さむらい小平次のしっくりこない話

世の中いつも、頭のいい人たちが正反対の事を言い合っている。
どっちが正しいか。自らの感性で感じてみよう!

タクシードライバー日記 『どちらまでですか⑤』本社研修、そして地理試験

2023-01-17 | タクシードライバー日記


こんにちは

小野派一刀流免許皆伝小平次です

実は、この小平次、今の生業に就く直前、タクシードライバーを4年半ほどやっていたんです
その時のことを、インド放浪記風、日記調、私小説っぽい感じで記事にしていきます

前回、同期4人で技能試験受検、2回目で私と田村が合格、無事に二種免許を取得した、というところまででした

では、続きです

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 おれと田村、無事に二種免許を取得した、だがそれですぐにデビューできるわけではない。その翌日からは本社で研修、そして地理試験の受験だ。
 おれの入ったタクシー会社は、どちらかと言えば体育会系のノリの会社であった。朝、研修開始時には全員起立、大声で社訓のようなものを唱和、続けて、タクシードライバーの決まり文句を唱和させられる。

『お待ちどうさまでした!』

『ドアを閉めて宜しいですか?』

『シートベルトをお願いします!』

『どちらまでですか?』

『目的地に着きました!』

『領収書をどうぞ!』

『ありがとうございました! また〇〇タクシーをご利用ください!



『領収書をどうぞ!』

 と言うときは、下半身は前を向いたまま、上半身だけ大きく振り返り右手を差し出すポーズをとらなくてはならない、つまり、運転席から後部座席の客に領収書を渡す仕草をするのだ。

 研修は、料金メーターの操作の仕方、クレジットカードを利用する際の機会の操作、カーナビなどの操作の基本、乗務日誌の付け方から一日の流れ、出庫前点検、タイヤ交換などなど、その他、面接時にいたコワモテの教官を中心に厳しいマナー指導を叩きこまれた。
 そして何よりもこの研修の目的は、東京タクシーセンターでの最終研修後の『地理試験』の合格を目指した勉強である。

 タクシーセンターとは、この当時には東京にしかなく、タクシードライバーの、主にマナー教育を目的とした、公益財団法人である。元々は東京タクシー近代化センターという名称であった。『近代化』などという言葉を使うくらい、タクシードライバーのマナーは『前時代的』だと認識されていたのだろう。
 このタクシーセンターに、乗客からクレームが入ると、たとえ些細なことでも、ドライバーと上司は、運行記録を持って出頭しなければならないのだ。一日中仕事をして、ヘトヘトに疲れているのに、江東区の南砂まで出向き、事情聴取を受け、場合によっては長時間説教をされる、会社の優良ランキングポイントにも影響が出る、まさに泣く子も黙るタクシーセンターなのだ。おれは4年半のドライバー生活の中で、幸いここに呼び出されたことは一度もない。

 このタクシーセンターの研修最終日に行われるのが『地理試験』である。地理試験とは一応国家試験であり、これに合格し、タクシーセンターから『乗務員証』を発給してもらい、初めてデビューとなるのだ。この地理試験に合格することで、日本で一番稼げる地域、東京23区、及び武蔵野市、三鷹市で営業ができるのだ。

 だが、この地理試験、何もないところから、本気で合格しようとするとかなり難しい。40点満点中、32点を取らなければならないのだが、研修では高得点を目指すのではなく、この最低点を確保するためだけのノウハウを教えられた。

 地理試験には、決まったパターンの必ず出題される問題がある。まずはこれだ。



 これは、営業エリアの主要幹線道路と、交差点に番号がつけられ、選択肢から回答する、というものである。この問題をクリアするためには、その主要幹線道路と交差点名を全て覚えなくてはならない。

 東京の道路は、皇居を中心に、環状線、と言っても完全な環状を描いてはいないが、内堀通り、外堀通り、外苑東通り、外苑西通り、明治通り、山手通り、環状七号線、環状八号線、が走っている。そして、やはり皇居付近を中心に、東西南北に向かって、主に国道が放射状に伸びている。
 
 国道は区間によって名称も変わるのでややこしい。国道1号は、日本橋を起点に、『中央通り』上を走り、『日本橋』で交差する『永代通り』に入る、そして『大手町』で『日比谷通り』に入り、『日比谷』で『晴海通り』、『桜田門』で左に折れ、『桜田通り』、やがて『第二京浜』と名を変える。

 これはとにかく受験日までひたすら暗記すれば何とかなる。お次はこれだ。



 これは、東京のある地域の地図である。地図上に記されたランドマークを選択肢の中から選ぶのだ。この二つの問題で絶対に点を落とさないようにすれば、25点が確保できる。だが、残りの7点は、パターン化されていない問題が出題され、過去問の量は膨大である。これを確実に覚えるのには、半年以上の時間が必要だろう。

 研修室では、もう1点、高確率で点のとれる方法が伝授された。それは、ある地点からある地点まで、ランダムに並べられた選択肢の交差点名を、最短ルートになるよう並べ替える、というものだ。この問題は、全て『ア』を回答欄に書け、と言うのだ。無理して考えて並べ替えて全滅するよりは、『ア』が正解の一つであれば必ず1点が取れるというわけだ。

 残りの6点は、とにかく膨大な過去問を覚え、何とか確保しろ、という指令だ。

 法律の勉強は一先ず置き、おれはひたすら地理試験対策の勉強をした。そしてタクシーセンターでの研修、いよいよ最終日、地理試験、結果は…。

 おれも田村も一発合格!

 タクシーセンターで乗務員証用の写真を撮り、晴れて乗務員証を受け取る。面接、採用から約一ヶ月と少し、まあ、割と早い方だ。おれは合格の喜びを、他の同期たちに連絡した。おれより先に合格し、すでにデビューしている同期の一人、八重樫、この男はおれと同じ営業所で勤務する、おれのドライバー生活に深くかかわることになる男だ。

 さあ、次は本社での最後の研修、乗務研修だ。研修とは言っても、実際に一人で客を乗せ、一晩走る、これを3回、実質的なデビューだ。


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今の感想
まあ、ここまで長かったですね。ここまで辿りつかないと、研修中の日当や交通費、そういったものが精算されませんので、実質無給、しんどかったですよ。
さて、次回からはようやく、実際に乗せたお客様とのエピソード、他には警察に違反で捕まったりとか、そういったお話を少しずつして行きたいと思います。

 
コメント (4)
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