鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

井筒図縁頭 夏雄 Natsuo Fuchigashira

2014-11-08 | 鍔の歴史
井筒図縁頭 夏雄


井筒図縁頭 夏雄

 石目地であろうか、頗る細かな凹凸である。夏雄の傑作の一つ。「伊勢物語」に記されている古歌に題を得たものだが、図から、江戸時代の富裕な子供たちの風俗が窺えて頗る面白い。子供の頃、胸に抱いていた恋心とは、時代を経ても文化が異なっていても同じであることを意味しているのであろう。滑らかな地相は、金属であることを忘れてしまうほど。拡大写真をご覧いただきたい。石目地か腐らかしであろうか判断に困るほどの技術である。髪の毛の細い筋の間にも石目地が加わっていることから、腐らかしを巧みに施したと判断したい。



寒山拾得図鐔 海野勝 Shomin Tsuba

2014-11-07 | 鍔の歴史
寒山拾得図鐔 海野勝


寒山拾得図鐔 海野勝

 朧銀石目地高彫片切彫。勝の傑作のひとつ。地面を鑑賞してほしい。全体を見ると、特に微細な石目地に見え、あるいは腐らかしが施されているのではないかと思えるのだが、仔細に観察すると、朧銀地の素材である合金の結晶粒のような文様(先に紹介した素銅地や朧銀地の自然な肌合い)が見え、これが微細な石目地の連続のように感じられる。この点から、あるいはごくわずかに腐らかしが加えられているのかもしれない。さらに、これに穏やかな彫りようで鑚による石目地処理が加えられているのである。微妙な鋤彫も加えてあり、それらの技術による空気感が素晴らしい。

桐に鳳凰図縁頭 清定 Kiyosada Fuchigashira

2014-11-06 | 鍔の歴史
桐に鳳凰図縁頭 清定


桐に鳳凰図縁頭 仙台清定

 赤銅石目地金素銅朧銀平象嵌線象嵌。仙台清定は平象嵌を得意とした金工。殊に細い線状の平象嵌と、量感のある線象嵌を組み合わせて器物や風景を文様表現している。この縁頭は桐樹に遊ぶ鳳凰を題に得たもので、その華やかな様子を殊に細い線描写している。胴や羽の隙間は朧銀による平面的な平象嵌を加え、さらにその中に平象嵌を施すなど技術を複合させた極めて繊細な仕上げである。さて、それら文様の背後に施されているのが石目地。先端に丸もの感じられる鏨を密に打ち施しているのが判る。


軍配図鐔 仙台清定

 清定が最も得意とした図柄。ほとんどが先に紹介したような石目地仕上げの所々に磨地を設け、細線による金の平象嵌と線象嵌を施す処理であるが、この鍔は極めて特別な魚子地に仕上げられている。□


魚尽図鐔 如竹 Jochiku Tsuba

2014-11-05 | 鍔の歴史
魚尽図鐔 如竹


魚尽図鐔 如竹(花押)

赤銅石目地高彫色絵象嵌。石目地と述べたが、石の表面のようなざらついた感じはない。金工の分野では、鏨で細かく付いたような地模様仕上げの表面処理をすべて石目地と呼んでいる。似た風情がありながらも腐らかしとは分けている。前回に紹介した常重の虎の背後は、見方によれば岩石の肌のようにもなるが、石目地である。如竹の子の手の石目地は、織物の縮緬に擬えて縮緬石目地などとも呼ばれることがある。鐔の切羽台を含めた全面に石目地を加え、魚をくっきりと浮かび上がらせている。□

猛虎図鐔 常重 Tsuneshige Tsuba

2014-11-04 | 鍔の歴史
猛虎図鐔 常重


猛虎図鐔 常重

 常重は江戸の奈良派の金工。奈良派が良く用いた真鍮地の質感と渋い色調が活かされた作。地面は鋤き込んだ部分に鏨を打ち込んで荒々しい空気感を創出している。これは、先に紹介したような、腐らかしによるものではなく、明らかに鏨の打ち込み。切羽台部分を見ても判るように、鏨による点の連続が揃っている。鋤き込んだ部分にも大小の鏨を打ち込んでいる。とにかく迫力がある。このように背景に動きがあると、主題が自然と浮かび上がり、主題が明確になる。地の表現とはこのような意味合いがある。後藤家の魚子地には背景を省略する場合と、明らかに砂浜などを意図する場合があり、各々に活かされている。それは金工作品すべてにおいても言えることであり、この石目地にも多様な表情があることを感じとりたい。

鈴虫図小柄 江川斎桂宗隣 Sorin Kozuka

2014-11-04 | 鍔の歴史
鈴虫図小柄 江川斎桂宗隣


鈴虫図小柄 江川斎桂宗隣(花押)

 魚子地は、江戸時代後期に至ると、写真のように綺麗に揃った仕上がりとなる。もちろんすべての魚子地が同じような美しさではない。魚子地の技術者の技量の違いによって出来が異なる。このように揃うと、写真撮影するとモアレが生じる。印刷や現代のデジタルカメラでは、撮像部分が綺麗に揃った点の連続であるため、同様に魚子地が揃っていると、魚子地とカメラの撮像素子が干渉し合って縞文様ができてしまうのである。そのくらい美しいということ。

葡萄唐草図小柄 古美濃 Komino Kozuka

2014-11-02 | 鍔の歴史
葡萄唐草図小柄 古美濃


葡萄唐草図小柄 古美濃

 これも拙い魚子地処理だ。ところが、高彫された葡萄の葉の構成、葉の縁、所々の打ち込み、葡萄の実の丸さの処理などは精巧で丁寧である。なぜ魚子地はこんなに揃っていないのだろうと感じるほど。このギャップも面白いと感じる。江戸時代を下って来ると、魚子地専門の職人がおり、魚子地のみに技術を集中させていたという。室町時代には、高彫を施した職人自らが魚子地も打ったと考えて良いのであろう。この小柄の魚子地は、常に見られるような粒の大きさではなく、かなり小さい。それが原因しているのかもしれない。確かに光沢のある磨地より、このような霧のかかったような背景の方が、主題が映えるし数段美しい。

菊花図鐔 太刀師 Tachishi Tsuba

2014-11-01 | 鍔の歴史
古美術品というと絵画や焼物、漆製品が多くの方々の興味の対象とされているようです。金工作品というと、良く判らないと言われる方も多いようです。さらに日本刀に関わる装剣小道具となると、少々距離を置きたいという方も多いようです。そこで、少しでも装剣金工について多くの方々に理解してもらい、多様な魅力を感じていただこうと始めたのがブログです。説明する当方も、金工の入口におられる方々に対し、どこから手を付け、どのように金工作品を説明したらよいのか、未だに迷いながら進めています。今は技術的な面で捉え、特に金工作品の繊細な表情を見逃されないよう、鑑賞の様々な要点について述べています。もっと名品を出してほしいという声もありますが、名品ばかりが良いとは言えないのが現実です。安価な作品にも魅力溢れるものがあります。金工作品を紹介する立場にある私たちは、私たちがかつて抱いていたような、金工に興味を抱き始めた方々の新鮮なあるいは自由な、視線や感じ方などを摘み取ってしまわないよう、心を広く持ちたいと改めて感じているところです。

菊花図鐔 太刀師


菊花図鐔 太刀師

 時代の上がる太刀師の作。山銅地高彫。この魚子地も古拙と言って良いのだろうか、味わい格別のものがある。魚子の丸みは充分にあるのだが、揃っていない。それでも縦に並べようと試みているのが判る。内側に装着されている大切羽の魚子地は一際小さいが故、石目地状に見える。でも小さな半球の連続である。高彫の後に魚子地処理をしている。斬り込んだ鏨の強みも同様に、古風な処理が魅力の作である。