人々の善意が心に染みる映画
この映画は、『或る夜の出来事』(34)『スミス都へ行く』(39)『素晴らしき哉、人生!』(46)など、数々の名作を残したフランク・キャプラ監督の最後の作品です。
キャプラといっても、若い方にはなじみが薄いかもしれませんが、私は、現在作られている“ハートウォームもの”と呼ばれる映画やドラマのほとんどが、彼の映画の影響下にあるといっても過言ではないと思っています。
彼の映画は、主人公を絶望的なピンチに立たせながら、ラストで奇跡を起こしてそれを救うという非常に分かりやすいものが多いのですが、その奥には鋭い人間観察の目が光っています。ですから夢物語なのに現実味や説得力があるのです。
では、この映画のあらすじをご紹介しましょう。
ニューヨークの貧しいリンゴ売りの老女アニー(ベティ・デイビス)は、スペインに留学している娘に「自分は貴婦人だ」と嘘をついていました。ところが、娘が伯爵家の御曹司の婚約者を連れて帰国することになったからさあ大変。
そんなアニーを救うためにお人好しのギャング(グレン・フォード)が、仲間や知り合いを集めて彼女を貴婦人に仕立てる大作戦を敢行します。
初めは果たして作戦は成功するのか? というところに興味がいくのですが、やがてアニーのために右往左往する人々の善意が心に染みてきます。作戦の成否は見てのお楽しみです。
『刑事コロンボ』のピーター・フォークをはじめとする脇役たちの演技にも注目してみてください。
なおこの映画は、キャプラにとっては『一日だけの淑女』(33)に続いて2度目の映画化(原作はデイモン・ラニアン)でした。彼はこの話がとても好きだったそうです。
ジャッキー・チェンも『奇蹟』(89)としてリメイクしているので、見比べてみるのも楽しいでしょう。