かわずの呟き

ヒキガエルになるかアマガエルなるか、それは定かでないが、日々思いついたことを、書きつけてみようと思う

吉野弘詩集が届きました。

2015-02-08 | 気ままなる日々の記録

アマゾンに発注していた見出しの詩集が届きました。この詩集にはチョットした思い出があります。およそ20年前、私の兄の長男が結婚したとき、何故か仲人役を頼まれ、苦し紛れに吉野弘の詩を朗読したことがあります。新郎新婦は小学校・中学校時代の同級生で、結婚式もそのころの友人が主催、名古屋市内の庭園付きレストランを借り切り、平服でお越しくださいという案内状だった。高校は別々のようだった。甥は旭ヶ丘高校に進み大学は早稲田大、専攻は数学でドクターの院まで通い、現在は都内の国立大学の准教授だ。まあ、若い人との付き合いが多く、若い人が勇み足で暴走し始めたときも上手に止めてくれるだろうぐらいの思惑で私のところへ大役が回ってきたのだろう。

 私は喜んでお受けしたが、実は「仲人挨拶」と云うか、「お祝いの言葉」をどうしようか考え込み、当時愛読していた吉野弘の詩を朗読して贈ろうと決め,

イラストをちりばめて、この詩を印刷した用紙を用意し会場で全員に配って戴いた後マイクに向かって朗読しました。

届いた詩集を手にして真っ先にその詩を探しました。ありました!。その詩を以下に転記します。

「祝婚歌」    吉野 弘作

二人が睦まじくいるためには
愚かでいいるほうがいい
立派すぎないほうがいい
立派すぎることは
長持ちしないことだと気付いている方がいい
完璧を目指さないほうがいい
完璧なんて不自然なことだと
うそぶいているほうがいい
二人のうちどちらかが
ふざけているほうがいい
ずっこけているほうがいい
互いに非難することがあっても
非難できる資格が自分にあったかどうか
あとで
疑わしくなるほうがいい
正しいことを云う時は
少しひかえめにする方がいい
正しいことをいうときは
相手をきずつけやすいものだと
きづいているほうがいい
立派でありたいとか
正しくありたいとかいう
無理な緊張には
色目を使わず
ゆったり 豊かに
光を浴びているほうがいい
健康で 風に吹かれながら
生きていることのなつかしさに
ふと 胸が熱くなる
そんな日があってもいい
そして
なぜ胸が熱くなるのか
黙っていても
二人にはわかるのであってほしい。

よく練習して少し声色も使って朗読した。朗読が終わって乾杯後、「いい詩でした」と盛んに褒め私にお酒を進めてくださったのは、何と旧婚の方々ばかりで、若い人にはこの詩の良さが分からなかったかもしれないと、がっかりしたことを覚えている。

(注)「旧婚」は「新婚」に対する反対語で造語。結婚後10年以上と思しき年配者のこと。

 

    ↑ 春近し「朝焼け」 

「生命は」    吉野 弘作

生命は

自分自身だけでは完結できないように

つくられているらしい

花も

めしべとおしべが揃っているだけでは

不十分で

虫や風が訪れて

めしべとおしべを仲立ちする

生命は

その中に欠如を抱き

それを他者から満たしてもらうのだ

世界は多分

他者の総和

しかし

互いに

欠如を満たすなどとは

知りもせず

知らされもせず

ばらまかれている者同士

無関心でいられる間柄

ときに

うとましく思うことさえも許されている間柄

そのように

世界がゆるやかに構成されているのは

なぜ?

花が咲いている

すぐ近くまで

虻の姿をした他者が

光をまとって飛んできている

私も あるとき

だれかのための虻だったろう

あなたも あるとき

私のための風だったかもしれない