岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

短歌・日本語・斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・社会・歴史について考える

学際的研究が注目を浴びている(斎藤茂吉は「博学」だったが)

2011年08月26日 23時59分59秒 | 大学の学問と僕の文芸
岡井隆はこう言う。「キリスト教とマルクス主義。このふたつが自分に大きく影響している。」(岡井隆著「私の戦後短歌史」)また「戦争について発言するなら、クラウゼビッツの< 戦争論 >は読んだのだろうね、と言われ読んだことがあった。」(同「僕の交友録」)岡井隆らが近藤芳美の周囲に集まったのも「マルクスに関してもきちんと読んでいる。だからトロツキーの話もできる」からだという。(「私の戦後短歌史」)近藤の思想的なことは< カテゴリー「短歌史の考察・近藤芳美の代表歌集」参照。

 また斎藤茂吉はこう言う。「日本語訳の聖書は、漢訳聖書を参考してゐろから、沢山の漢語が入ってゐる。それを出来るだけ大和言葉的声調の中に溶け込ませてゐるのは、大いに注意すべきことであり・・・」(岩波文庫「斎藤茂吉歌論集」)他にマルクスの著作もドイツ語の原文で読んだそうだ。

 目的と考え方はまるっきり違うが、読書の幅が広いのには驚かされる。(岡井隆はマルキスト=マルクス主義者であったと自ら言っているが、斎藤茂吉はマルクス主義に対し嫌悪感を隠さない。) 

さて僕の卒業した東洋文化専攻というのは不思議な専攻だった。在学中、僕が受けた授業は「現代思想」「日本近代史」「東洋史特論(朝鮮史)」「中国社会経済史」「インド文化史」「日本演劇史」「インド文化史」「東洋思想(孟子)」「日本史概論(古代史)」「日本中世法制史」「現代思想」・・・。まるで脈絡がない。

 学生もとまどっていたらしく「東洋文化とは何か」が専攻合宿の討論会のテーマの定番だった。結局、結論のでないまま卒業する学生が多かった。僕もその一人だった。

 専攻設置の目的は狭い学問分野に限定されずに「学際的分野」を学ぶということだったが、教授のほうも自分の専門分野の講義をするばかり。結局、日本史専攻・東洋史専攻・東洋哲学専攻の講座が横並びになっているだけと、学生のフラストレーションは高まるばかりだった。僕もそのまま卒業した。

 だが、その後数年して気がついた。

「学生の方から積極的にその条件を活かすべきだった。」

学際的研究(複数の学問分野にまたがる研究)とはそうして作られていくものではないか、と。


 それから35年。複数の学問分野の協力による画期的発見があった。恐竜絶滅の原因がほぼ確定したのだ。結論だけ言うと、現在のメキシコ湾付近に衝突した巨大隕石の影響で地球規模の環境の劇的変化が短期間に起こったのが原因だった。

 長年の謎だった「恐竜絶滅の原因」解明は、古生物学者・地質学者・気象学者・宇宙物理学者・津波学者の共同研究の成果だったという。


 地震災害の研究も、今回の震災を機に変化の兆しがある。地震学者・津波研究者・地質学者のほかに、文献学・歴史考証学の成果が取り入れられ始めたのだ。きっかけは、今回の「想定外」の高さに匹敵する津波が1000年前の「貞願地震」のときにあったことが確認されたのだ。

 地震の研究は、ここ200年ほどの期間で起こった地震の記録をもとに行われていた。だが45億年の地球の歴史からみれば、200年などほとんど「一瞬」に近い。少なくとも1000年はさかのぼって文献を確認する必要がある。それに地質学の研究を加えて1000年に一回の大津波が数回あったとが宮城県沿岸で確認された。そういうことを集めれば、10000年はさかのぼれる。日本列島が形成されたのが、そのころだから研究は格段に進むだろう。さらに今まで注目されなかった断層も活断層として注目され始めた。これは「ない」とされてきた活断層が福島第1原発の付近に確認されたことがきっかけだと聞いた。

 原発の立地はさらに難しくなるが、そうなら「エネルギーシフト」が必要になろう。(カテゴリー「身辺雑感」参照)。


 さて僕の場合に戻る。学生時代に様々な学問の入口に立ったことによって、「近代短歌」の見方に厚みができていると感じている。

 また斎藤茂吉は「詩人であり、さらに思想家であるほうがいい。」と述べているが、日本近代史(さいわいにアジア諸国のがわからも見られる)の把握の仕方に「僕の思想」があらわれていると思う。「歴史に関するコラム」がそれだ。

 大学時代の恩師に年賀状を書くときこう書けるようになった。

「ようやく大学時代に学んだことと、自分のやっていることがつながりました。」

 機会があれば何でも学んでおくべきだということだろう。それが短歌作品や評論の糧となる。(カテゴリー「短歌の周辺」の「歌人の本棚」参照)





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