彼女は少し不安げにきょろきょろと周りを見渡し、目が合うと肩位まで手を上げて手招きをした。
「どうしたん? 」
「旦那がな」
「旦那さんがどうしたん? 」
「まだ帰ってこうへん」
「ほんまぁ。で、どこいっとんの? 」
「どこいったんやろなぁ。あの人は仕事に出てくと、なかなか帰ってこうへん人やでなぁ」
「仕事? 仕事って何されてますの? 」
「う~ん。なんやったやろなぁ。大工やったかもしれんけど、ちょっと忘れたわ。帰りまっとんのやけどな」
「それは心配やなぁ。ほんなら、先に夕飯食べてから待ちましょか? 僕も一緒にまっとるから」
「そ~お。そうゆうてもらえるんやったら、先にご飯食べとこか」
「うん。そうしましょに。ごはんも出来とるから」
「ほんまぁ。据え膳で悪いわぁ」
「気にせんでええよ。」
彼女の旦那さんは70年前の沖縄戦で命を絶たれていた。娘さんが平和祈念公園に行き碑の中に刻まれた旦那さんの名前を写真に収めて持ち帰ってきたが、今の彼女にはそれも理解できなくなり、辛い記憶も抜け落ちてしまっていた。背中が曲がり小さくなった身体。車椅子でなければ移動もできない。それでも生きようとする意志は上手く動かせぬ上肢を懸命に使い食事を摂っていた。旦那さんに見守られながら……。
「どうしたん? 」
「旦那がな」
「旦那さんがどうしたん? 」
「まだ帰ってこうへん」
「ほんまぁ。で、どこいっとんの? 」
「どこいったんやろなぁ。あの人は仕事に出てくと、なかなか帰ってこうへん人やでなぁ」
「仕事? 仕事って何されてますの? 」
「う~ん。なんやったやろなぁ。大工やったかもしれんけど、ちょっと忘れたわ。帰りまっとんのやけどな」
「それは心配やなぁ。ほんなら、先に夕飯食べてから待ちましょか? 僕も一緒にまっとるから」
「そ~お。そうゆうてもらえるんやったら、先にご飯食べとこか」
「うん。そうしましょに。ごはんも出来とるから」
「ほんまぁ。据え膳で悪いわぁ」
「気にせんでええよ。」
彼女の旦那さんは70年前の沖縄戦で命を絶たれていた。娘さんが平和祈念公園に行き碑の中に刻まれた旦那さんの名前を写真に収めて持ち帰ってきたが、今の彼女にはそれも理解できなくなり、辛い記憶も抜け落ちてしまっていた。背中が曲がり小さくなった身体。車椅子でなければ移動もできない。それでも生きようとする意志は上手く動かせぬ上肢を懸命に使い食事を摂っていた。旦那さんに見守られながら……。