天才ギタリストの知られざる半生
ナチスドイツが支配する欧州で生き抜いた、ロマ(ジプシー)の血を引く天才ギタリスト、ジャンゴ・ラインハルト(レダ・カテブ)の知られざる半生を、実話を基に描く。
ジャンゴは、ロマ音楽とスイングジャズを融合させた音楽で、後のミュージシャンに多大な影響を与えたことでも知られる。もちろん本作も、その演奏を再現しながら、人種や差別を超えて人々を魅了したジャンゴの魅力を十分に伝えてくれる。
演奏シーンも含めて、ダンディなジャンゴを体現したカテブの好演も光る。
だが、本作のユニークなところは、エチエンヌ・コマール監督が「ジャンゴは、迫り来る危険を聞き取ることを拒否し、目を閉ざしたミュージシャン」と語るように、ナチスの迫害を受けながらも、時代や政治の変化には無頓着で、自分さえよければいいと考えがちだったジャンゴの弱点も描いている点だ。
ところが、それが決してマイナスにはならず、逆にジャンゴの音楽がより人間くさい魅力を持って見る側の心に響くところに、本作の意義を感じることができる。
そんなジャンゴの曲が聴きたくなってちょっと調べてみたら、ルイ・マル監督が第二次大戦中の若者の悲劇を描いた『ルシアンの青春』(74)と、ジョゼ・ジョバンニ監督、アラン・ドロン主演で、ジプシーの血を引く犯罪者の姿を描いた『ル・ジタン』(75)で、ジャンゴの曲が使われていたことを思い出した。
公開時に両作を見た時はジャンゴのことは知らなかったが、今回の映画を見たおかげで、ジャンゴの曲が使われた意味が分かった。40年ぶりの新発見がうれしい。
https://www.youtube.com/watch?v=1Ya6gD_89Vk
ところでコマール監督によれば、『続・荒野の用心棒』(66)のセルジオ・コルブッチ監督は、ジャンゴのファンだったので、フランコ・ネロ演じる主人公の名とタイトルを「ジャンゴ」としたのだという。
そして、彼が両手を潰され、銃が握れなくなりながらも、敵と闘う姿を描いたが、これは、やけどによって左手の薬指と小指に障害が残り、“3本指”でギターを弾き続けたジャンゴの姿から取られたらしい。
また、ジプシーの言葉では、ジャンゴには「私は目覚める、気付く」という意味があるそうだ。こんなふうに、映画の奥に潜む意外な事実を知るのは面白い。