蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

鬼灯を遠くに投げよ

2008年10月17日 | 小説
詩を載せます。少し長いので前半だけ。HPに移れば(左のブックマークから)
全編を読めます。

鬼灯(ほおずき)を遠くに投げよ
               蕃神 伊沙美

    1

秋の夕暮れの空は青く赤く、白雲の一つなく

土手の草も花も、川面も青くそして赤く染まり
夕暮れに二色に染まり分かれたこの地は幻で
闇はすぐ近くにきている。暗い地上にすぐ戻る
暗闇を知らない私たちは地上に生きながらえ
悲しみと苦しみ憎しみまでも持ち続け、
死者との再会を赤く輝く夕空にひたすら託す

川原で鬼灯を摘み鬼灯は小さな掌にあふれた
母親を見上げながら小さな娘がこう頼んだ
鬼灯はこれで全て、もうこの地にありません。
あなたに頼むのは祈りです。祈りながら鬼灯を唇に含んでください
そして、
鬼灯を遠くに投げてください。遠くの空のあの雲の彼方、雲と雲が流れ行く先、人の思いが風の流れの中で消えていく西の先。そこは親より先に死んだ子が住むのです。西日はその地に届かず赤く消えはて、先だった弟は暗闇の中で哀しい願いを唱えている。母に会いたい姉に会いたいと。そこにまで鬼灯が届くよう投げてください
     
  2

鬼灯をふくむ母の唇(くち)は赤く、頬も目も赤く染まり
赤に照り映える唇から繰り返す呟きは一つの祈り。
赤い祈りの呟きが雲の流れる彼方
言葉も思いも届かない西の果てにある
死んだ子の王国に届けよと
再会を願い呟きながら死子の面影を持ちつづける。

しかし
母の祈りが炎に燃えても子の王国には届かず、
風に言葉託そうとも消え流れ行くのを気付くには
鬼灯をかみしめて黒い身の苦さに気付けばよい
その苦い鬼灯をあの西の空遠くに届けよと投げるのだ

(明日に続く)
コメント
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