシマスとルッシラ(コニー・ニールセン)との間に生まれた息子という設定。

 86歳のスコット監督による、ローマの再現度やコロセウムでの剣闘アクションはすごい。前作と比較するとどこまでが実景でどこからがCGなのか見分けがつきにくくなり、よりリアルな映像になっている。

 ただ、なぜ今この続編なのかという疑問は拭えない。このところスコット監督は『最後の決闘裁判』(21)『ハウス・オブ・グッチ』(21)『ナポレオン』(23)と、1作ごとに違う題材を選んで、老いてますます意欲的なところを感じさせたからだ。

 ところが、この映画の場合は、登場人物のキャラクターが前作に比べると皆薄い感じがする。何より主人公のルシアスにあまり魅力がないから、彼の抱く怒りや母との屈折した関係も中途半端な形に見える。それ故、奴隷から奴隷商人に成り上がったワシントン演じるマクリヌスが余計に目立ってしまうという人物描写におけるバランスの悪さが目立つ。

 前作に続いてルッシラを演じたコニー・ニールセンにインタビューした際に、製作意図について尋ねると、「ローマの共和制の問題点は、われわれが生きている今の世界が直面している数々の問題と重なる部分が多い。リドリー・スコット監督もそのことを強く意識していたと思う」と説明してくれた。なるほどそういうことだったのかと少し合点がいった。


『グラディエーターⅡ』トークイベント
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/beb0f7fdacb5939d4f0656233146c995

『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』衣装展
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/9502d3e0eecfdfa73fffa365123ac320

『グラディエーター』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/53ab4794e289d836c1c99bbd24bd08ac


 

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『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』

2024-11-12 08:17:14 | 新作映画を見てみた

『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』(2024.011.9.オンライン試写)

 真面目な税務署員の熊沢二郎(内野聖陽)は、天才詐欺師の氷室マコト(岡田将生)の巧妙な詐欺に引っかかり大金をだまし取られてしまう。

 熊沢は、親友で刑事の八木(皆川猿時)の助けで氷室を探し出したが、氷室は熊沢にある提案をする。それは熊沢が部下の望月(川栄李奈)と共に追っている権力者の橘(小澤征悦)を詐欺にはめ、彼が脱税した10億円を納税させるので、その代わりに自分を見逃してほしいというものだった。

 熊沢は犯罪の片棒を担ぐことに戸惑いながらも、橘へのある復讐のため、氷室と組むことを決意。2人は癖者ぞろいのメンバーによる詐欺師集団「アングリースクワッド」を結成し、壮大な税金徴収ミッションに挑む。

 『カメラを止めるな!』(17)の上田慎一郎監督が、韓国ドラマ「元カレは天才詐欺師 38師機動隊」(16)原作に、真面目な税務署員と天才詐欺師が手を組んで脱税王から10億円を奪い取るべく奮闘する姿を描いたクライムサスペンス。森川葵、後藤剛範、上川周作、真矢ミキ、鈴木聖奈らが共演。上田監督とテレビドラマ「相棒」シリーズなどの岩下悠子が共同で脚本を手がけた。

 『カメラを止めるな!』の大成功以降、スランプが続いた感があった上田監督が、今回は、冒頭からラストまでの巧みな展開で、見る者を心地よくだますような快作を放った。詐欺師集団のメンバーがそれぞれのスキルを生かし、鮮やなチームプレーで行う信用詐欺の様子を見ていると、『スティング』(74)の楽しさを思い出した。

 また、気弱な税務署員を演じた内野が見せるコミカルな味わい、何を考えているのか分からないところが魅力の岡田、一人で敵役を背負った小澤をはじめ、キャスト陣もそれぞれの持ち場で好演を見せる。

 半ばコメディー仕立てでありながら、脱税など理不尽な問題への怒りが根底にある骨太な映画という言い方もできる。

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『六人の嘘つきな大学生』

2024-11-11 11:37:05 | 新作映画を見てみた

『六人の嘘つきな大学生』(2024.11.6.東宝試写室)

 大手エンターテインメント企業「スピラリンクス」の新卒採用の最終選考に残った6人の就活生への課題は「6人でチームを作り、1か月後のグループディスカッションに臨むこと」だった。

 全員での内定獲得を夢見て万全の準備で選考日を迎えた6人だったが、急に「残るのは1人だけ。その1人は皆さんで決めてください」という課題の変更が通達される。会議室という密室で、共に戦う仲間から一つの席を奪い合うライバルとなった彼らに追い打ちをかけるかのように、それぞれに当てた6通の怪しい封筒が発見される。

 そして次々に暴かれていく、6人のうそと過去の罪。互いが疑心暗鬼になる異様な雰囲気の中、犯人と1人の合格者を出す形で最終選考は幕を閉じる。

 悪夢の最終選考から8年がたったある日、スピラリンクスに1通の手紙が届いたことで犯人の死が発覚する。犯人が残したその手紙には、「犯人、〇〇さんへ。」という告発めいた書き出しに続き、あの日の全てをくつがえす衝撃的な内容が記されていた。残された5人は、真犯人の存在をあぶり出すため、再びあの会議室に集結する。うそに次ぐうその果てに明らかになる、あの日の真実とは…。

 伏線回収で人気を博している浅倉秋成の小説を基に、就職活動の場を舞台に6人の大学生たちの裏の顔が暴かれていく“密室サスペンス”的な要素と、暴かれたうそと罪の真相を検証しながら、それぞれが自らの人生と向き合っていく“青春ミステリー”の要素を掛け合わせて映画化。6人を演じるのは、浜辺美波、赤楚衛二、佐野勇斗、山下美月、倉悠貴、西垣匠という若手俳優陣。監督は佐藤祐市、脚本は矢島弘一。

 前半のグループディスカッションに備える6人の和気あいあいとした様子が一気に変調する後半とのギャップが目を引く。ディスカッションドラマとしては、密室で有罪か無罪かを裁く陪審員たちの動静を描いたシドニー・ルメット監督の『十二人の怒れる男』(57)やその影響を受けた三谷幸喜脚本の『十二人の優しい日本人』(91)をほうふつとさせるものがある。

 この映画では「美しい月の裏側は見えない」ことに例えて、人の一面だけを見て判断する面接試験に対する疑問を投げかける。自分も面接される側はもちろん、する側も経験し、人が人を選ぶ理由の曖昧さや理不尽さも承知しているので、追い詰められた彼らの姿を見ていると切なくなるところがあった。

 犯人の動機がいささか弱い感じがしたのが難点だが、全体的にはなかなかよくできた青春ミステリーという印象を受けた。

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『本心』

2024-11-08 07:30:10 | 新作映画を見てみた

『本心』(2024.7.26.アスミック・エース試写室)

 近未来、工場で働く石川朔也(池松壮亮)は、同居する母の秋子(田中裕子)から「大切な話をしたい」という電話を受けて帰宅を急ぐが、豪雨で氾濫する川べりに立つ母を助けようと川に飛び込んで昏睡状態に陥る。

 1年後に目を覚ました朔也は、母が“自由死”を選択して他界したことを知る。勤務先の工場はロボット化の影響で閉鎖しており、朔也は激変した世界に戸惑いながらも、カメラを搭載したゴーグルを装着して遠く離れた依頼主の指示通りに動く「リアル・アバター」の仕事に就く。

 ある日、仮想空間上に任意の“人間”を造る「VF(バーチャル・フィギュア)」の存在を知った朔也は、母の本心を知るため、開発者の野崎(妻夫木聡)に母のVF造りを依頼する。その後、母の親友だったという三好(三吉彩花)が台風の被害で避難所生活を送っていると知り、母のVFも交えて一緒に暮らすことになるが…。

 石井裕也監督が平野啓一郎の同名小説を基に、発展し続けるデジタル化社会の功罪を鋭く描いたヒューマンミステリー。田中裕子が朔也の母役で生身とVFの2役に挑み、綾野剛、田中泯、水上恒司、仲野太賀らが共演。石井監督と池松は9作目のタッグになるという。

 AI、バーチャルリアリティーへの依存というSF的な発想を使って、人の本心を知ること、あるいはAIとの疑似会話は果たして幸せなことなのか、またアイデンティティーとは何なのかを問う点では、先に公開された、クローンを扱った『徒花』とも通じるものがある。

 映画の作り手は、最新のテクノロジーに敏感に反応してすぐに取り入れる半面、それに対する恐れも感じているのではないか。実のところ今は、亡くなった俳優や本人に似せたAIを出演させることもできるのだ。では映画にとって俳優の存在とは一体何なのか…。この映画はそうした心情も反映していると思う。


【インタビュー】『本心』三吉彩花
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/46d9b360193f5b5adf6b22bcd2543893

『破墓/パミョ』『徒花 ADABANA』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/55cac40c236edc9e27faa7d033e059ca

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『レッド・ワン』

2024-11-07 13:21:29 | 新作映画を見てみた

『レッド・ワン』(2024.11.5.ワーナー神谷町試写室)

 クリスマスイブの前夜、コードネーム「レッド・ワン」ことサンタクロース(J・K・シモンズ)が何者かによって誘拐された。心優しくマッチョなサンタクロース護衛隊長のカラム(ドウェイン・ジョンソン)は、サンタの存在を信じない世界一の追跡者にして賞金稼ぎのジャック(クリス・エバンス)と手を組み、サンタ救出のために世界中を飛び回る。だが、彼らの前に立ちはだかる誘拐犯は、サンタの力を利用してある恐ろしい計画を企てていた。

 『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』(17)『ジュマンジ/ネクスト・レベル』(19)のジョンソンとジェイク・カスダン監督が三度タッグを組んだアクションアドベンチャーコメディー。

 例えば、クリスマスを信じない男が主人公のチャールズ・ディケンズの小説『クリスマス・キャロル』を現代風にアレンジした『3人のゴースト』(88)、果たしてサンタクロースは実在するのかを裁判する『三十四丁目の奇蹟』(47)とリメーク作の『34丁目の奇跡』(94)、その名もズバリの『サンタクロース(85)、最近では、やさぐれた暴力サンタが登場する『バイオレント・ナイト』(22)など、クリスマスの奇跡とサンタクロースの映画は、毎年のように手を変え品を変えて作り続けられている。

 今回はサンタが誘拐されたことで、24時間以内に彼を救出しなければクリスマスが中止になるというアイデアが新味だ。そのピンチを回避するために、ザ・ロックと呼ばれスーパーヒーローを演じてきたジョンソンとアベンジャーズでキャプテンアメリカを演じたエバンスがバディとなり、加えて「チャーリーズ・エンジェル」シリーズのルーシー・リューも絡むところが見どころの一つ。北極にあるサンタの基地はハイテクで、クリスマスのサンタのハードワークぶりが描かれるのも面白い。

 全体のテーマは、クリスマス伝説の再構築とひねくれた大人になってしまったジャックの父親としての再出発というお決まりのパターンだが、やはりラストシーンにはほろりとせられる。

 そもそもクリスマスだけを特別な1日だとは考えずに、毎日がクリスマスだと思えば、みんなが幸せに暮らせるのかもしれないが、なかなかそうはいかない。だからこそこうした映画に価値があるのだ。

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『アイミタガイ』

2024-10-31 00:36:41 | 新作映画を見てみた

『アイミタガイ』(2024.9.25.オンライン試写)

 ウエディングプランナーとして働く梓(黒木華)は、親友の叶海(藤間爽子)が事故で亡くなったことを知る。恋人の澄人(中村蒼)との結婚に踏み切れない梓は、叶海と交わしていたスマホのトーク画面にメッセージを送り続ける。

 同じ頃、叶海の両親の優作(田口トモロヲ)と朋子(西田尚美)のもとに、見知らぬ児童養護施設から娘宛のカードが届く。そして叶海の遺品のスマホには、たまっていたメッセージの存在を知らせる新たな通知が入る。

 一方、金婚式を担当することになった梓は、叔母(安藤玉恵)の紹介でピアノの演奏を依頼しに行ったこみち(草笛光子)の家で、中学時代の叶海との思い出がよみがえる。

 親友を失った女性を中心に思いがけない出会いが連鎖していく様子を描いた群像劇。中條ていの同名連作短編集を基に、市井昌秀が脚本の骨組みを作り、故佐々部清監督が温めていた企画を草野翔吾監督が引き継いで完成させた。人から人へとバトンタッチされながら出来上がった映画。そのことがすでにこの映画のテーマを象徴しているといってもいい。

 「アイミタガイ」とは「相身互い」と書き、同じ境遇にある者同士が同情し助け合うことを意味するが、この映画の惹句では「気付かぬうちに人は触れ合い、思いは優しく巡っている」と表現されている。

 そして、全てのことは偶然ではなく必然であり、人と人との縁やつながりを深く感じさせる心温まる物語が展開していくのだが、悪人が全く登場しない展開に気恥ずかしさを覚えるところもある。

 ところが、劇中に「善人ばかりが出てくる小説は信用できないと思っていたが、それを信じたくなる」というせりふが出てくる。つまり、そうした疑問を逆手に取ってちゃんと主張する。まさにその言葉こそがこの映画の了見なのだ。

 ラストのつじつま合わせが見事だ。映画ならではのカメラワークを駆使して 同じ場面を異なった視点で見せる。すると登場人物の絡まり方が変化し、点と点が線になってやがて円になる。途中まで別々に進んでいた話が最後に全て結びつく快感が得られるのだ。

 また、「遠き山に日は落ちて(家路)」「ラブ・ミー・テンダー」といった挿入曲が素晴らしい。特にエンディングロールに流れる「夜明けのマイウエイ」(歌・黒木華)は、もともとは荒木一郎作詞・作曲の「ちょっとマイウエイ」(79~80)というテレビドラマの主題歌だが、歌詞がこの映画の内容とぴったり合う。よくぞこの曲を使ったものだと感心させられた。

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