「知性」のある人に
楠本憲吉という俳人がおっしゃったことですが、「女の人は一にも、二にも、三にも美しくあってほしい。美しくあるために必要なものは三つ、知性と雅性と安定性だ」。
「知性」の持ち主とは、知識を豊富に持つ人、学歴の高い人のことではありません。よく考えて判断し、行動できる人、教養がある人と言ってもいいでしょう。冷静に物事を判断し、しかる後に行動に移せる一人格の姿です。
このような大人の姿を見て、子どもたちも反射的ではなく、まず考えて、判断して、その後で行動する、そういう子どもに育っていくのだと思います。
そのためには、まずセルフ・コントロール、自制心を養うことが大事です。
以前、NHKで、アメリカの少年刑務所に入っている十五歳の少年を追ったスペシャル番組が放映されました。
その少年は、生まれた家が崩壊家庭で、友だちもワルばかり、教師や大人たちの中に、自分の良いモデルとなる人を見つけることができないまま悪の道に走り、少年刑務所に入れられました。ところがこの少年は、なんとかしてまともな人間になりたいという気持ちを抱いていたのです。
そんなある日、施設に働きに行った時に、ホームレスのおじさんが彼に話しかけました。おそらく、ふだんからその少年を見ていて、心にかけていたのでしょう。少年に向かって、「おまえは今まで、思うままにならないことや人とぶつかった時に、すぐに行動して、それから感じて、それから考える、そういう順序をとったのかい?それとも、その反対で生きてきたのかい?」と尋ねたのだそうです。
少年が「おじさん、僕は最初のほうだと思う。すぐに行動、それから感じて、それから考えた」と答えると、ホームレスのおじさんは言ったそうです。「だからおまえはここにいるんだ。これからは、その反対の順序でやってごらん。まず考える、次に感じる、それから行動する」と。
それからその少年は、物事にぶつかった時に、すぐに手を出すのではなく、口を出すのではなく心を落ち着かせて考え、次に、その行動をとったり、その言葉を言ったら自分はどういう気持ちになるか、相手はどんな気持ちになるかを感じて後に、行動するようになったそうです。そしてその結果として、少年はまともな大人になることができたという内容でした。
日々の行動に自制心を働かせることができること、これは「知性」の大事な一要素であり、他の動物が持っていない思考力と自由意志を与えられている人間の人間らしさと言ってよいでしょう。
愛と祈りで子どもは育つ 渡辺和子 初版 2006年5月
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一人格として生きるために
文明の利器は、たしかに「便利」「安楽」「スピード」をもたらしましたが、その反面、人間から「待つこと」「耐えること」「静かに考えること」といった習性を奪ってしまったかのように思えます。
数年前、NHKがスペシャル番組として、一人のアメリカ人の少年について放映しました。崩壊家庭に生まれ育ち、友人といえば、いわゆるワルばかり。かくて自らも非行に走って刑に服している十五歳の少年の話でした。
彼は刑期を終えたら、今度こそは”まともな”生活を送りたいと考えているのですが、その方法がわからない。そんなある日、一人のホームレスが彼の働いている作業場に来て話しかけます。
「おまえは、何かにぶつかった時、反射的に行動し、それから感じ、それから考えるという順序で生きてきたのか?それともその逆の順序だったのかい?」
いわれた通りの順序だったと答える少年に、ホームレスがいいました。
「だからお前は、今ここにいるのさ。これからは、逆の順序でやってみな」
この時から少年の、自分自身との戦いが始まりました。どんな相手や物事に対しても、まず考え、次に感じ、しかる後に行動する―― 失敗を重ねながらも、この順序を繰り返すことによって、少年はやがて“まともな”道を歩む人間に変わっていったという話でした。
実はこの、まず考えるということ、次に感じる余裕を持ち、その後に行動するという順序こそが、「一人格」としての生き方なのです。ローマのカトリック教育省が出した小冊子は、次のように明記しています。「カトリック学校は、一人格になるための、また人格としての人間のための学校であることを、その根本としている。・・・・・・人間が人格になってゆくことが、カトリック学校の目標なのである」
まず考え、次に感じ、その後に行動する。
考えるということは、自分と対話すること。
自分自身に語りかけ、次の行動を決めなさい。
置かれた場所で咲きなさい 渡辺和子 第一刷 2012年4月25日 第69刷 2015年12月20日
楠本憲吉という俳人がおっしゃったことですが、「女の人は一にも、二にも、三にも美しくあってほしい。美しくあるために必要なものは三つ、知性と雅性と安定性だ」。
「知性」の持ち主とは、知識を豊富に持つ人、学歴の高い人のことではありません。よく考えて判断し、行動できる人、教養がある人と言ってもいいでしょう。冷静に物事を判断し、しかる後に行動に移せる一人格の姿です。
このような大人の姿を見て、子どもたちも反射的ではなく、まず考えて、判断して、その後で行動する、そういう子どもに育っていくのだと思います。
そのためには、まずセルフ・コントロール、自制心を養うことが大事です。
以前、NHKで、アメリカの少年刑務所に入っている十五歳の少年を追ったスペシャル番組が放映されました。
その少年は、生まれた家が崩壊家庭で、友だちもワルばかり、教師や大人たちの中に、自分の良いモデルとなる人を見つけることができないまま悪の道に走り、少年刑務所に入れられました。ところがこの少年は、なんとかしてまともな人間になりたいという気持ちを抱いていたのです。
そんなある日、施設に働きに行った時に、ホームレスのおじさんが彼に話しかけました。おそらく、ふだんからその少年を見ていて、心にかけていたのでしょう。少年に向かって、「おまえは今まで、思うままにならないことや人とぶつかった時に、すぐに行動して、それから感じて、それから考える、そういう順序をとったのかい?それとも、その反対で生きてきたのかい?」と尋ねたのだそうです。
少年が「おじさん、僕は最初のほうだと思う。すぐに行動、それから感じて、それから考えた」と答えると、ホームレスのおじさんは言ったそうです。「だからおまえはここにいるんだ。これからは、その反対の順序でやってごらん。まず考える、次に感じる、それから行動する」と。
それからその少年は、物事にぶつかった時に、すぐに手を出すのではなく、口を出すのではなく心を落ち着かせて考え、次に、その行動をとったり、その言葉を言ったら自分はどういう気持ちになるか、相手はどんな気持ちになるかを感じて後に、行動するようになったそうです。そしてその結果として、少年はまともな大人になることができたという内容でした。
日々の行動に自制心を働かせることができること、これは「知性」の大事な一要素であり、他の動物が持っていない思考力と自由意志を与えられている人間の人間らしさと言ってよいでしょう。
愛と祈りで子どもは育つ 渡辺和子 初版 2006年5月
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一人格として生きるために
文明の利器は、たしかに「便利」「安楽」「スピード」をもたらしましたが、その反面、人間から「待つこと」「耐えること」「静かに考えること」といった習性を奪ってしまったかのように思えます。
数年前、NHKがスペシャル番組として、一人のアメリカ人の少年について放映しました。崩壊家庭に生まれ育ち、友人といえば、いわゆるワルばかり。かくて自らも非行に走って刑に服している十五歳の少年の話でした。
彼は刑期を終えたら、今度こそは”まともな”生活を送りたいと考えているのですが、その方法がわからない。そんなある日、一人のホームレスが彼の働いている作業場に来て話しかけます。
「おまえは、何かにぶつかった時、反射的に行動し、それから感じ、それから考えるという順序で生きてきたのか?それともその逆の順序だったのかい?」
いわれた通りの順序だったと答える少年に、ホームレスがいいました。
「だからお前は、今ここにいるのさ。これからは、逆の順序でやってみな」
この時から少年の、自分自身との戦いが始まりました。どんな相手や物事に対しても、まず考え、次に感じ、しかる後に行動する―― 失敗を重ねながらも、この順序を繰り返すことによって、少年はやがて“まともな”道を歩む人間に変わっていったという話でした。
実はこの、まず考えるということ、次に感じる余裕を持ち、その後に行動するという順序こそが、「一人格」としての生き方なのです。ローマのカトリック教育省が出した小冊子は、次のように明記しています。「カトリック学校は、一人格になるための、また人格としての人間のための学校であることを、その根本としている。・・・・・・人間が人格になってゆくことが、カトリック学校の目標なのである」
まず考え、次に感じ、その後に行動する。
考えるということは、自分と対話すること。
自分自身に語りかけ、次の行動を決めなさい。
置かれた場所で咲きなさい 渡辺和子 第一刷 2012年4月25日 第69刷 2015年12月20日