映画監督志望の青年・門川は、夢破れ、アパート管理のアルバイトをして生計を立てていた。ある日、団地に住む独居老人の帯屋が部屋で亡くなっているのを見つけた門川は、遺品整理の際に、古い映画雑誌に加えて、謎の8ミリフィルムと映写機を発見する。映っていたのは重いリヤカーを引きながらも、笑顔を絶やさない行商の女性。並外れた映像力とそこに映った女性に興味を持った門川は、帯屋の人生をたどってみることにする。
一本の8ミリフィルムに隠された一人の男の思いを、映画監督志望の若者が探ってくというアイデアは、映画好きにとっては興味深いものがある。そして、好きな映画を聞かれて、「~きっとスピルバーグやルーカス、タランティーノらの名前を挙げると思っていただろう。そんなミーハーじゃないというところを示したかった」として、あえてアキ・カウリスマキの『浮き雲』(96)を挙げるひねくれ者の門川が、帯屋の人生を知るうちに変化していくところが読みどころとなる。
読みながら、戦争体験、孤独死、限界集落、無縁社会…といったつらい問題が浮かんでくるのだが、ラストに「私の人生のエンディングがどんなものであれ、エンドロールには多くのキャストの名前が連なることでしょう。そこに誇りの持てる人生を送ってきたつもりですし、今後もそうするつもりです」という帯屋の手記を持ってきて、彼の死は決して無縁でも孤独でもなかったとするところに作者の主張がある。
恐らく作者は「(その人が)どんな土地に生まれて、どんな生き方をしたのか。それを覚えていてくれる人がいる限り、人は孤独ではない」と言いたかったのだろう。この小説は東日本大震災発生直後に書かれたという。
3択、マークシート形式の全80問。それほど難解な問題はなかったが、「うーん、どっちだったっけ」と迷ったものをことごとく間違えて、目標だった9割正解を下回ってしまった。まだまだ修業が足りません。
歴代大河ドラマ私的ベストテン(制作年度順)は、
国盗り物語
花神
黄金の日日
獅子の時代
おんな太閤記
武田信玄
翔ぶが如く
秀吉
新選組!
真田丸
「大河ドラマ検定」のホームページは
http://www.kentei-uketsuke.com/taiga/
『ほぼ週刊映画コラム』
今週は
死を通して生を考える喜劇
『神様メール』
『素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店』
詳細はこちら↓
http://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1052252
映画の中のポール
ブルックリンに暮らす、40代と20代のカップルの交流とギャップをコミカルかつシニカルに描いたノア・バームバック監督の『ヤング・アダルト・ニューヨーク』で、ウングス時代のポール・マッカートニーの曲が印象的に使われていた。
映画の中盤で流れるのは1973年発表のアルバム『バンド・オンザ・ラン』のラストを飾った壮大な名曲「西暦1985年=Nineteen Hundred and Eighty Five」。
この曲は、「1985年になったら、生き残っている人は誰もいないんじゃない?」というちょっと怖い一言で始まるのだが、ポールにそう言ったのは妻のリンダだったという説がある。
今や85年は遥か遠くに過ぎ去り、ジョンも、ジョージも、そしてリンダも亡くなったけれど、ポールは現役で頑張っている。そう考えながら改めてこの曲を聴くと感慨深いものがあったし、中学時代から愛聴していたこの曲を、去年ライブで初めて聴いた時に思わず涙腺を刺激されたことを思い出した。
ちなみに85年のポールは、ジョン・ランディス監督の『スパイ・ライク・アス』のテーマ曲を作っている。
もう一曲、エンドクレジットで流れるのは、76年発表のアルバム『スピード・オブ・サウンド』に収められた愛すべき一曲で、アメリカ建国200周年を記念して書かれた「幸せのノック= Let 'em in」。
この映画は、冒頭にイプセンの『棟梁ソルネス』の一節を引用し、これから描く、新世代を受け入れるか否かで悩む旧世代の葛藤を明示しているが、紆余曲折を経て、「彼らを中に入れてあげてよ」とポールが歌うこの曲を最後に流すことで、主人公の心の変化を表しているわけだ。
サミット開催に合わせて公開?
『エンド・オブ・ホワイトハウス』(13)の続編。敏腕シークレットサービスのマイク・バニング(ジェラルド・バトラー)が今回は英ロンドンを舞台に大活躍を見せる。英国首相の葬儀に出席するためロンドンを訪れた各国首脳を狙った同時多発テロが発生。生き残った米大統領(アーロン・エッカート)とバニングの逃亡劇が描かれる。
テロの恐怖と逃亡劇を、テンポのいいアクションで描いているが、結局、テロに屈しないアメリカ、テロと戦う強いアメリカというテーマが前面に押し出され、後味の悪さが残る。描かれる背景がリアルな分、現実離れしたアメリカの正義の主張が空しく映り、単純なアクション劇として心底楽しめない。
それにしても、伊勢志摩サミットの開催に合わせたかのように公開するとはいい根性をしている。
「月曜ロードショー」の荻昌弘さんの解説風に書いてみた。
今晩お送りするのは、メジャーリーグ史上最年長の35歳で投手としてデビューしたジム・モリスの実話を基にした物語です。この映画が公開された時、これは実話だっていうけれど、なんだか漫画みたいだっておっしゃる方が大勢おられました。確かにそういうところはありますよねえ。
けれども私、思うんです。アメリカ人にとってベースボール=野球ってやつは、もうスポーツという枠を超えて、生活の一部や文化の一つになっているんじゃなかろうか? だからこそこういう映画が作られるのではないかと。
しかも、この映画では、そこに野球を通した父と子の絆の再確認が描かれる。つまりこれは、ロバート・レッドフォードが演った『ナチュラル』(84)や、ケビン・コスナーの『フィールド・オブ・ドリームス』(89)なんかで描かれたテーマと同じものであるわけなんですねー。
それにしてもメジャーリーグでプレーするっていうことが、いかに大変なことなのか…。この映画を見るとよく分かります。今、新たな大記録を達成しようとしているイチローの凄さを改めて感じずにはいられません。
『ほぼ週刊映画コラム』
今週は
みんなが成りたかった大人に成れるわけじゃない
『海よりもまだ深く』
詳細はこちら↓
http://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1051130
もう一度『栄光のル・マン』を見直してみようか…
自身もカーレーサーとして鳴らした希代のアクションスター、スティーブ・マックィーンが企画、製作、主演し、ル・マン24時間耐久レースの模様を描いた『栄光のル・マン』(71)。その製作の裏側を描いたドキュメンタリー映画が公開された。
『栄光のル・マン』は、当初は『戦雲』(59)『荒野の七人』(60)『大脱走』(63)でコンビを組んだジョン・スタージェスが監督をしていたが、レースのリアリティーを求めるあまり、人間ドラマを極力排除しようと考えたマックィーンと対立し、スタージェスは監督を降りてしまう。以後、二人が顔を合わせることは二度となかった。
『栄光のル・マン』の製作に関してはこれが最大の不幸だったとも思えるが、このドキュメンタリーは、ほかにもさまざまなトラブルが発生し、追い詰められていくマックィーンの姿を追いながら、ヒーローではない、苦悩する生身のマックィーンの孤独な姿を浮き彫りにしていく。先妻のニール・アダムス、息子のチャドら、残された者たちの証言も切なく響く。
ところで、『栄光のル・マン』本編の方は、74年のリバイバル時にテアトル東京で見た。マックィーンの主演映画ということで、大いに期待したのだが、思いのほか退屈な映画で見ながら睡魔に襲われた記憶がある。以来、自分の中では封印したマックィーン映画になっている。
マックィーン自身は、ジョン・フランケンハイマー監督、ジェームズ・ガーナー主演の『グラン・プリ』(66)に先を越されたと悔しがっていたようだが、映画の出来という点では、贔屓目に見ても軍配は『グラン・プリ』に挙がるとずっと思ってきた。40年余りの歳月を経て、このドキュメンタリーを見た後で見直せば、その印象は変わるのか。
いずれにせよ、マックィーンファンの一人として、もう一度『栄光のル・マン』を見直してみる必要があると感じさせてくれるドキュメンタリーではあった。
ライアン・ゴズリングが、昼はスタントマン兼修理工、夜は車での“逃がし屋”を演じた『ドライヴ』(11)。デンマーク出身のニコラス・ウィンディング・レフンが監督したこの映画を、『シェーン』(53)の現代版のようだとする声がある。
流れ者の孤独な主人公が偶然知り合った人妻(キャリー・マリガン)に惚れ、彼女の幼い息子をかわいがり、前科者の亭主(オスカー・アイザック)を犯罪組織の手から救おうとする。
そして最後は自らの手で全てを精算し、傷を負いながら去っていく、という構図は確かに『シェーン』と似ているが、果たしてレフンは『シェーン』を意識して撮ったのだろうか。それとも偶然の一致なのか。このあたり、本人に確かめてみたくなる。
ところで、ジェームズ・サリスの原作『ドライヴ』は、かつてウォルター・ヒル監督作の『ザ・ドライバー』(78)として映画化されたことがある。
こちらは、主人公は同じくライアン・オニール演じる“逃がし屋”だが、ブルース・ダーンの刑事とのチェイスが中心に描かれ、イザベル・アジャーニの謎の女がこれに絡むという話になっていた。つまり同じ原作を基にしながら、全く別の映画が出来上がったというわけだ。
『ドライヴ』は、主人公が車を走らせるロサンゼルスの風景(『タクシードライバー』(76)のニューヨークとは別種の趣あり)、ニューシネマを思わせるスタイリッシュな映像や音楽も魅力の一つになっている。
そういえば、『タクシードライバー』は『捜索者』(56)に影響を受けているとする声もある。こういう話題はきりがない。
『THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本』287号に『ふたりの桃源郷』佐々木聰監督へのインタビュー記事掲載。
本作は、電気も水道も通わない中国地方の山中で暮らす田中寅夫さんとフサコさん夫婦と、彼らを支える家族の姿を、25年にわたって追い続けたKRY山口放送の人気テレビドキュメンタリーシリーズを一本の映画としてまとめたもの。二人の姿を通して、生きがい、家族、老い、死などについて問い掛ける。
街で販売員の方を見掛けましたら、ぜひお買い求めください。
表紙はジュリア・ロバーツです。
ビッグイシュー日本のホームページは↓
http://www.bigissue.jp/latest/index.html