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書評:「南京事件」岩波新書 笠原十九司著

2014年05月09日 23時59分59秒 | 書評(政治経済、歴史、自然科学)
「南京事件」岩波新書 笠原十九司著

 本書の著者笠原十九司は、「南京事件をどう見るか」(国際シンポジウムの報告書)のなかで、事件の実相を報告している研究者である。

 本書の特徴は、三つほどある。

1、事件の実相を具体的に解明していること。この内容は国際シンポジウムで報告されたもの。日米中の三国の研究者たちが、承認した内容だ。史料から確定できる内容でけでなく、従軍した、日本兵の従軍日誌や聞き書きからの情報の視野に入れている。多面的に分析しているので、説得力がある。


2、事件へいたる過程や背景も叙述されている。日本兵がなぜあのような残虐行為に及んだのか、そこが納得できる。具体的には、旧日本陸軍と、旧日本海軍の功名争いなども紹介されている。


3、従軍した兵士の陣中記などには、かなりの異同がある。「虐殺」を認めたものがある一方、「虐殺」を否定するものもある。そこが論争の原因になっている。しかし本書では、そのことも解明されている。当時の南京攻略には、陸軍だけで20を超える連隊が加わっている。新たに内地から派遣された部隊もあれば、中国を転戦して南京に派遣された部隊もある。

 このうち残虐行為に関わったのは、中国を転戦してきた部隊だということが、論証されている。つまり、内地に帰還できるはずだった部隊が、南京に派遣され、その不満が残虐行為に結びついた。一方、内地より直接派遣された部隊は残虐行為にはおよばなかった。


 このように、事件の構図を全面的に明らかにしている。岩波新書は手に入れやすい。この事件についての、恰好な著作である。

 なお事件については「南京の日本軍」(大月書店刊 藤原彰著)も参考になる。藤原は、国際シンポジウムで、「序」を述べた研究者だ。

 このブログの記事は、ツイッターとフェイスブックに連動している。ツイートしたところ、先に紹介した「南京事件をどう見るか」を読んでみたいという声があった。前著に比べて入手しやすいのが、最大の特徴だろう。




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