新型コロナウイルスの感染者増加を受けて、ついに小池都知事が「感染爆発の重大局面を迎えた」と発表した。そんな中、頭に浮かんだのは、この映画と、小松左京原作の角川映画『復活の日』(80)のことだった。
『アウトブレイク』(95)(1995.3.17.ワーナー試写室)

アフリカから持ち込まれた致死性の高いウイルス(エボラ出血熱に似た、モターバという架空のもの)による「バイオハザード(微生物災害)」に立ち向かう人々の姿を描く。
監督のウォルフガング・ペーターゼンは『ザ・シークレット・サービス』(93)でハリウッド進出を果たしたが、必ずしも彼の持ち味が生かされた傑作とは言い難い出来で、少々心配した。
ところが、この映画で、ドイツ時代のあの『Uボート』(81)に見られた抜群のスピード感を、題材によってはハリウッドでも生かせることを証明し、どうやらハリウッドでの居場所を見つけたように見えた。
もっとも、この映画の面白さは、今のエイズの時代に、さらに進んだウイルスの存在を描いた新しさと怖さ、そして、限られた時間内にその根源を突きとめるというサスペンスにある。
そして、現実には、エイズにすらこれといったワクチンがないこともあり、この映画での、いささか安易過ぎるとも思えるワクチンの発見が、逆に見る者に安堵感を与えるという効果を生んでいる。
さらに、パニックシーンでは、先の阪神淡路大震災での悪夢を想起させられる場面も多い。そうした点では、時代に敏感なアメリカ映画の懐の深さやしたたかさを改めて思い知らされた気もする。
キャストでは、ダスティン・ホフマンが、程よいくささの演技で新たなキャラクターを創造したのに加えて、相手役のレネ・ルッソがますます輝いてきた感じがした。
この映画を見て、思い出したのは、細菌兵器によるウイルスの蔓延を描いた『復活の日』(80)のことであった。思えば、あの映画は、すでに15年近くも前に、この映画のさらに先の“ウイルスによる人類の終末”を描いていたのだから、先見の明があったのだ。それにしても、われわれが迎える21世紀とは、果たして幸せな世界なのだろうか…という漠然とした不安が、こうした映画を作らせ、身近なものに感じさせるのかもしれない。

【今の一言】95年当時は、エイズにおびえていたが、25年後の今はコロナウイルスにおびえている。『復活の日』では、緒方拳が演じた医師が、パニックの中でこんなセリフを吐く。「どんなことにでも終わりはある。どんな終わり方をするかだが…」。これはコロナウイルスにも当てはまる怖いセリフだ。