田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

東京国際映画祭『アンダードッグ』

2020-10-31 10:22:45 | 新作映画を見てみた

 第33回東京国際映画祭2020が開幕。例年以上に盛り上がっていないが、コロナ禍の今年は開催できただけでも良しとするべきなのだろう。キャッチコピーは「bloom(咲く)」「信じよう、映画の力」。

 オープニングは、武正晴監督、森山未來主演のボクシング映画『アンダードッグ』。前編(131分)と後編(145分)を合わせると276分=4時間36分という長尺だ。

 これは、同じくボクシング映画で、前篇(157分)と後篇(147分)を合わせると304分=5時間4分という『あゝ、荒野』(17)と同じ手法であり、ネットでの配信と並行している点、長時間をかけた割には人物描写が浅いのも同様。ボクサーに扮した森山未來、北村匠海、勝地涼の体を張った頑張りが空回りしている。

 そして、どちらも試合や練習のシーンはいいのに、なぜ必要以上に性描写や貧困、虐待、マイノリティといった問題を盛り込もうとするのか、なぜストレートなボクシング映画にはできないのか? という疑問を感じる。今の映画は、こうした問題を入れ込まないと駄目だという、妙な思い込みに捉われ過ぎているのではないかと思う。

 特に足立紳の脚本は、この映画に限らず異常な性に関するこだわりが強過ぎる。それが邪魔をして、主題からのズレが生じ、結局、映画全体からは散漫な印象を受けることになるのだ。

 

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【インタビュー】『相撲道~サムライを継ぐ者たち~』武隈親方(元大関・豪栄道)

2020-10-30 06:23:12 | インタビュー

 10月30日から全国順次公開。境川部屋所属の武隈親方(元大関・豪栄道)に、映画の見どころや、相撲に対する思いなどを聞いた。

「自分にとっては、人生の全てが相撲でした」
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/interview/1248066

『相撲道~サムライを継ぐ者たち~』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/d1abc37a91e97391cd767c262dc05b49

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『映画の森』“音”が主役のドキュメンタリー映画

2020-10-29 14:16:14 | 映画の森

 共同通信社が発行する週刊誌『Kyoudo Weekly』(共同ウイークリー)10月26日号、『映画の森』と題したコラムページに“音”が主役のドキュメンタリー映画『ようこそ映画音響の世界に』『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩』掲載。

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『カサブランカ』

2020-10-28 06:15:54 | 1950年代小型パンフレット

『カサブランカ』(42)(2006.2.7.)



 舞台は、第二次世界大戦下のフランス領モロッコのカサブランカ。ここは、アメリカへ行くためには必ず通らなければならない寄港地だった。そこで酒場を営むアメリカ人のリック(ハンフリー・ボガート)のもとに、昔パリで突然姿を消した元恋人のイルザ(イングリッド・バーグマン)が、夫で反ナチス活動家のラズロ(ポール・ヘンリード)を伴って現れる…。

 この映画、何度見てもバーグマンが演じたイルザという女になじめない。2人の男の間でユラユラ揺れて、態度がはっきりしないからだ。彼女に振り回されるリックやラズロが何だか哀れになってくる。

 もっともバーグマン自身も、なかなか仕上がらない脚本にイライラさせられ、はっきりしないイルザの性格が好きになれず、最後までこの役に感情移入ができなかったという。それ故、完成した映画も嫌いで、ちゃんと見ていないらしいのだ。

 ところで、もともとこの映画はボギー+バーグマンではなく、ロナルド・レーガンとロザリンド・ラッセル(アン・シェリダン説もあり)で映画化される予定のB級の企画だったらしい。それがどうしたわけかボギー+バーグマンになり、複数の人物が手掛けた脚本をハワード・コッチがなんとかまとめ上げたのだという。

 監督はハンガリー出身のマイケル・カーティス。脇役に同じくハンガリー出身のピーター・ローレ、オーストリア出身のポール・ヘンリード、そしてスウェーデン出身のバーグマンが出演することで、図らずも、単なるメロドラマではなく“反ナチズム”を反映した国際的な?戦時映画として仕上がり、後には古典となってしまったという不思議な作品なのだ。小学生の頃、リバイバルされたこの映画のタイトルを見て、訳も分からず“カサブタ”を思い浮かべたのはまた別の話だが。

 さて、ジュリー=沢田研二が歌った「カサブランカ・ダンディ」の阿久悠の詩が、この映画の内容を見事に表現している。

ききわけのない女の頬を、ひとつふたつ張り倒して、背中を向けて煙草を吸えば、それで何も言うことはない。
嬉しい頃のピアノのメロディー、苦しい顔で聴かないふりして、男と女は流れのままに、パントマイムを演じていたよ。
ボギー、ボギー、あんたの時代は良かった。男がピカピカのキザでいられた。ボギー、ボギー、あんたの時代は良かった。
男がピカピカのキザでいられた。

しゃべりすぎる女の口を、醒めたキスでふさぎながら、背中のジッパーつまんでおろす、ほかに何もすることはない。
想い出ばかり積み重ねても、明日を生きる夢にはならない。男と女は承知の上で、つらい芝居を続けていたよ。
ボギー、ボギー、あんたの時代は良かった。男のやせ我慢、粋に見えたよ。ボギー、ボギー、あんたの時代は良かった。
男のやせ我慢、粋に見えたよ。

イングリッド・バーグマンのプロフィール↓


クロード・レインズのプロフィール↓



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『次郎長三国志』(08)

2020-10-26 07:36:34 | ブラウン管の映画館

『次郎長三国志』(2008.7.9.角川試写室)

 幕末の侠客、清水の次郎長とその一家の存在を、後世に語り継ぐ役割を果たした人々がいる。次郎長の養子になった天田五郎が記した『東海遊侠伝』。「次郎長伝」を広めた講釈師の神田伯山。浪曲師、広沢虎造の名調子。村上元三の『次郎長三国志』とそれを何度も映画化したマキノ雅弘監督。彼らがいなければ、次郎長はもとより、大政、小政、法印大五郎、桶屋の鬼吉、森の石松、増川仙右衛門、追分三五郎、関東綱五郎といった個性豊かな子分たち、黒駒の勝蔵や保下田の久六といった敵役も、歴史の中に埋もれていたことだろう。

 最初に見た“次郎長伝"は、竹脇無我主演のテレビドラマ。それから鶴田浩二主演の東映版、小堀明男主演の東宝版にさかのぼって、結局はいろいろと見ていることになる。よく泣き、よく歌う、純情で不器用な愛すべき男たち。だんだんと仲間が増えていくグループ劇としての面白さもある。そして旅とけんかと恋女房、これだけ揃えば、映画やドラマの素材としては格好で、番外編も含めて、誰が撮ってもそこそこ面白く描ける題材だろう。

 で、今回は、マキノ雅弘の甥で、増川仙右衛門を演じたこともある津川雅彦がマキノ姓を名乗って監督し、次郎長役の中井貴一をはじめ、子分衆も頑張ってはいるのだが、やはり過去の田中春男の法印、田崎潤の鬼吉、水島道太郎の小政、河津清三郎と大木実の大政などにはかなわない(森繁久彌の石松は、うま過ぎて少々鼻につく)。そんな中で、今回は、次郎長の恋女房お蝶役の鈴木京香がなかなか良かった。

 それにつけても、「旅姿三人男」(作詩 宮本旅人 作曲 鈴木哲夫 昭和13年)は、今回の宇崎竜童版は、あまりピンとこなかったが、曲自体は改めて名曲だと感じさせられた。

♪清水港の名物は お茶の香りと男伊達 見たか聞いたかあの啖呵 粋な小政の 粋な小政の 旅姿
富士の高嶺の白雪は 溶けて流れるまし水で 男磨いた勇み肌 何で大政 何で大政 国を売る
腕と度胸じゃ負けないが 人情絡めばついホロリ 見えぬ片目に出る涙 森の石松 森の石松 良い男
男清水の次郎長は 愛しい女房を振り分けて 那賀の長旅那賀の國 富士が見送る 富士が見送る 茶の香り♪

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『ロスト・バケーション』

2020-10-26 07:01:53 | ブラウン管の映画館

B級アクションの鑑のような傑作(2016.8.1.MOVIX亀有)



 いずれもリーアム・ニーソンが主演した『アンノウン』(11)『フライトゲーム』(14)『ラン・オールナイト』(15)という、アクション映画の佳作を撮ってきたスペイン人監督ジャウマ・コレット=セラがまたやった!

 今回は『アデライン、100年目の恋』(15)の美人女優ブレイク・ライブラリーを主役に迎え、人里離れたビーチで人食いザメと対決する羽目になったヒロインのサバイバルを描く。

 原題は「The Shallws=浅瀬」。医学生サーファーのナンシーは、サーフィン中にサメに襲われ、海岸からわずか200メートルの岩場に一人取り残される。持ち物はピアスとストップウォッチのみという絶望的な状況だ。そしてサメが周遊する中、満潮の時が迫り、岩場が海面に沈み始める。絶体絶命のナンシーの運命やいかに…。

 スピルバーグの名作『JAWS/ジョーズ』(75)の、三人の男たちと巨大ザメとの対決とは異なり、一対一の対決の面白さと女性が主人公という意外性の妙を見事に組み合わせ、凝ったカメラワークで見せる。ライブラリーの熱演にも増して、脇役のカモメ(スティーブン・シーガル)が抜群の存在感を示すのも面白い。単純明快ながらアイデア満載のストーリー展開、しかも上映時間は86分という、B級アクションの鑑のような傑作だ。

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【ほぼ週刊映画コラム】『彼女は夢で踊る』

2020-10-24 06:40:18 | ほぼ週刊映画コラム

共同通信エンタメOVOに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』

今週は
ストリップ劇場を舞台にしたラブストーリー
『彼女は夢で踊る』

詳細はこちら↓
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1247546

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『新・喜びも悲しみも幾年月』

2020-10-23 23:35:55 | 映画いろいろ

『新・喜びも悲しみも幾年月』(86)(1986.7.4.銀座文化)

 全国各地の灯台を転々としながら、海と航路の安全を守り続ける灯台守。彼とその老父との心のふれあいを中心に、厳しく地味な仕事に挺身する灯台守一家の生活を通して、父と子、夫婦の愛を描く。

 前作『喜びも悲しみも幾年月』(57)から30年近い歳月が流れたのに、なぜ今さら新版を作る必要があったのか、という疑問は最後まで消えなかったし、何年間かの出来事を追っているのに、時の流れの描写が淡白で、テンポの甘さが目に付いた。前作は、3時間近い映画であったからか、時の流れの描写に無理がなく、一気に見せられた覚えがあるだけに、今回はちょっと残念な気がした。

 もっとも、前作にあった、戦争あるいは灯台員の苦労といったドラマチックな背景に取って代わるものが、今の時代にはない、というハンディは確かにあったのだろうが、もとより、それを承知で撮ったのだから、木下惠介にしては平板だなあ、という印象は拭えない。これは彼の老いによるものなのだろうか。

 この映画の前に撮られた『この子を残して』(83)を見た時にも感じたのだが、木下の映画は、あまりにも善意の正攻法で撮られているため、その全てにうなずけない、ひねくれた自分のような者は、最近の彼の映画には気恥ずかしさすら感じてしまうのだ。

 例えば、この映画で描かれた夫婦、父と子、舅と嫁、子どもたち、隣人たちの、善意で固められた姿は、ひどく現実離れをしている。山田洋次の寅さんをはじめとする一連の映画も含めて、これぞ松竹大船調と言ってしまえばそれまでなのだが、何か釈然としない。嫌でも、木下惠介のズレや老いを感じさせられてしまうのである。

 主人公の灯台員(加藤剛)の父親を演じた植木等が、黒沢明の『乱』(85)に続いて、見事なコメディリリーフぶりを発揮して、この映画を随分救っている。巨匠に重宝される今の姿は、「無責任」シリーズを“責任を持って”演じていた賜物なのだろう。

【後記】植木等は、この後、無責任男がリバイバルヒットして大いに気を吐いた。

 98年に黒澤明と木下惠介が相次いで亡くなった時、この映画が追悼放送された。(1999.1.9.)

 映画公開時、木下恵介の“時代とのズレ”には少なからず気づいていた。ところが今回、木下恵介自身の死、という事実を前にこの映画を観直すと、意外にも明るい、半ばコメディー・タッチの演出がなされていたことに気づいた。

 もともと、木下は明るいコメディーに才があったのに(『お嬢さん乾杯』(49)『破れ太鼓』(49)『カルメン故郷に帰る』(51)…)、何故かメロドラマやホームドラマの方に移っていってしまったのだが、最後は本分に戻ろうとしていたのかもしれないと思うとちょっと切ない気もする。

 そしてこの映画のラストシーンで、焼き捨てるように頼まれた祖父のアルバムを拾い上げ、「おじいちゃん、これはオレがもらっておくよ」と後継ぎ? を宣言する孫の姿にこそ、彼が若い世代に託したかった希望や本音が出ていたのではないだろうかと思った。

 

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『テキサス』

2020-10-23 07:21:26 | ブラウン管の映画館

『テキサス』(66)(1974.12.8.『日曜洋画劇場』)

 開拓時代のアメリカ。ルイジアナ娘のフィービー(ローズマリー・フォーサイス)と結婚するためやって来たスペイン貴族のドン(アラン・ドロン)は、結婚式の当日、殺人の罪で追われるはめに。テキサスに逃れる途中、ドンは武器商人のサム(ディーン・マーティン)に護衛として雇われるが、ひょんなことからコマンチ族との争いに巻き込まれてしまう…。ラストの石油にまみれた“泥試合”が印象的。

 ドロンが西部劇に初挑戦し、マーティンと軽妙な掛け合いを見せるが、アメリカ進出は不成功に終わる。『レッド・サン』(71)ではガンマンを演じたが、あれはアメリカ映画ではない。監督のマイケル・ゴードンは赤狩りに巻き込まれたが、復帰後はコメディ映画を中心に活躍した。

『違いのわかる映画館』vol.02 新宿K's CINEMA アラン・ドロン生誕75周年映画祭
https://www.enjoytokyo.jp/feature/season/cinema/vol02.html

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『この子を残して』

2020-10-22 10:05:41 | 映画いろいろ

 連続テレビ小説「エール」で、「長崎の鐘」に関するエピソードが描かれていた。吉岡秀隆が演じた永田のモデルは医学博士の永井隆。彼を主人公にした映画を木下惠介が撮っている。

『この子を残して』(83)(1983.10.13.蒲田ロキシー)

 長崎への原爆投下で被爆し、妻を亡くした放射線医学博士の永井隆(加藤剛)は、2人の子どもを育てながら、戦争と原爆の記録を記していく。木下惠介監督が永井の手記を原作に描いた。

 意地悪な見方をすれば、原爆を題材にしたキリスト教賛美の映画で、あまりにも出来過ぎの主人公、善意の押し売り的なところもある、と思えなくもない。だが、この映画には、そうした木下の欠点を忘れさせるほどの、強いメッセージが込められているとも思う。

 何故なら、唯一の被爆国である日本で、核の恐怖をテーマにした映画が、どれほど作られているのか、と考えてみても、本多猪四郎の『ゴジラ』(54)、黒澤明の『生きものの記録』(55)、松林宗恵の『世界大戦争』(61)ぐらいしか思い浮かばない(新藤兼人の『原爆の子』(52)『第五福竜丸』(59)、関川秀雄『ひろしま』(53)は未見)。しかも、それらは随分前の映画なのだ。

 今また、核の恐怖が叫ばれている時代であるにもかかわらず、そうした映画が作られない現状を思えば、今回、木下が果たした役割はやはり大きなものがあったと言うべきだろう。

 木下は、最近の『衝動殺人 息子よ』(79)『父よ母よ!』(80)では、あくまで正攻法で、現代の不条理に対する怒りを描いている。この映画もその延長線上にあるのだが、われわれ見る側は、その全てを受け入れるだけの心を持ち合わせていないからか、その作風に、時代遅れや偽善的なものを感じて、反発を覚えながら見ているところがあるのは否めない。

 だが、そうした反発を受けながら、高齢であるにもかかわらず、自らのヒューマニズムを押し通す姿には感動させられる。そして、その力強い頑固さこそが、木下惠介の真骨頂なのだろう。というわけで、反発と感動という、相反する感情を抱かされた不思議な映画になった。

【今の一言】この後、今村昌平の『黒い雨』(89)、黒木和雄の『父と暮せば』(04)、山田洋次の『母と暮せば』(15)、片渕須直の『この世界の片隅に』(16)など、生活に密着した視点からの映画が作られた。

古関裕而と「モスラの歌」
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/b2d01a14e59904a17d8f14f4d1eb25e7

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