蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

ジョークと霊魂への畏怖の関連

2008年10月21日 | 精霊
ジョークを一つ、
カンガルーがパブに入ってきてスコッチソーダのシングルを頼んだ。バーテンが3ドル25セントというとカンガルーは腹の袋から金を取り出して払った。ちびりちびりやっているカンガルーをバーテンは怪訝そうに眺めていた。5分ほどちらちら観察していたが、
「ウチの店にはあんまりカンガルーの客は来ないのですがね…」と切り出した。
カンガルーは「そりゃそうだ、1杯3ドル25セントではね」と答えた。
(オーストラリア・アリススプリングスのパブでの話、以上はエリオット・オウリングという作家の“ジョークと周辺”から)
このジョークは別本からの孫引きです。その本というのが「心の先史時代」(スティーブン・ミズン著、青土社)、精神の考古学を再現しようとした挑戦的内容です。
ジョークに戻ると、不条理がジョークには必要とオウリングは主張している。その典型的な例としてパブのカンガルーを引き合いに出している。
カンガルーはスコッチ呑まない、金がないのでパブに来るはずがない。そもそもカンガルーとパブは次元が違う…それが常識である。ジョークでは「スコッチが高い」から来ないとカンガルーに言わしめている。言外には「英語を理解するカンガルーなんてたくさんいて、皆スコッチを飲みたがってる。安くすれば来る」これは不条理ですね。
ミズンはこの書(心の先史学)でさらに突っ込んでいる。この話をネアンデルタール人に聞かせても彼らはおもしろいジョークだとは絶対に言わないと。なぜならば脳構造で再現するネアンデルタールの思考力は「表象能力」「統合能力」が現人類に劣る。この不条理を遊ぶ「能力」がないらしい。パブで一杯とカンガルーの認識が別個になっていて、それらを融和する統合力がない。
ネアンデルタール人がその場にいたとして、パブでスコッチソーダを出すことは分かる。外にはカンガルーがぴょんぴょんと跳ね回っている(アリススプリングスなので)。ここまではネアンデルタール人も認識できる。金を払うという経済も初歩的には理解できる。しかしジョークが創り出す不条理性の理解はできない(らしい)。
ミズンはあわせて3万年前以前の「初期人類」もジョークを分からない。ここはネアンデルタール並みと主張している。その証拠が道具製作における洗練度(剥離型石器)、絵画などの芸術作品の萌芽などが見られたのがこの時期で、人類がやっと表現し抽象化する能力を獲得した時期にあたる。この時期は石器時代の文明ビックバンともよばれているそうです。それ以前は「表象能力」などを示す発掘物が見あたらない。同じホモサピエンスでも精神史では隔絶している。
何が言いたいかというとこの時期に奇しくも「死者を葬る」事が始まった。すなわち死後の世界、霊魂を鎮め葬祭を行う習慣が始まった。ジョークと霊魂への畏怖、これが3万年前に発生したとも言えそうです。(明日に続きます)
コメント
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